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はじまり
あなたにも届きますように。
いちばん窓際、前から三番目の席。カーテンをひるがえした風が、耳にかけた髪をやさしく払う。落ちてきた髪を左手でもう一度耳にかけ、私は机の下で軽く足を組んだ。
書き心地の良さをキャッチコピーにしているボールペンの赤インクが文字になって現れる。クラスメートのさらさらと流れるように書く音が気持ちいい。薄く差し込む日の光に反射してまぶしいほど白く見えるノートにピンクの蛍光ペンでラインをまっすぐ引く。
「授業の時間過ぎてるよな。」
クラスの誰かがそうつぶやくと授業を担当していた先生が号令をかけた。耳に障る音を立てて椅子を引きずりみんなが立ち上がる。してもしなくても変わらないようなお辞儀の後、それぞれに教室を出て行った。日直の仕事が残っていることに気が付いた私は理科室へと足を進める。
すると、隣のクラスの担任が私に声をかける。
「碧さん。丁度よかった。これ理科室の先生のとこに。頼める?」
わたしがうなずくと先生は私に段ボール箱をわたす。実験器具が入った段ボールは重く、ふらついた。