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触ってもいいですか?

『姉ちゃん、姉ちゃん!!』

『んー? もう、うるさいなー』


 まだ寝ていたかったのに……。うんうんと唸る私に弟はしつこかった。


『姉ちゃん、あのゲームクリアーしたらルミナス様がああ!!』

『え!? 一人でクリアーしちゃったの!? 最後は一緒にやろうねって言ったのに!

 ……って、何で泣いてるのよ?』


 その言葉で飛び起きた私は、弟の様子を見て驚いた。

 涙を流している目は血走っているし、鼻は真っ赤だ。弟は夜通しゲームをやっていたんだろうか。目の下にはクマもできていた。


『全く……しょうがないな』


 仕方が無いから慰めてあげようと、弟をベッドに座らせる。隣に座って背中を撫でながらティッシュを渡してやると、弟は鼻を思いっきりかんだ。

 その様子を見ていたら何だか私も胸が苦しくなって、少しだけ泣きそうになってしまう。


 ――懐かしい……。


 そう思った瞬間、これが夢だとわかってしまった。

 私の大好きな弟。これはもう戻れない私の前世の記憶だ。それなら……もう少しだけ弟と一緒に居たい。


 ――あの時の弟は……何で泣いてたんだっけ?


 背中をさすりながら、弟に話を促すと『だって、ルミナス様が死んじゃった!! 可哀相すぎる!!』としゃくりをあげながら話している。


 全くもう。自分で倒したのに何で泣いてるのよ。呆れながらも弟の話の続きを聞こうとすると、誰かが私を呼ぶ声がした。


「起きてくれ……頼む……」


 掠れた優しい声が震えているような気がする。懇願するような声に、意識がはっきりとするように戻らなきゃいけないと強く思った。


 ――そうだ。私の居場所はもうここにはないんだ。


 まだ弟と全然話せてない。あの日の朝も結局、弟の話を聞けなかった。それでも私は、神様を放ってはおけなかった。

 勇者がいるのにお菓子に夢中になるんだもんなあ……と、その様子を思い出して口がほころんでしまう。


『ほら、泣いてないで早く学校の支度をしなさい! 話は後で聞いてあげるから。朝練に遅れちゃうわよ?』

『ほんとだ!! やばい!! 姉ちゃんも早くしないと!』


 焦って支度をしにいく弟を見て微笑んでしまう。

 私がその様子をぼーっと眺めていると、部屋を出ようとした弟がちらりとこちらを見た。


『姉ちゃんが仕事から帰ってきたら、話の続き……ちゃんと聞いてくれよ?』


 口を尖らせて言う弟に、心の中で『ごめんね』と言った。あの日、私は車に轢かれて死んでしまった。弟の話を聞くことは……永遠に出来なくなってしまったのだ。


 ――約束守れなくて……本当にごめん。


 夢の中の弟にもう一度だけ謝って、神様の元へ戻ろうと目を開けようとする。それなのに瞼が重たくて……なかなか起きられない。


「大丈夫だ、お前を傷つける者はここにはいない。だから、目を開けてくれ」


 声と一緒にぽたぽたと冷たいものが顔に落ちてくる。


 ――何だろう? 雨?


 それを手で触ろうとして、ずきっとした痛みで目が覚めた。薄っすらと目を開けると、白くぼやけた視界に赤い瞳が映る。


「あ……か……みさま?」

「そうだ。……ようやく起きたか」

「ない……ている……の?」

「泣いている……? 俺が?」


 苦しそうに眉を寄せていた神様は、私の言葉で何故か驚いたようだった。それでもぽろぽろと流れる涙に、泣くほど心配させてしまったんだと胸が苦しくなった。


「か、みさま……さわっ……ていい……ですか?」


 少しの沈黙の後、神様は一度だけ頷いてくれた。

 手を動かすとお腹の辺りが痛んだけど、神様の背中をさすってあげた。そんなに悲しい顔をしなくても大丈夫だって、伝えたかった。


「だいじょ……ぶ……です……から」

「だが……とても苦しそうだ」


 私よりも痛そうな顔をする神様に思わず笑みがこぼれる。笑うと傷が痛んで眉をひそめてしまった。


「あは…は……ほんとは……い、たいです」

「そうか……。すまない、少し触れるぞ」


 少しだけ困ったような顔をして笑む神様に、私も笑みをうまく返せただろうか。

 キラキラと光る神様の手が、私のお腹に遠慮がちに触れる。それがとても心地良くて、私はまた眠りに落ちた。

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