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第7話:唯一神ゼウスとの邂逅

「カロン! カロン! 聞いているのですか!?」


 そう言われ、カロンは回想から現実へと引き戻された。

 目の前には、諸悪の根源である巨乳ソシャゲ女神――ボインプルンが不満げな表情を浮かべている。


「いいですか? あなたの罪業を取り除くためには、多くのゴミ……低レアとして使い捨てられた魂を救わねばなりません」

「今、ゴミって言いませんでした?」

「今日迎え入れたアーノルディさんは確かにレアリティは低いです。ですが、アイリさんやジーパンさん達とも触れあい、彼らが魂を持つ存在であるという事はもう理解できたでしょう」


 カロンの言葉をガン無視し、ボインプルンは一方的にまくし立てる。


 確かに、カロンは安息地でアイリを始めとする色々な魂に触れ、現実の人間たちとなんら変わらないという理解をした。


 同時に、ソシャゲの女神様は人の話を聞かないらしい事も理解した。


「彼らに必要なのは、安らかな環境、信頼できる仲間、そして美味しい食事や娯楽――色々とありますが。その方法はあなたにお任せします」

「はい、はい」

「違う! もっと真剣になるのです!」


 カロンは布団の上にあぐらをかき、やる気なさげに返事したが、ボインプルンはご立腹である。


 安息地では氷の彫像のように振る舞うカロンだが、一旦現世に戻ってくれば、どこにでもいる外見が超絶美少女の中身おっさんなのだ。


「とにかく、今は言い争っている場合ではありません。悠長にしている暇は無いのです」

「何の事?」

「……ゼウスの時が迫っています」

「ええっ!?」


 真剣な表情で「ゼウス」と呟いたボインプルンに対し、カロンは布団から飛び起きた。

 ゼウスの時――それは、カロンとボインプルンにとって最も大事な時間なのだ。


「さあ、行くのですカロン。ゼウスの元へ!」

「了解!」


 言うが早いか、カロンはローブ姿のまま慌てて家を飛び出した。

 留守番はボインプルンが務める。

 そう、今からカロンは「唯一神ゼウス」の元へ向かわねばならないのだ。


 木造二階建てのアパートの階段をカロンは駆け降りる。

 カロンは安息地と自宅の瞬間移動、そして安息地内で相手のステータスを読み取る能力を持っているが、それ以外は何の特技も無い。


 よって、ゼウスに会うためには徒歩で移動する事になる。


「よ、よし! 間に合った!」


 身体が小さくなった分、移動も大分遅くなっているが、息を切らしながらカロンは目的地へと辿り着いた。


 そこは何の変哲もないスーパーであった。

 一階で生鮮食品を売っていて、二階では雑貨や簡素な洋服などを売っている。


 余談だが、狼男のはいているジーパンも二階で購入した安物である。


 いくら狼男でも、オスが全裸で平然と歩いているのはどうかと思ったのと、狼男だとそのまんま過ぎるので「ジーパン」と名付けたのだが、本人はまるで子犬のように尻尾を振って喜んでいた。


「ゼウスの時は近い……」


 カロンは唾を飲み込み、緊張した面持ちでスーパーへと踏み込む。

 一見何の変哲もないこのスーパーには「ゼウス」が顕現(けんげん)するのだ。

 まさにスーパーゼウスである。


 ゼウスは、黄昏(たそがれ)時にスーパーの一階に現れる。


 この時間帯はおばちゃんが多いのだが、カロンはその中をすり抜け、茂みから獲物を狙う肉食獣のように惣菜(そうざい)コーナーに姿を隠す。


「たまご……たまご……」


 カロンは、まずは今日の第一の獲物を卵に決めたらしかった。

 ほとんど瞬きすらせず、じっとその時を待つ。


 ――そして、時は来た。


(来た! ゼウスだ!)


 カロンが見据えた先には、紺色のエプロンをした白髪交じりの男が立っていた。

 彼こそ「ゼウス」である。

 ちなみにエプロンに着けている名札には「佐々木」と書いてある。

 佐々木ことゼウスは店内を見回ると、ポケットから何かを取り出し、卵の上に貼りつけた。


「はっ!」


 その瞬間を待っていたカロンは、一陣の風の如く躍りかかった。

 カロンが手にした卵パックには、30%引きというシールが貼られている。


「おや、お嬢ちゃん。最近よく来るねぇ。おつかいか何かかな?」

「え、い、いや、そんな感じ、です」


 卵パックを天に掲げたカロンに気付いたのか、佐々木は微笑ましげにカロンを見た。

 一方カロンは、どもりつつ曖昧に流した。


 これが以前の姿だったら変なおっさん扱いだっただろうが、佐々木にははしゃぐ少女に見えているようだった。やはり美少女は徳であり得である。


 その後も、佐々木は店内の見回りをしつつ、商品に対しラベルを貼っていく。

 それをまるで浮気調査の探偵のようにつけ回し、カロンが回収していく。


 そう、佐々木はこのスーパーのチーフなのだ。

 夕暮れ時になると店内を見回り、値引きシールを張っていく。

 貧乏暮らしが長いカロンは以前から世話になっており、敬意を込めて『ゼウス』と呼んでいる。


 ソシャゲ低レア連中にも食わせていかねばならず、ボインプルンは一応経費として計上してくれるが、「なるべく抑えて下さいね」と念を押されている。


 というわけで、食材の調達を大いに助けてくれるゼウスこと佐々木チーフは、カロンにとってボインプルンよりも余程神に近い存在なのだ。


「よし。なかなかだ」


 そうしてライオンの食べ残しを漁るハイエナのようにゼウスに付きまとう事数十分。

 生鮮食品を始めとする様々な物を安価で手に入れ、カロンは満面の笑みを浮かべる。

 だが、ここからカロンの真の戦いが始まるのだ。


「うっ!? ゼウス!?」


 背伸びしながら荷物をいっぱいに詰めたカートを押しレジに向かうと、そこには何故かゼウスがレジ打ちをしていた。


 恐らく、買い物客が多い時間帯なので、ゼウスも急きょ手伝いに入ったのだろう。

 とはいえ、ここで引き下がるわけにもいかず、カロンは深呼吸し、そちらへ向かう。


「おお、お嬢ちゃん。沢山買い物してくれたね。ありがとう」

「いえ、あの、その……」

「ん? どうしたんだい?」


 年端もいかない少女が困惑しているのを見て、ゼウスは警戒を解くように笑いかける。

 それが余計つらいのだが、カロンは意を決し、言葉を口にする。


「領収書、お願いします」

「領収書? ああ、分かりました。名前は?」

「ちちの、ぼ、ボイン……」

「え? 何だって?」

「ち、乳の神ボインプルンで……」

「父? お父さん」

「いえ、授乳の乳に、神、それでカタカナでボインプルン……」

「わ、分かりました」


 カロンが赤面しながらそう言うと、ゼウスはほんの少しだけ怪訝(けげん)な表情を浮かべながらも、領収書に「乳の神ボインプルン」と記載した。


 それから会計を済まし、その領収書と荷物をひったくるようにしてレジ袋に突っ込み、店を出る。


「はぁ~、しんどい」


 身体は小さいが体力は成年男性なので荷物持ちはそれほど苦ではない。

 問題なのは、毎回領収書に「乳の神ボインプルン」でお願いますと頼む事だった。

 はっきり言って超恥ずかしい。

 以前の姿だったら、間違いなく不審者扱いされていただろう。


 いつもは比較的若い兄ちゃんあたりに頼むのだが、今日はゼウスとはち合わせてしまった。

 値引きシールをひたすら集めているのも見られているし、謎の疲労感がカロンにのしかかる。


 しかし、一応必要な物は手に入ったのだ。軽く流してくれたゼウスに感謝しつつ、思考を切り替える事にする。

 これからカロンは自宅に戻り、ある事をしなければならない。

 それをする事でカロンの一日の業務は終わりを告げる。


「早く帰って、ごはん作らなきゃ」


 そう、カロンには最終任務。「ソシャゲ連中の飯炊き係」という大役が課せられている。


 ゼウスの恩寵(おんちょう)によって得られた食材を抱えつつ、カロンは最後のデイリーミッションへと挑むのだった。


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