第13話:黄金の鉄の塊
「では、お話しましょう。ソシャゲ運営が生み出した、低レアとはまた違う悲しき犠牲者、『がっかりSSR』について……」
「がっかりSSR?」
「語感から、ある程度予想は付きませんか?」
「まあ、なんとなく……」
悲しき犠牲者の部分はよく分からないが、がっかりSSRという単語ならカロンにも察しが付く。
SSR、UR、超レア……色々な呼び方があるが、基本的にソシャゲは最高レア、中堅レア、そしてレアとは名ばかりのゴミの三種類に分けられる。
他にもノーマルやコモンなどもあるが、これは開始10分くらいで用無しになる場合が多い。
「私は、電子の海で教化を続けているうちに、あのファフニールさんの魂を発見したのです」
「教化っていうか、単に文句言って回ってただけでは」
「真実は耳に痛いもの。なかなか聞いてもらえるものではないのです。ですが、その苦行を続けるのも女神たる私の役目」
「つまり、やめる気は無いと」
「もちろんです」
ボインプルンが真顔でそう言ったので、カロンは説得を諦めた。
「さて、話を戻しましょう。ソシャゲ界隈には数多のファフニールという竜が存在していますが、全てのファフニールが厚遇される訳ではありません。この辺りは理解できますか?」
「わかる」
これに関してはカロンも理解出来た。
今やソシャゲは戦国時代であり、雨後のタケノコのごとく新作ソシャゲがぽこぽこ湧いてくる。
その中でも、有名どころの偉人、天使、悪魔はとにかく使われやすい。
例えば、「ルシフェルとジャンヌダルクが実装された」と言われても、どのゲームか分からない程度には量産されている。
恐らく、ファフニールもその類の存在なのだろう。
「ファフニールさんはモンスターストリップ……略してモンストというゲームから呼び出しました」
「色々とやばいですね」
「実はこのモンストは、サービスからわずか二週間で終了したのです。どうやら、有名ゲームの丸パクリだった事が原因だったようです」
「なるほど……」
カロンは頷いた。
タイトルからしてやばそうなのに、おまけにゲーム内容まで凡百のものだったら、手を出す奇特な奴もいないだろう。
「罪深い事ですが、そのモンストの最初のボスイベントの役割を任されたのが、暴君竜ファフニールさんだったのです。ですが、結局一回もイベントが無いまま、モンストはサービスを終えたのです」
「はぁ……そうですか」
今時珍しい話ではない。
恐らく、そのゲームもまた適当に弄られ、外面だけ変わった別のソシャゲとして生まれ変わるだろう。
カロンの考えを見透かしたかのように、ボインプルンが表情を引き締める。
「あなた方は『どうせこれが駄目なら新しいのを作ればいいじゃん』で済ませられるでしょう。ですが、その世界に産まれた魂達は、わずか二週間、しかも何の満足感も無いまま消滅するのです。なんと哀れな事でしょう……」
ボインプルンは涙目になってそう呟く。
そんな事言われてもカロンとしては困ってしまうのだが。
文句はソシャゲ運営に言って欲しい。
多分、ボインプルンはもう言ってるだろうが。
「そこで私は過ちに気付いたのです。高レアリティだからといって、皆が優しく扱われる訳ではない。高レアも低レアも、等しく慈悲を与えられるべきだと」
「それで?」
「なので、ファフニールさんには安息地で役割を果たしてもらう事にしました」
「えぇ……」
「カロン、人は誰かに『あなたが必要だ』と言ってもらい、己の使命を全うする事が生きる喜びなのです。それはソシャゲの魂も同様。ファフニールさんは、己の力を一度も誇示する場も無く、惨たらしく消滅しようとしているのです」
「いや、それは可哀想ですけど、安息地で暴れさせなくても」
「いいえ。これはジーパンさん達にとっても必要な事なのです。大きな障害を仲間と協力し、知恵と勇気で乗り越える。それは、大きな幸福感を得る事に繋がります。そうして魂を磨き抜き、次の世界で「英雄が必要である」と認識させ旅立たせるのです」
ボインプルンは胸を揺らしながら、両手をいっぱいに広げて理想を語っていた。
反面、カロンは死んだ魚のような目になっていた。
「要するに、あのデカい竜と戦えと」
「その通りです。ジーパンさん、アーノルディさん、そしてアイリさん達と協力し、SSRファフニールさんを討伐して下さい。そうすれば、ファフニールさんも好敵手との戦いで満足し、魂が救われる事でしょう」
「いや、向こうSSR大型ボスで、こっちは低レベルかつ低レアしかいないんですけど」
「そこは大丈夫です。ファフニールさんは最初期のイベントのボスなので、見た目より大した能力はありません。工夫次第で何とかなるでしょう」
「私に関しては、戦闘力すら無いんだけど」
「それも問題ありません。今回のメンテナンスで、カロンに二つほどプレゼントがあります。新イベント実装キャンペーンです」
「プレゼント?」
「ええ、まず一つは、カロンに特殊能力を与えます」
「おお、それはいい!」
これはカロンも素直に喜んだ。
半強制とはいえ貴重な体験をしているのに、相手のプロフィールを見る事しかできないのは、いささかしょぼいと思っていた所だ。
「戦闘時、敵の攻撃から仲間を完全にガードするスキルを与えます。硬直時間と使用制限がありますので、使いどころは気を付けてください。でないと、全員大ダメージを食らって壊滅しますから」
「……ドラゴンをワンパンKO出来るチート能力じゃないんですか?」
ボインプルンは自信満々にスキルを語ったが、カロンとしては残念極まりない。
おっさんになったが、カロンとて中身は男性である。
巨竜をカッコ良く討伐するシチュエーションは、正直憧れがある。
「いいですか? カロン、あなたは『管理人』なのですよ。ソシャゲでいう所の、指揮官とか提督とか、団長とかオーナーです。彼らは戦闘に直接加わらないでしょう?」
「確かにそういう奴も多いけど。じゃあ、私は基本サポートって事なんですか?」
「その通りです。あなたが皆を導いて、ファフニールさんを倒すのです」
ボインプルンの無茶ぶりはいつもの事だが、さすがに今回は辟易した。
今までやってきた鍋奉行もどきとは難易度が違いすぎる。
しかも、こっちは全員雑魚揃いである。
「その表情……カロン、あなたはこのミッションが不可能だと考えていますね?」
「そりゃそうですよ。だって、こっち寄せ集めだし……数回敵の攻撃を防げる程度じゃ……」
「そう言うと思い、もう一つのプレゼントを用意しました。イベントお助けキャラクターです」
「お助けキャラ?」
「もちろん、この方も救済される魂として呼び出しました。さあ、迷える魂よ、我が元に来るのです……」
ボインプルンが目を閉じると、胸の谷間から虹色の光が溢れ出す。
そして、その光の中から宝石が現れ、空中にふわりと浮かぶ。
七色に輝く宝石は、そのままゆっくりと部屋の中心部に移動すると、ひび割れていく。
それはまるで、卵からヒナが孵るようだった。
「フンガー!」
宝石が完全に割れ、中から現れたのは、巨大なモアイ像に短い手足が生えたような奇妙な物体だった。
「紹介します。この方がカロン達の強力な助っ人。その名も、ゴールデンアイアンゴーレムさんです」
「フンガー!」
2メートルを超える巨大な黄金モアイは、ボインプルンの声に呼応するかのように吠えた。




