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人間だから

 聞こえてきた言葉が、想像したものとあまりにも違いすぎて呆然としてしまう。


 今のは聞き間違いだろうか? まさか普通に焦がれすぎて幻聴まで聞こえるようになった?

 いや、でも今の言葉が本当なら、神様は私の姿を変えてやるって言ってたような……。

 そこまで考えてはっと目が覚めるような気持ちになる。 


 ――もしかして、私はこれから普通の生活が送れるんじゃないの?


「どうした? 気に入らないのか?」

「い、いいえ! ただ実感がわかなくて……」

「ふむ。望む者になれるのであれば、お前が喜ぶと思ったのだが……」


 窺うように顔を傾げる神様に、まだ半信半疑だったけど、夢のような提案に胸が高鳴ったのも事実だった。

 思えば今まで本当に長かった。神様の勘違いで、何度も何度もスライムの生を与えられて、与えられる度に勇者の手で殺され続けた。復讐を誓った私は、ゾンビやドラゴンも経験したけど結果は同じだった。


 ――そして、私はまたもや神様の勘違いで魔王に……


 でもそれが、今! まさに今、終わりを告げようとしているのだ! ようやく普通の人間としての生活ができるかもしれない。誰からも命を狙われない。執拗に追われることのない。そんな平和な暮らしができるのかもしれない。


 ――だけど、神様は「任せておけ」と言ったよね。


 何となく、今までの経験から神様のその言葉を信じられなかった。もしかしたら普通になることで、何かデメリットがあるのかもしれない。角がなくなる代わりに、翼が生えるとか。か、体が徐々に腐るとか。

 それに私にだけじゃない。神様の体にもよくないことが起きるかもしれない。その時は残念だけど、この案は聞かなかったことにしよう。

 そう決意して神様に向き直ると、神様も姿勢を正して真剣に聞こうとしてくれる。


「神様は本当に私の角と目の色を変えられるんですか?」

「ああ。お前は元々、人間だからな。元に戻すことくらい俺にもできる」


 ――ん? 元に戻すって?


 神様のその言い方に少し引っかかった。

 もしかして見た目も前世の普通だった私に戻るんだろうか。そしたら名前も一緒に思い出せるかもしれない。

 でも、ルミナスとしての容姿を失うのは残念だった。可愛かったのになと思いつつ、当初聞こうとしていた話を続ける。


「それは神様の負担になったりはしないんですか?」

「大丈夫だ。何の心配も要らない」

「じゃあ身体が変わることで、何か私達に不利益なことが起こったりは……?」

「そうだな。お前の体は元々寿命が長く、力もある。だが、普通の人間に戻せばそれが無くなってしまうかもしれぬな……」

「な……」


 なんてこった。本当にそれだけ? それだけで私の目の色も角もなくなるなんて……!!

 そもそも寿命も力も、今のところ自分ではよくわからない。神様は転生させてくれた時に、『この世界で一番力を持つ人間』と言っていたけど、自覚ができない力には意味がなかった。


 ――だけど一体、魔王には何ができるんだろう?


 あの時、弟と一緒にルミナスを攻略していれば、ルミナスが持つ力だって、エンディングがどうなるかだってわかったはずなのに。

 それだけが悔やまれるところだった。


「やはりお前も力が無くなるのは嫌だったか?」


 眉をひそめてこちらを窺う神様に「やめておくべきか」と聞こえて慌てて首をふる。


「そんな、とんでもないです。むしろありがとうございます!! ようやく私も普通の人間になれるんですね!」

「ああ。その……お前は嬉しいか?」

「はい! もちろんです」

「そうか。お前が嬉しいと俺も嬉しい」


 ふんわりと柔らかな笑みを浮かべた神様は、「だが……」と一つ咳払いをすると注意点を教えてくれた。

 まずは、神様の力が戻らないと私の身体を変えられないと言うこと。もう一つは、魔王から人間の体に戻すのは、徐々に行うということ。急に変えてしまうと、体が耐えられず壊れてしまうかもしれないからということだった。


「時間がかかってしまうがよいか?」

「もちろんです。具体的にはどのくらいかかるんでしょうか?」

「……俺の力が戻るには十日前後だな。お前の体を慣らす為に一月(ひとつき)近くはかかると思うが……」


 一月かかると聞いて、黒髪の青年が脳裏によぎる。ルミナスの記憶を思い出してからは、その黒が、以前よりも頭にこびりついて離れない。それが恐怖だけから来る感情なのか、違うものなのか、今の私にはわからなかった。

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