今度はゾンビにミニドラゴン
もしかしたら繰り返される惨劇に、神様が私をいじらしく思ってくれたのかもしれない。
次に目が覚めたときは驚いた。
「ふあっ! 腕も足もあるじゃない!」
――ついに! ついにこの日がやってきたのだ……!!
私はスライム以外に生まれ変わった。身に着けていたであろう衣服はボロボロに破けているし、手も足も身体の至る所が腐っている。コイツはきっとゾンビだ。
多くは望まない。神様よ、何故腐らせた……等とはこの際言わないことにしておく。
手始めに、その辺の木の枝を拾ってぶんぶんと振り回してみる。
「腕がある喜び……! 足で駆ける爽快感……!」
声と同じくして「フゴッ! フゴゴー!」と唸り声があがるが気にしないことにした。
嬉しくなって夢中になってそのまま振り回していると、木の枝を落としてしまった。
拾おうとすると、背中に鈍い衝撃が走る。
――あ、またこのパターン……。でも……!
だけど、私は意識を失わなかった。奮然として敵に立ち向かおうとすると、頭に異物が刺さった。
――くっ……敵が多すぎる。
そこで意識を失った。
次に起きた時は今まであった、土を踏みしめてる感覚がなかった。
私は恐る恐る足下を確認して驚愕した。
「何これ! 飛べるようになってるじゃない!」
私が叫ぶと口から「ゴギャー」と火が出た。
周りに見える木から推測すると、私の身長は前回より小さかったけど、左右を見ると大きな羽が生えていた。
腕を動かそうとすると、羽がパタパタと動いて可愛かった。
火が吹けて、空まで飛べる。前世の知識から選び出した私の答えは、ミニドラゴンだった。
未だかつてないほどの強さじゃないのか、もしや!
空を飛べる自由な翼もある! まさに無敵。
スライム人生が長かった私にとって、ドラゴンとは神に等しい生き物だった。
神様、本当にありがとうございます!
「くくく……ついにこの時が来たわ。あいつらを真っ黒焦げにしてやる。見てなさい!」
ふふふふ、はーっはっはっは! と、私が悪役も真っ青な高笑いをすると木々が燃え上がった。
……これはまずい。調子に乗ったら森が消える。戦う場所に気をつけよう……。
とりあえず広い場所を探そうと飛ぶと、『ズドンッ!』という音がする。
もしかしてと音がした場所を確認すると、たった今まで私が居た位置に矢が刺さっていた。
それを見て後ろを振り返ると、黒髪の青年が見えた。矢を射った青年は見えなかったから何処かに隠れているのかもしれない。
……何でこうタイミング良く現れるのかな。もしかして私に発信器でもついてる?
そうやって勘ぐりたくなるほど、転生を繰り返す度に対敵していた。しかも、直後と言っても過言ではない。
何で……。何で味方に会うより敵に会うほうが早いの?
大体、他のモンスターは一体何処?
何度も何度も殺されているけど、私は自分以外のモンスターを見かけたことがなかったのだ。
もしかして、私が勇者に狩られるのが早い?
いやいや、そ、そんなことは! あるのか……?
次に生まれ変われたら、今度は味方を探してみよう! と思い、その弱気を振り払う。
待て待て。弱気になるのはまだ早いはず。
相手は三人いるけど、木の矢に木の剣。対する私は身体は小さいけどドラゴンだ。
火を吹けば私の勝ちなのでは……!?
今までの勇者に負けた記憶が、どんどん湧き出てくる。
それと一緒に思い出す。記憶を失う前に必ず見る顔。
幼い顔だちが、少しずつ凛々しくなっていくのを見てきた。
ゲームの勇者に選ばれるだけあって、意志の強そうな深みのある濃い青の瞳に、端整な顔立ち。
私を殺すときのあの無表情を……今度こそ変えられるかもしれない。
って、違う。集中しなきゃ。
先ずは飛び道具を使うあいつからだ。矢尻を探そう。
どこに居るんだ、私の仇……空から見下ろしてやる。
近くに居ると攻撃がくるかもしれないと懸念した私は、空に飛び上がった。滑空していると、光の反射からかキラリと銀の光が見える。あれが、多分矢尻だろう。
ドラゴンに転生してから格段に良くなった目のおかげで、私は空からでも相手の場所が何となくわかった。
ドラゴン最高である。
「見つけた! 木の陰に隠れられてると思ったら大間違いよ!」
その瞬間、声と同時に「ゴガー」と火を吹く自分の身体に、躊躇してしまった。
……もし私が火を吹いたら森が燃えてしまう、よね。
それだけじゃない。もし火が勇者達に当たったら? 当たらなくても火の手が広がって逃げられなかったら……。
私は痛くない、はず。でも、彼らはきっとすごく痛い。
死ぬのは私も怖い。でも、傷つけるのも怖い。
どうしたらいいんだろう。
駄目だ。力があっても駄目。
翼があっても、火が吹けても、私には勇者達を倒すことなんてできない。
攻撃できないんじゃ、どうしようもないじゃないの……。
ふと意識を下へ向けると、淡く光っている場所がある。
「あ、そうだ……」
魔法を使えるやつもいたんだっけな……とそこで意識が途切れた。