表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

神様と『ツノ』

読んで頂きありがとうございます(*'▽'*)

 柔らかな陽射しがちらちらと顔にあたる。

 私のことを誰かが呼んでいるような声がした。


「……んぅ、もう少し……」


 寝惚けながら、少しだけ抗ってみる。

 体が包まれるような感触と温かさが心地よかったから、もう少し寝ていたかった。


「ほら、そろそろ起きろ……」


 掠れた低い声が優しい。

 まだ眠いのに……と、口の中でもごもごと文句を言いながら目をこすると、男の人の胸板が見えた。

 夢の中で会った人と同じで、肌が白く透き通っているようで綺麗だった。


「あれ……夢……? もしかして……夢の続き?」

「それは駄目だと言っただろう?」

「え……?」


 目の前にある引き締まった身体を触ろうとしたら、手を捕まれてしまった。

 怖ず怖ずと、視線をあげて驚いてしまう。


「か、神様!?」

「そうだ。ようやく目が覚めたか」

「え、そ、添い寝? 違う違う。そうじゃなくて。え、でも、あれ? え……?」


 な、何だか、神様が少し若くなったような?

 私の知っている神様はもっと、大人の色気があってかっこよくて……って、あれ?


「どうして神様が……? それに体が……」

「ああ。俺もお前の転生と共に転移したが、そのときに力を使いすぎてしまったようでな。しばらくはこの体のままだ」

「ともに転移……? 転生……って、わ、私の体は……!?」


 ガバッと飛び起きて、自分の体を確認する。

 手よし、足よし。胸よ……胸がある! しかも腐ってないし、声も出る……!


「神様、ありがとうございます! 私、人間に転生できたんですね!!」

「ああ……鏡もある。ほら、確認してみろ」


 得意気に微笑む神様の、屈託のない笑顔は心臓に悪かった。

 ドキドキする胸を抑えて、神様から鏡を受け取る。


 鏡を見るのは久しぶりだった。

 ついに人間に生まれ変われたんだと思う反面、どんな風に生まれ変われたのかと緊張してしまった。


 だけど、と思い直す。

 普通の人間になれただけで、嬉しいことなんだ。多くは望まないようにしよう。


 なるようになれ! と気合いを入れて鏡を見た瞬間、映った顔に驚いてしまった。


 ふわふわした黒く長い髪の毛に、愛らしく丸い大きな目。キラキラと光り輝く瞳は赤い宝石のようだった。額には二本小さな(つの)が生えていたけど、顔立ちは人形のようで随分可愛らしい。


 ――ん? ……ツノ? 人間なのに……?


「それに……この顔どこかで……」

「気に入っただろう? 弟が好ましく思っている人間で、この世界で一番力のある人間だ」


 にこにこと笑う神様を見て、そうだったなと思い出した。

 この顔は、前世で弟が「ぎゃー! ルミナス様、可愛い! バンザーイ!」と言っていたゲームのキャラ。


 私の顔は、このゲームの魔王『ルミナス』のものだった。


 ――いや、私も可愛いなって思ってたけど……魔王って人間のくくりに入るの……?


 もしかしてと思い、辺りを見回す。

 ルミナスの髪と瞳の色でまとめられた荘厳な部屋に重厚な家具。ベッドには天蓋用のカーテンがついている。

 一目見れば『素敵……』と思ってしまうような部屋は、そうはならない理由があった。


 ところどころに蜘蛛の巣が張り巡らされていて気持ち悪いし、屋根の隙間から光が差し込むと、埃が舞っているのがよくわかる。

 棚に置かれていたであろう花瓶は、割れていたり転がっていたりと散々だ。


 この薄暗く凄惨な部屋は、確かに私が前世のゲームで見たものだったのだ。

 ただし、あの時の私はゲームのプレイヤーで勇者だった。ルミナスという敵を倒すために、レベルを上げてここの屋敷まで来た。ということは……


「もしかしなくても、私……またゲームの……敵キャラなの……?」


 ――じゃあ、私は……勇者に殺される運命じゃないの……。


 そう思ったら気が遠くなっていく。

 私は神様に普通を望んだはずなのに、またゲームの中に転生して、また勇者に倒される敵キャラ……何これ。これが贈り物……なの?

 薄れゆく意識の中「しっかりしろ」と言う神様に、何も伝わってなかったのだと絶望した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ