神様との再会
真っ白な世界。一切の色彩を持たない白い世界。
目の前に赤い眼の彼がいなければ、気が狂ってしまいそうな白さだった。
「……久しいな」
あ……か、み……さま?
「そうだ。プリンとやらは気に入らなかったようだな……」
あれは……違うんですよ。神様。
「そうなのか……? 弟とやらの記憶を参考にしたんだが……」
ガッカリしたように顔を歪める神様に「すまなかったな」と謝られてしまう。その顔を見て、私は何とも言えない気持ちになった。
間違った先に転生してしまったのは、元はと言えば私が『なりたいものはない』と言ったせいだった。
あの時、ちゃんとした答えを私が用意できていたら、何かが違っていたんだろうか……。
私が考え込んでいると、神様に「何かなりたいものはあるか?」と最初と同じ質問をされた。
転生する前は何も思い浮かばなかったその質問に、私は今度こそ答えられそうだった。もしかしたら神様は、このために私をモンスターに転生させてくれていたのかもしれない。
「私のなりたいものが何なのか、わかった気がするんです」
「言ってみろ。お前には……悪いことをしてしまった。俺に出来ることなら何でも叶えてやる」
「ありがとうございます、神様。もう一度やり直せるなら……私は……」
今までの私は、なりたいものなんてないって思ってた。
でもそれは、人間として不自由のない生活ができてたからだって、生まれ変わってようやくわかった。
誰ともわかり合えなくて、何度も何度も死んで……そんなのはもう嫌だった。
私は、スライムでもゾンビでも、ドラゴンでもない。
「私は普通の人間になりたいです」
「……お前は普通を望むのか?」
「はい。普通って結構凄いことだって気づいたんです」
――それに……転生してからずっと寂しかった。……一人はもう嫌だ。
気持ちを押し込めて私が笑うと、神様は苦しそうに眉をひそめた。
「お前は俺を責めないのだな……。俺の手違いで、何度も……何度も殺されたというのに……お前の心は綺麗なままだ」
「そ、そんなことはないです! 私は、欲張りだしわがままですよ。手も足も欲しかったし、私を殺した彼等を憎みました」
「だが、お前はやり返さなかった。圧倒的な力も持たせたというのに」
「それは、私が嫌だっただけですから」
私は復讐したいと願ったから手足が必要だった。スライムの時から、勇者達を憎む気持ちが少なからずともあった。
手を出さなかったのは、直前で恐くなってしまっただけだ。
はっきりと答える私に、神様は困ったように笑んだ。
「お前の転生に俺が関われるのは、これが最後になるだろう」
「はい、わかりました」
「お前は普通でいいと言った。だが……俺からの、贈り物だと思って受け取ってほしい」
「え……何をですか?」
「生まれ変わってみればわかる」
それしか言わずに穏やかに微笑んだ神様の顔が、今まで見た中で一番清々しかったのは何故なんだろう。
憑きものが落ちたような表情に、少しだけ不安になった。
「不安にならなくても大丈夫だ。最後に言いたいことはあるか?」
最後……。これが最後なら言いたいことがある。
ねえ、神様……
「色々、ありがとうございます」
「……間違えた先に転生させたのに、か?」
「はい、だって……元はと言えば、私がなりたいものがないっていったからですし。
それに、神様はきっと、私を見守ってくれていたんですよね? あの時……神様が痛みをなくしてくれなかったら、私はおかしくなっていたかもしれないですから」
「お前は、本当に……」
「あ、あと! 最後なら、やっぱり神様の髪の毛を触りたかったです」
へらへらと笑う私に、神様は「大丈夫だ……直に……」と言っていた。
最後まで聞き取れなかったけど、私のことを励ましてくれたんだろうと思った。
まだ、名前すら知らない神様のことを不思議と憎めないのは、神様が寂しそうに笑うからだろうか?
薄れゆく意識の中、もう会うこともないだろう神様を思った。