神様と『ツノ』
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柔らかな陽射しがちらちらと顔にあたる。
私のことを誰かが呼んでいるような声がした。
「……んぅ、もう少し……」
寝惚けながら、少しだけ抗ってみる。
体が包まれるような感触と温かさが心地よかったから、もう少し寝ていたかった。
「ほら、そろそろ起きろ……」
掠れた低い声が優しい。
まだ眠いのに……と、口の中でもごもごと文句を言いながら目をこすると、男の人の胸板が見えた。
夢の中で会った人と同じで、肌が白く透き通っているようで綺麗だった。
「あれ……夢……? もしかして……夢の続き?」
「それは駄目だと言っただろう?」
「え……?」
目の前にある引き締まった身体を触ろうとしたら、手を捕まれてしまった。
怖ず怖ずと、視線をあげて驚いてしまう。
「か、神様!?」
「そうだ。ようやく目が覚めたか」
「え、そ、添い寝? 違う違う。そうじゃなくて。え、でも、あれ? え……?」
な、何だか、神様が少し若くなったような?
私の知っている神様はもっと、大人の色気があってかっこよくて……って、あれ?
「どうして神様が……? それに体が……」
「ああ。俺もお前の転生と共に転移したが、そのときに力を使いすぎてしまったようでな。しばらくはこの体のままだ」
「ともに転移……? 転生……って、わ、私の体は……!?」
ガバッと飛び起きて、自分の体を確認する。
手よし、足よし。胸よ……胸がある! しかも腐ってないし、声も出る……!
「神様、ありがとうございます! 私、人間に転生できたんですね!!」
「ああ……鏡もある。ほら、確認してみろ」
得意気に微笑む神様の、屈託のない笑顔は心臓に悪かった。
ドキドキする胸を抑えて、神様から鏡を受け取る。
鏡を見るのは久しぶりだった。
ついに人間に生まれ変われたんだと思う反面、どんな風に生まれ変われたのかと緊張してしまった。
だけど、と思い直す。
普通の人間になれただけで、嬉しいことなんだ。多くは望まないようにしよう。
なるようになれ! と気合いを入れて鏡を見た瞬間、映った顔に驚いてしまった。
ふわふわした黒く長い髪の毛に、愛らしく丸い大きな目。キラキラと光り輝く瞳は赤い宝石のようだった。額には二本小さな角が生えていたけど、顔立ちは人形のようで随分可愛らしい。
――ん? ……ツノ? 人間なのに……?
「それに……この顔どこかで……」
「気に入っただろう? 弟が好ましく思っている人間で、この世界で一番力のある人間だ」
にこにこと笑う神様を見て、そうだったなと思い出した。
この顔は、前世で弟が「ぎゃー! ルミナス様、可愛い! バンザーイ!」と言っていたゲームのキャラ。
私の顔は、このゲームの魔王『ルミナス』のものだった。
――いや、私も可愛いなって思ってたけど……魔王って人間のくくりに入るの……?
もしかしてと思い、辺りを見回す。
ルミナスの髪と瞳の色でまとめられた荘厳な部屋に重厚な家具。ベッドには天蓋用のカーテンがついている。
一目見れば『素敵……』と思ってしまうような部屋は、そうはならない理由があった。
ところどころに蜘蛛の巣が張り巡らされていて気持ち悪いし、屋根の隙間から光が差し込むと、埃が舞っているのがよくわかる。
棚に置かれていたであろう花瓶は、割れていたり転がっていたりと散々だ。
この薄暗く凄惨な部屋は、確かに私が前世のゲームで見たものだったのだ。
ただし、あの時の私はゲームのプレイヤーで勇者だった。ルミナスという敵を倒すために、レベルを上げてここの屋敷まで来た。ということは……
「もしかしなくても、私……またゲームの……敵キャラなの……?」
――じゃあ、私は……勇者に殺される運命じゃないの……。
そう思ったら気が遠くなっていく。
私は神様に普通を望んだはずなのに、またゲームの中に転生して、また勇者に倒される敵キャラ……何これ。これが贈り物……なの?
薄れゆく意識の中「しっかりしろ」と言う神様に、何も伝わってなかったのだと絶望した。