プロローグ どうやら私は死んだようです
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夢の中にいるのかもしれない。
見渡す限り真っ白な世界。
光に包まれた世界は全てが眩しい。
何も見えないくらい眩しい世界なのに、前に立つ男の人だけがはっきりと見える。
目の前にいる人は誰なんだろう?
すごく綺麗な顔立ち。真っ赤な瞳に長い睫毛。すっとした鼻筋。見れば見るほど整っていて、とても素敵な人だ。
何より腰までの金の長髪が、さらさらしていて気持ちよさそう……
「……後で触らせてやろう」
触らせてくれるのね。ありがとうございます。
それなら逞しい身体も一緒に……。
「それは駄目だ」
そう。残念。
眉間に皺を寄せて溜め息をつく彼を見て、うっとりとしてしまう。
やっぱり夢だ。こんなに素敵な人、今まで見たことがない。
彼は一つ咳払いをすると「お前は……」と赤い瞳を細めて辛そうな声音を出す。少し掠れた低い声は腰が砕けそうなくらい色っぽかった。
「……お前は死んだ。わかるな?」
だ…れが、死んだ……? え?
私は……私が……。
「そうだ。お前は死ぬ前に子供を助けただろう」
子供……?
その言葉が引き金になったのか、急に意識がはっきりとする。
ぐわっと頭を鷲掴んで揺すられたかのようにクラクラとした。
「そうだ、私……あの時……」
一台の軽自動車が横断歩道に向かって来たとき、そこには小さな子供がいた。
ピンクのランドセルを背負った子。いつも出勤する時に居たからよく覚えていた。と言っても、あの子と話したことはなかったし、無我夢中なだけだったと思う。
驚いて立ちすくむあの子を見て、咄嗟に私が何とかしないとって思ったら身体が動いていた。
突き飛ばした私に、驚いた顔をしたあの子の顔が脳裏に浮かぶ。
――じゃあ、ここは夢の中じゃないんだ……。本当に私は死んだんだ。
そこでようやく気づく。きっと目の前にいる人は、神様とか天使とかそういう存在なんだなと。
どうりで綺麗なはずだと一人納得した。
「でも……良かった。あの子は助かったんだ……」
「そうだ。だから、お前の転生には多少優遇してやろう」
「転生……?」
「何かなりたいものはあるか?」
なりたいもの……と聞かれても、特に何も思い浮かばなかった。
普通の人間としてありきたりな人生を送ってきたけど、満足していると言えばしているし、していないと言えばしていなかった。
そういえば、幼い頃から将来なりたいものとか聞かれても、よくわからなかったっけ。
私が「特にありません」と答えると、彼は困ったように考え込んでしまった。
憂いにかげる瞳を見て、睫毛も金色なんだなと思った。
キラキラと透き通るような金の髪と睫毛。
格好いい人は睫毛の長さも完璧なのかもしれない……。
「お前の考えてることも、俺には全部聞こえているぞ」
「うえっ!? え、あ、ごめんなさい」
「まあ、いい。では、お前の好きな物は何だ?」
好きな物? そう聞かれて思い出したのは、冷蔵庫に入れて食べられなかったプリンのことだった。
我ながら呆れてしまうけど、甘い物が大好きなのだ。
仕事の後に食べようと思って取っておいたプリン……あのままでは弟に食べられちゃうんじゃないかな。
それに、家族にだって何もお別れが言えなかった。
特に十歳も離れた弟は、仲が良かったから泣いてしまってるかもしれない。いくら人を助けたとは言え、悲しませてしまうのは辛かった。
生意気な事ばかり言う弟だったけど、良いことがあると私に一番に教えてくれたし、私も楽しそうに笑う弟のことが大好きだった。
仕事の後に、弟とやるゲームの時間は、私にとってプリンと同じくらい楽しみの時間の一つだった。よく弟と張り合って、ムキになってやってたっけ。
そういえば、あのゲーム……結局クリアーできなかったな。こんなに早く死んでしまうのならもっとやっておけば……。
「ふむ。げぇむとぷりん、弟……だな? まあ、お前の好きな物はよくわかった」
「え? あ、プリン……?」
満足そうに腕を組んで頷く彼が呟いたものは、たしかに私が今考えていた事柄で。
「楽しみにしておけ」
彼が微笑むと同時に、景色が一層白んでいく。
「あれ……そういえ……ば」
貴方の名前はなんですか、と聞こうとしたのに、私の意識は途切れてしまった。