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第15話:ファフニール討伐戦 その2

「これで終わりよっ! アイリ・ファイヤー!」


 裂帛の気合を籠め、アイリは両手を前に突き出し、魔法の火球を発射する。

 狙うはただ一点。満身創痍(まんしんそうい)になった暴君竜ファフニールの頭部である。


「グワアアアアアーーーーっ!! み、見事だ……弱者共よ……」


 アイリの火球は見事直撃し、ファフニールの巨体がぐらりとよろめく。

 轟音と共に巨竜の体は地面に倒れ伏した。

 カロン率いるメンバー達の勝利である!


「やった! ついに……私達であの竜をやっつけたんだね! はぁ~……ほんと疲れた」


 緊張の意図が切れたのか、アイリは後ろに倒れ込むように地面にへたり込む。


「へへ……(やっこ)さん、でかい図体の割に大したこと無かったな」

「だが、長く苦しい戦いだった……」

「フンガー!」


 アイリの周りでジーパン、アーノルディ、そしてゴルゴが各々の感想を述べる。

 アイリと違い、三人とも余裕の表情である。

 というか、無傷である。


 そして、戦闘メンバー四人から少し離れた場所には、ローブを着たカロンが涼しい表情で喜ぶメンバー達を眺めていた。


『カロン、カロン……ついにやってしまいましたね』

「ええ、やりました」


 姿を消して離れた場所からボインプルンが念話を飛ばす。

 それに対し、カロンは口の中だけで返事をした。

 安息地では無表情であるカロンだが、口元にうっすらと笑みを浮かべているのが見てとれる。

 つまり、爆笑モードである。


『何なのですか! せっかくいつでも私の加護を与えられるように待機をしていたというのに! 一度も課金しないどころか、私の与えた力すら使いませんでしたね!?』


 ボインプルンは大声で叫びながら、手に持っていたブタさんの貯金箱を地面にたたき付けた。


「ん? 今、何か割れる音が聞こえなかった?」

「気のせい……」


 息の整ったアイリが不思議そうに辺りを見回すが、ボインプルンの姿は他のメンバーには視認出来ないので、皆、気のせいだと思いこんだらしい。


『カロン……あなたは私の想定外の攻略法を……あれは反則ですよ?』

「仕様だから……」


 ボインプルンは納得いっていないようだが、カロンはもちろんチートなど使っていない。

 クソゲーゆえのガバガバ設定を利用したのであった。

 脅威の暴君竜ファフニールがあっさり倒された経緯は、一日前に遡る。



 昨日、ゴルゴを引き連れ、カロンはひとまず安息地へと戻った。

 黄金の鉄のゴーレムを見た皆は最初驚いたが、カロンがたどたどしい口調で皆の仲間だと伝えると、三人はゴルゴを温かく迎え入れた。


「みんな、私の前に並んで欲しい」


 カロンがそう言うと、ジーパン、アーノルディ、アイリは不思議そうな表情でカロンの前に並んだ。

 ファフニールに対抗するために、まずはメンバーの能力を把握しておかねばと思ったのだ。

 カロンは指先で空中をタップし、それぞれのステータスを確認していった。


 以下、それぞれの能力である。


【ジーパン(人狼)】

 レアリティ:☆1

 レベル:4

 体力:185

【スキル1】チャージ

 1ターン行動不能になる。次のターンに敵1体に2.5倍の物理ダメージ


【アーノルディ】

 レアリティ:☆1

 レベル:6

 体力:150

【スキル1】二段切り

 敵2体に1.2倍の物理ダメージ


 非常に低レアっぽい能力である。

 二人ともデイリーミッション消化で高難易度ダンジョンに突撃しているので、中途半端にレベルが上がっているが、ぶっちゃけ誤差である。


 続いて、カロンはアイリの方を確認する。



【魔剣士アイリ】

 レアリティ:☆3

 レベル:5

 体力:400

【スキル1】アイリ・スラッシュ

 敵1体に1.5倍の物理ダメージ

【スキル2】火炎弾(アイリファイヤー)

 敵1体に固定100ダメージを与える


 さすがに☆3だけあって、前の二人よりは強く、スキルも2つ所有している。

 だが、カロンはアイリに関してはゲームをやっていたのでよく知っている。


 アイリはゲーム開始から一週間くらいは一応スタメンに入る。

 特に、敵の体力が300くらいしか無い状態だと、固定100ダメージはなかなか強力だ。


 だが、ソシャゲというのは基本的により強く、より派手にと射幸心を煽る作りになっている。

 アイリの出るゲームだと、現在は雑魚でも2万くらい体力がある。

 つまり、実質スキル2はゴミである。


 低レアでもキャラ的に人気が出れば水着verや制服違いverなどの上位互換が出る場合もあるが、毎週のように高レアが追加されるソシャゲでは稀有な例で、アイリは初期のまま数年放置されている。


「うーん……」


 アイリに関しては知っているので、ジーパンとアーノルディがもしかしたら超強かったりするのではと淡い期待をしたが、淡い期待は泡と化した。


「カロン、あの竜を早く討伐しに行こう! この安息地を守らなければ!」

「そうだぜ! 俺の爪で、あんな竜なんか引き裂いてやる!」


 二人ともやる気になっているのだが、はっきり言って壁にすらならない。


「ありがとう……でも、少し難しいかも」


 でもまあ、いないよりはマシだろうと思い、カロンは二人に優しく微笑んだ。

 それから、カロンはアイリの方をじっと見つめる。


「え? な、何? あたしも頑張るけど、あたし、あんまり強くないよ?」

「そんな事、ない」


 むしろ、この中でかろうじて戦えそうなのはアイリのみである。

 火炎弾を50発ファフニールに命中させれば理論上は勝てる。

 だが、ゴルゴのかばう+自分のプロテクションで防げる回数は合計三回。

 残り47回の猛攻を防がねばならない。


 そして、その猛攻を防ぐためには、ボインプルンに猛烈な課金をせねばならない。

 それだけは絶対に避けたい。


「アイリ、ちょっとごめん」

「え、何? あ痛っ!?」


 カロンは詫びを入れてから、持っていた杖でアイリの頭を軽く叩く。

 アイリは頭をさすっているが、カロンはその隙に再びアイリのステータス画面を開く。


【魔剣士アイリ】

 レアリティ:☆3

 レベル:5

 体力:398


 さきほど400だったのに、微妙にダメージを食らっている。


「いきなり何するのよ! そりゃ、あの二人みたいに闘志を燃やしてる訳じゃないけど。何も殴らなくても……」

「ごめん、これあげるから」


 そう言って、カロンはローブの中に入っていたプチケーキをアイリに差し出した。

 先日、ゼウスのスーパーに買い出しに行った際、試供品として貰っていたのを忘れていたのだ。


「わーい! ケーキだ!」


 もはやテンプレと化した反応と共に、アイリはそのプチケーキを実に美味しそうに頬張った。

 すかさずカロンは体力を確認する。


【魔剣士アイリ】

 レアリティ:☆3

 レベル:5

 体力:400 


 想定通りだった。


 ゲームをプレイしていた仕様で、好きな物を食わせると好感度と体力が上がるという物があったのを、カロンは思い出したのだ。もしも、この仕様が全体に適用されるならば――。


「みんな、ちょっと集まって欲しい」


 カロンは号令をかけ、四名を中庭に呼び出した。

 ゴルゴがでかいので、部屋で話すとちょっと狭いのだ。


「明日、ファフニールを倒しに行く」


 カロンは平然とそう言い放つ。これには、四名も仰天した。


「明日!? 姐さん、そりゃ無茶ってもんですぜ? 確かにあいつをぶッ倒したいとは言いやしたけど、どう考えたって俺達だけじゃ力不足」

「ジーパンの言うとおりだ。悔しいが、俺達はまだ修行を積んでいない。倒しに行くとしても、各々が研鑚する必要がある」

「そ、そうだよ! 皆で死にに行くようなものだよ!」

「フンガー!」


 皆、一斉に困惑した表情を浮かべている。

 ゴルゴに関しては表情は変わらないが、多分、他の三人と同じ意見なのだろう。


「大丈夫。私にいい考えがある。ただ、長く、つらい戦いになる」

「それは覚悟の上っすけど、根性だけで勝てる相手じゃないっすよ?」

「みんなの協力があれば大丈夫。私は、みんなを信じている」


 カロンは、四人を真っ直ぐに見つめてそう言いきった。

 その瞳は澄みきっていて、既に勝利を確信している自信のような物が見てとれた。


「……分かった。俺達はもともと滅びゆく運命を君に救われたんだ。君の作戦を信じよう」

「わ、私も、あんまり自信ないけど、頑張る!」

「ありがとう」


 カロンが優しく微笑むと、皆も柔和な笑みを浮かべる。

 後はファフニールを討伐するだけだ。


「しかし、具体的にどうするんだ? あの竜は、ちょっとやそっとの攻撃では倒せないだろう? それに、俺は剣も無くしてしまった」

「俺には爪があるけどよぉ、あんなゴツい奴に今の俺で勝てるとは思えねぇんすよね」

「大丈夫。剣も爪も使わない」

「「は?」」


 ジーパンとアーノルディの声がハモる。


「アイリ、あなたが要になる」

「え? えぇ!? わ、私!?」

「大丈夫。今から準備すれば、明日には勝てるから」


 困惑するアイリとは裏腹に、カロンはそう断言した。

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