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第9話:安息地の夕食

「さあ、では早速ジーパンさんを渡し船送りにするチュートリアルを開始しましょう。そのついでに、そのレトルトお粥も温めて、アイリさんやアーノルディさんに食べさせましょう」


 そう言って、ボインプルンは手を叩いた。

 それを合図にカロンは調理……といえる程でも無いが、準備を開始する。


「まず、このレトルトのお粥をレンジでチンする」

「はい」

「次に、この安売りからあげをレンジでチンする」

「はい」

「以上、クッキング終わり」

「終わりですか?」

「おわり」


 おわり。


「……愛情の欠片もない料理ですね。そもそも、料理ではないのは?」

「だって、私、料理出来んし……」


 カロンがブーンと音を立てるレンジを見ている間、ボインプルンも曇った表情でカロンを眺めていた。所要時間十分足らずで、ジーパン、そしてアーノルディの夕餉(ゆうげ)の完成である。


「まあ、この際目をつむりましょう。アイリさんの分は?」

「冷蔵庫に用意してある」


 レンジで暖まったお粥を適当な容器に移しながら、カロンは相槌を打つ。


「あの賞味期限が今日で切れるケーキですね。あれもゼウスの恩寵(おんちょう)によるもの」

「あの、本当にアイリはケーキだけでいいの? 死んじゃわない?」

「大丈夫です。好物を与えておけば彼女たちは幸福なのです。あなた達とは身体の構造が違うので問題ありません」


 ボインプルンは乳を揺らしながら堂々とそう言いきった。


 確かに、一番最初に安息地に送られてきたのはアイリなのだが、実はアイリは二週間ほどケーキしか食べていない。最初の二日間くらいはそれでいいかと思ったが、カロンも段々不安になってくる。よく分からんが、ビタミンとか大丈夫なんだろうか、と。


 しかし、いいと言っているのだから信じるしかないだろう。カロンは半ばやけくそ気味に、用意した食事をトレーに乗せていく。さすがに三人分になると量が多いので、台車付きのトレーで運ぶ事になる。


「……貧相な食事ですね」

「そうですね」


 ボインプルンのツッコミにカロンは同意した。


 用意された食事は、レトルトのお粥、からあげ、そして賞味期限切れ直前のショートケーキである。彩りも夢も希望もあんまりない寄せ集めである。まるでソシャゲの低レア十連ガチャの結果だ。


「あのさ、本当にこれで大丈夫なんですかね?」

「だ、大丈夫です! 基準は満たしています!」


 一瞬ボインプルンが言葉に詰まったのをカロンは見逃さなかった。

 理論上正しいが倫理的にどうなのよという事だろうが、余計な手間が掛かっても面倒なのでカロンは突っ込まなかった。


「じゃあ、ちょっと皆に食事を振る舞ってくる」

「分かりました。では、私は罪深きソシャゲプレイヤーに説法を」

「しなくていいですから」


 カロンがくぎを刺すと、ボインプルンはカエルみたいに頬を膨らませた。

 相当不満だったようだが、これ以上自分のパソコンで荒らし行為は止めてもらいたい。


 ボインプルンを放置し、カロンは食事を乗せた台車を押しながら、壁に向かって歩き出す。こちらの世界に戻ってきた時と同様に、カロンの身体は壁に吸い込まれ、暗闇の中へと溶け込んだ。


 最初にやった時は暗いトンネルをずっと歩いているようで不安だったが、さすがにもう慣れたもので、カロンは暗闇の先の一筋の光に向かって黙々と歩いていく。


 そして、光に届く直前、カロンの目の前の景色ががらりと変わる。


「やっはろー! カロン! 今日もご飯の時間だね!」

「アイリ……」


 自分のアパートとは比べ物にならない屋敷の廊下に着くと、ちょうどアイリとはち合わせた。快活そうなこの少女は、最初にこの安息地に送り込まれてきた魔剣士アイリだ。


 登場時こそやたら露出度の高いファンタジック衣裳を身に着けていたアイリだが、今はでっかいヒマワリの絵がプリントされた変な半袖シャツに、ショートパンツという姿だ。


 安息地に送り込まれた段階でほぼ全裸だったので、適当な量販店でセールをしていた服を着ているのだ。いずれアーノルディにも用意しないとならないだろう。


「あ! 今日もケーキだ! わーい! 私、ケーキがあれば他に何にもいらないよ!」


 台車の上にショートケーキが乗っているのに気付いたアイリは、目を輝かせる。


「アイリ……」

「ん? 何?」

「アイリは、他に食べたい物とか、無いの?」


 安息地モードに移行させられたカロンは、単語を繋げるようなたどたどしい口調で尋ねた。毎日毎日毎日毎日ケーキばかり食べていて、栄養とか飽きとか無いんだろうかと不安になる。


「んー、他の物も食べてみたいなぁとか少しは思うけど、私はケーキがあれば毎日幸せだから!」

「そう……」


 アイリは眩しい笑顔でそう答えた。

 嘘は言っていないのだろうが、本当にそれでいいのだろうかとカロンは疑問に思う。

 まあ、本人が満足しているのならそれでいいのだが。


「今ね、ジーパンが新しく来た、アーノルディっていうお兄さんと喋ってるよ」

「アーノルディは、どう?」

「服はボロボロになってるし、まだ怪我も完治はしてないけど、もう起き上がってる」

「なら、よかった」


 アイリの報告を聞き、カロンはほっと胸を撫で下ろす。

 システム的に死ぬ事はないとボインプルンから聞いてはいるが、大体の場合、半死半生のまま送り込まれてくるので心臓に悪いのだ。


「ごっはん、ごっはんー」


 カロンが台車を押してアーノルディの部屋に向かう間、アイリは鼻歌を歌いながら後ろから付いてくる。アイリの話によると、今日は食堂ではなく、アーノルディとジーパンと一緒に食事を摂るらしい。


「おまたせ、調子はどう?」

「ああ、カロンか。見ての通りだ。この屋敷には不思議な力があるのだな……」


 ノックをしてアーノルディの部屋に入ると、アイリの言っていたようにアーノルディは既に起き上がっていた。代わりに、ジーパンがベッドに座っている。


「姐さん、今、こいつと前の世界について色々話してて……って、飯の時間ですかい!?」


 ジーパンはセリフを途中で切り、カロンも持ってきたからあげにくぎ付けになっていた。

 穿いているジーパンからはみ出たふさふさの尻尾が、ヘリコプターのようにぐるんぐるん回り出す。


「飯? まさか、本当に用意してくれるとは」

「気にしないで、いい」


 確かに、食べ物を準備すると言い残しながらカロンは立ち去ったが、怪我の手当てをし、寝床まで与えてくれるカロンの慈悲にアーノルディは驚いていた。


「あのな、姐さんの飯はすっげー美味いんだ。お前も食ってみたら分かるぜ?」

「これは何だ? 粥……か?」

「そう、愛情はこもってないけど、熱はこもってる」


 カロンはありのままの真実を伝えたのだが、アーノルディはカロンなりの冗談を言ったと思いこんだらしく、微笑んだ。


「いや、これほどの料理を作るのは手間が掛かっただろう」

「そうだよぉ! カロンはケーキだって、ほら! こんなに上手に作れるんだから!」

「大した事、ない」


 それは買って来たんです、と言いたかったのだが、余計な事を喋れないようになっているカロンはそう答えるしか無かった。


 ちなみにお粥を選んだ理由は、アイリの好きな物はケーキ、ジーパンの好物は肉類と分かっていたが、アーノルディの好きな物は「剣術」だったので、適当に選んだだけである。


「んじゃ、早速いただきやすかい。姐さん、ウッヒョー! こりゃ、からあげじゃねえですかい!」

「嬉しい?」

「うれしい!」


 ジーパンのボルテージは最高潮だ。

 ふと気になったので、カロンは指先で空中をタップし、ジーパンのステータス画面を開く。

 ボインプルンの言うとおり、ジーパンの幸福度メーターは、何もしていないのにモリモリ上昇していた。


「ちょろい……」

「え? 何すか?」

「ううん、こっちの話。冷めないうちに、食べて」


 アーノルディの部屋に用意されていた丸テーブルを囲み、アイリ、ジーパン、そしてアーノルディの前に料理が振る舞われる。

 料理というか、それぞれケーキ、からあげ、お粥なのだが、三者とも明らかに嬉しそうな表情をしているので、カロンは黙って様子をうかがうことにした。


 こうして、大分栄養バランスは偏っているが、朗らかなディナータイムが開始された。


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