第16話:ファフニール討伐戦 その3(クソゲー)
カロンがファフニールに対する勝利宣言をした翌日、カロン率いる安息地のメンバー四名は、霧が晴れて新しく解放された『禁断の山脈』を目指し歩いていた。
狙うは当然、暴君竜ファフニールである。
「ねえねえ、本当にこんな作戦で勝てるのかなぁ?」
「俺も剣すら持っていないが、カロンの言葉を信じるよりないだろう」
アイリとアーノルディは不安げな表情で、先頭を進むカロンと共に山道を登っていく。
「二人ともしみったれたツラしてんなぁ。姐さんが言うんだ、大丈夫だって! なっ、ゴルゴ?」
「フンガー!」
二人とは真逆で、ジーパンは犬歯を剥き出し笑いかける。
それに呼応するように、ゴルゴが拳で自分の胸を叩く。
任せておけ、という意志表示なのだろう。
「ファフニールは必ず倒せる。ただ、みんなの力を合わせなきゃいけない」
先頭を歩くカロンが、足を止め、戦闘メンバー達に声を掛けた。
カロンは手ぶらだが、ゴルゴを除く三人はハイキング用のリュックサックを背負っていた。
中には対ファフニール用の『兵器』が用意されている。
ジーパンは相変わらず下半身のみジーパンを履き、アイリはクソダサ半袖シャツにショートパンツ。
アーノルディも装備がボロボロになっていたので、現地の人が見たら笑うか首を傾げるような英文がプリントされた、長袖シャツに長ズボンというラフな格好だ。
繰り返すが、彼らは別にハイキングをしに来た訳ではない。
安息地に現れた脅威を取り除くため、死地に向かっているのだ。
『カロン、いよいよ決戦の時が来ました。私も慈愛の力であなた方に協力しましょう』
『でも、課金しないと駄目ですよね?』
『仕方がありません。私はソシャゲの乳の女神ですので』
カロン達から少し離れた場所から、ボインプルンが念話でカロンに声を掛けた。
手にはブタの貯金箱を握っていて、いつでも課金出来る体制を整えている。
とりあえずそれは無視し、一時間ほど険しい山道を登っていくと、開けた山頂に出た。
空は黒雲に覆われ、周りはごつごつとした岩で囲まれており、草一本生えていない。
その景色はまるで、闘技場を思わせた。
「恐れずに立ち向かってきたか……矮小なる者どもよ」
天空から威厳に満ちた声が響く。
カロン達がその『闘技場』に足を踏み入れると、雲間から金色の巨竜――ファフニールが姿を現す。
ファフニールは翼を羽ばたかせながら、大きな地響きと共に山頂に着陸した。
その堂々とした姿に、皆の表情が強張る。
「我が業火で焼け死ぬか、それとも圧倒的暴力でひねり潰されたいか。選ばせてやろう」
ファフニールは低い声でそう呟く。
だが、勇者達は誰も怯まない。
「どっちもお断りよ! アンタを倒して、安息地に平和を取り戻すわ!」
「剣は無くとも、俺は剣士! 竜よ! 今日がお前の命日だ!」
「おうよ! この楽園を踏みにじる奴は。天が許そうが俺達が許さねぇぞ!」
「フンガー!」
各々が闘志をむき出しにすると、ファフニールは何故か満足げに笑ったように見えた。
「……その心意気や良し。だが、勇気と無謀を履き違えた事を、その身で後悔するがよい!」
ファフニールが咆哮を上げる。
びりびりと空気が振動し、巨竜は四肢に力を籠めた。
戦闘開始だ!
「我が紅蓮の炎を食らうがいい! ヘル・フレイム!」
開始早々、ファフニールは得意の火炎をカロン達に向けて発射する。凄まじい熱の塊が襲いかかる。
「ゴルゴっ!」
「フンガアアアアアアーーーッ!」
しかし、カロンもすかさず指示を出す。
カロンの言葉に反応し、ゴルゴが他のメンバーの前に飛び出す。
ゴルゴの所有スキル『かばう』の発動だ!
通常のアイアンゴーレムなら焼け焦げるくらいで済んだだろうが、熱に弱い金と化したゴルゴは、水あめのようにドロドロに溶けた。
「フ、フンガァ……」
「ゴルゴ、大丈夫!?」
アイリが慌てて駆け寄ろうとするが、カロンが杖でそれを制する。
「アイリ、火炎弾を」
「そ、そうだったね! こんのぉ! よくもゴルゴを! 火炎弾!」
アイリは怒りを籠めた叫びと共に、人の頭より二回り程大きな火球をファフニールへ飛ばす。
ファフニールは避けもせず、アイリの攻撃を体で受け止めた。
「これが貴様らの攻撃か? かゆいわぁ!」
ファフニールはあざ笑うように吠える。
「だ、駄目だよ! 全然効いてない!」
「大丈夫。確実にダメージは入ってる」
動揺するアイリとは裏腹に、カロンは悠然とファフニールを見ている。
『早速ゴルゴさんを活用しましたね。彼も壁としての役割を全う出来て喜んでいるでしょう。さぁカロン、ここからはあなたが皆を守るのです。お金の力で!」
『必要ない』
『えっ?』
『このまま行けば、普通に勝てる』
『な、何を言っているのです!? プロテクションは無課金では2回しか打てないのですよ!?」
『プロテクションは、使わない』
『な、何……ですって……?』
ボインプルンが絶句するのが感じ取れたが、今は相手にしている場合ではない。
ファフニールは、次の攻撃の準備を進めている。
「ほう、その人形を使い、炎を防いだか……だが、それももう使えまい。我が暴威、食らうがよいわ!」
ファフニールはぐるりと背を向ける。
無論、逃走準備ではない。巨大な尻尾を鞭のように振るう全体物理攻撃『薙ぎ払い』の前動作だ。
このまま行けば、カロン達はその一撃で吹き飛ばされてしまうだろう。
「ジーパン、あれを」
「おっしゃ! これでいいんすね?」
そう言ってジーパンが背負ったリュックから取り出したのは、園芸用の軽石だった。
ジーパンは軽石を片手で握ると、先ほどの熱で溶けたゴルゴに駆け寄る。
「ふ、フンガァァァ……」
「ゴルゴ! 新しい石だぜ!」
頭だけ残ったゴルゴの口に、ジーパンが軽石を投げ込む。
すると、次の瞬間――
「フンガーーーーーーーッ!」
「な、何ィ!? 復活しただとぉ!?」
ゴルゴは一瞬でゴールデンアイアンゴーレムへと戻った。
これにはファフニールも心底驚いたようだ。
「だが、我が圧倒的暴威の前には無力! 再び消し飛ぶがよいわ!」
ファフニールの薙ぎ払いが、再びパーティを襲う!
「ゴルゴっ!」
「フンガアアアアアアーーーッ!」
しかし、カロンもすかさず指示を出す。カロンの言葉に反応し、ゴルゴが他のメンバーの前に飛び出す! ゴルゴの所有スキル『かばう』の発動だ。
通常のアイアンゴーレムなら凹むぐらいで済んだだろうが、衝撃に弱い金と化したゴルゴは、レゴブロックのようにバラバラになった。
「アイリ、火炎弾を」
「分かった! 火炎弾!」
「ぬぅぅ! 小癪な!」
再び火炎弾がファフニールに直撃する。
ファフニールは苛立ったように、再び業火を吹きかける!
「ゴルゴ! 新しい石だぞ!」
ジーパンは先ほどゴルゴに軽石を与えたので、今度はアーノルディがゴルゴの口に石を放り込む。
「フンガーーーーーーーッ!」
「な、何ィ!? 復活しただとぉ!?」
再びゴルゴは復活し、再びメンバーをかばう。
そうしてゴルゴは再度溶けた。
『カロン! 一体何がどうなっているのですか!?』
『永久機関です』
『永久……機関?』
我に帰ったのか、ボインプルンが疑問を口にした。
カロンは、離れた場所にいるボインプルンに向かい、微笑みながら念話を返した。
『ほら、ゴルゴの体力を見て下さい』
カロンがステータス画面を表示すると、溶けた状態のゴルゴの体力は『1』と表示されていた。
体力が最大ならぎりぎりで生き残る、ゴルゴのもう一つのスキル『食いしばり』である。
『好きな物を食べると体力が回復するのはアイリで試しました。ゴルゴの好きな物は鉱石だったので、スーパーで軽石をいっぱい買ってきたんです。まあ500回くらいは大丈夫でしょう』
カロンの作戦はこうだった。
まず、ゴルゴに全体攻撃をかばわせる。
するとゴルゴの体力が1で生き残る。
次にアイリの火炎弾を当てる。
その次にジーパンないしアーノルディでゴルゴに回復アイテム――軽石を与える。
もしもボインプルンが気を利かせ、ゴルゴを育てた状態――例えば体力3000などだったら、軽石程度では体力MAXまで回復しない。
だが、ゴルゴのレベルは初期のままだ。つまり、簡単に最大値まで回復する。
失う物の少ない弱者にしかできない戦い方である。
「火炎弾!」
「グオオオオオオオオオッーー! 効かぬわ!」
「フンガーーっ!」
「ゴルゴっ! 新しい石だぞ!」
「火炎弾!」
「グオオオオオオオオオーーーーッ! 小賢しい!」
「フンガーーーっ!」
「ゴルゴっ! 新しい石だぜ!」
「火炎弾!」
「グオオオオオオオオオッーーーーーー! ぐ、ぐぅぅ! やるではないか!」
「フンガーーーーーっ!」
「ゴルゴっ! 新しい石だぜ!」
カロンがボインプルンに説明している間も、勝利が確定した死闘が繰り広げられていた。
ファフニールは全体攻撃しかしてこないので、火炎にしろ薙ぎ払いでもどっちでもいい。
ゴルゴの回復役も二人いるので、交互にゴルゴを回復させられる。
あとは、アイリのスキルで削りきるだけの話である。
ファフニールは巨大なサンドバッグ――もといドラゴンバッグになっていた。
『なんということでしょう……これではまるで、クソゲーではありませんか!』
『クソゲーですね』
そう、これは量産ソシャゲの悲しき宿命だった。
FPSやローグライクゲームのように、プレイヤー自身が経験を積んで成長していくのと違い、ソシャゲは周回するための効率を最も重視するゲームだ。
プレイヤーの求める究極系は、オートで放置しておくだけで素材を溜められるシステムの構築である。そして今、目の前に繰り広げられているのは、まさにそれだった。
放置しておいても勝てるシステムを作っておけば、後は時間が遅いか早いかだけである。
これがサクサク進めばまだ楽しいのだが、無駄に時間だけ吸い取られ、創意工夫も何も無い場合、それはもうゲームというか苦行である。
「これで終わりよっ! アイリ・ファイヤー!」
裂帛の気合を籠め、アイリは両手を前に突き出し、魔法の火球を発射する。
狙うはただ一点。満身創痍になった暴君竜ファフニールの頭部である。
「グワアアアアアーーーーっ!! み、見事だ……弱者共よ……」
アイリの火球は見事直撃し、ファフニールの巨体がぐらりとよろめく。
轟音と共に巨竜の体は地面に倒れ伏した。
カロン率いるメンバー達の勝利である!
『ああ、ファフニールさんがやられてしまいました……』
『はい』
こうして、暴君竜ファフニールとの長き戦いに終止符が打たれたのだった。




