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第12話:暴君竜ファフニール降臨

「カロン……目覚めるのです。カロン……」

「んん……?」


 枕元で囁かれる声にカロンの意識は覚醒した。

 カロンが目を擦りながら半身を起こすと、少し疲れた表情のボインプルンが立っていた。

 彼女の後ろにある壁掛け時計を見ると、時刻は朝9時を指していた。


「メンテナンスが思ったより難航して延長しましたが、無事終わりました」

「はぁ……」


 寝る前に安息地に修正を加えると言っていた事を、カロンは寝ぼけ頭で思い出す。


「というわけで、準備を整え、安息地へ向かうのです。きっと驚くと思いますよ」


 ボインプルンは多少疲れているようだが、一仕事終えた満足感溢れる笑みを浮かべていた。

 そして、勝手にカロンの冷蔵庫からヨーグルトを出して食べていた。


 ボインプルンの行動には目をつむり、カロンは顔を洗う。

 カロンは、特に化粧しなくてもすっぴんでお肌すべすべになる。

 後は寝ぐせを整えれば、神秘的な雰囲気を醸し出す美少女の出来上がりだ。


「どうせ碌な事になってないんだろうな……」


 カロンは安息地へ続く道を歩く途中、独り言を呟いた。

 ボインプルンが自信満々で語る時は、カロンにとってあまりよかった試しが無い。

 とはいえ、悪行をそのままにしておく訳にもいかない。


「カロン! よかった! 無事だったのね! どこも怪我してない!?」

「え? うん……」


 安息地の屋敷の廊下に出ると、アイリが大慌てでカロンに抱きつき、べたべたと頬を触る。

 普段元気なアイリの瞳には、隠しようのない怯えが見える。


「アイリ! カロンは見つかったのか!?」


 アイリに続き、廊下の向こうから叫びながらアーノルディとジーパンが駆けてくる。


「姐さん! ありゃ一体なんですかい!?」

「え? え?」


 荒い息を吐く三人のうち、ジーパンが血相を変えながら窓の外を指さす。

 カロンがその指の先を辿っていくと、


「グルォォォオオオオオオオオオオオォォォ!!」


 一頭の巨大な竜が、業火を吐きながら天空を飛びまわっていた。

 その竜は、身の丈数十メートルはある巨躯(きょく)を持ち、全身が黄金色に輝いている。


「我々が目覚めると、気が付いたら空にあの竜が居たんだ。今の所襲い掛かってくる気配は無いのだが……」


 アーノルディがそう言うと、ジーパンとアイリも首を縦に振る。

 三人とも不安そうな表情を浮かべていた。

 そりゃ、目覚めたら火を吐く巨大ドラゴンが空を飛んでたら驚きもするだろう。


 もちろんカロンも仰天しているのだが、能面モードのため表面上は極めて冷静そうに見える。

 カロンの平然とした佇まいを見て、他の三人も幾分落ち着きを取り戻したようだ。


 その時、窓の外を眺めていたカロンと、空中を旋回する竜と視線が合った。


 竜はゆっくりと翼をはためかせ、屋敷の前の平原に降り立った。

 地面に降りた竜は近くで見ると山のようで、頭の高さは屋敷のてっぺんを超えていた。


「我は暴君竜ファフニール……我は破壊の化身。全ての生命を飲み干す竜なり……」


 ファフニールと名乗る竜は、地の底から響くような声で喋り出す。


「我、この地に顕現(けんげん)し、己の使命を全うする者なり。矮小なる者どもよ。この地を不毛の大地にされたくないのなら、我が暴威をその力で止めて見せるがよい」

「えぇ……」


 カロンは怖いとか以前に困惑していた。

 これはどう考えてもボインプルンの差し金だ。

 だが、安息地はひどい目にあった魂を救う癒し系スポットでは無かったのか。


「禁断の山脈で待つ。弱き者よ、せいぜいあがく事だな」


 ファフニールは一方的にそう言うと、咆哮(ほうこう)を上げ、空高く舞い上がる。

 そして、昨日まで未実装地帯だったはずの、霧に覆われた方へ飛び去っていく。

 いつのまにか霧は晴れており、その先に、緑豊かな山脈が広がっているのが見えた。


「か、カロン……どういうことなの?」

「……分からない」


 アイリが不安げカロンに尋ねるが、カロンは首を振るだけだ。

 本当に分からないのだから仕方ない。


「あの野郎! 姐さんの土地に勝手に入り込んできやがって! 今すぐブチのめそうぜ!」

「待て! 相手は竜だぞ! まともに戦って勝てるのか?」

「そ、そりゃあ……その……」


 ジーパンは激怒していたが、アーノルディの冷静な言葉で一気にしぼんでいった。

 基本的に全員低レアキャラであり、かつ実践経験もほとんど無い。

 いきなりあんな怪物に「力を示せ」とか言われても困惑するだけだろう。


 その直後、三人の視線がカロンに集中する。


「カロン、君はこの世界の管理人なのだろう? あの竜について何か知らないか?」

「……分からない。けれど、あの竜が来た経緯なら、予想出来る」

「ヒュウ! さすが姐さん! んじゃ、あいつをぶっ飛ばす方法なんかも知ってるとか?」

「それは……少し時間が欲しい」


 そう言って、カロンは三人に背を向けると、壁に溶け込むようにして消えていった。


「暴君竜ファフニール……恐るべき竜に違いない。だが、次は負けはしない!」


 ここに送られる直前、竜に半死半生にされた経験のあるアーノルディは、ファフニールに対する闘志を燃やしてた。だが、竜を相手にするには力不足である事も理解はしている。


「大丈夫だよ! カロンなら、きっとあの竜を倒す方法だって知ってるよ! だって、カロンはこの世界の管理人なんだから」

「おうよ! 暴君竜だか何だか知らねぇが、俺達の力を見せてやろうぜ!」


 カロンならきっと何か攻略法を編み出す。

 彼女はそのために姿を消し、何か細工をしているはずだ。

 そんな期待を胸に、三人はカロンの帰還を待つことにした。



「どういう事ですか!? ファフニールって何!?」

「ふふ、驚いたでしょう」

「いや、笑いごとじゃなくてですね。説明して下さいよ」


 その頃、自室に戻ったカロンは困惑しながらボインプルンを問い詰めていた。

 三人には申し訳ないが、カロンだって何も知らないのだ。


「先日、ジーパンさんが安息地を出たがらないという事を聞きまして、緊急クエストを実装しました。名付けて、『脅威! 暴君竜を討伐せよ!』というのはどうでしょう?」

「どうでしょうじゃなくて、なんでそんなの入れたの!?」

「よくぞ聞いてくれました。私は、間違っていたのです」

「それは知ってます」


 カロンが否定しなかったのが不満だったのか、ボインプルンは一瞬険しい表情になる。

 しかし、咳払いを一つし、何事も無かったかのように言葉を紡ぐ。


「カロンはモーゼの十戒をご存知ですか?」

「モーゼって、海を二つに割る奴だっけ?」

「そうです。迫害されていた民は割れた海を渡り、安息地へ辿り着きました。その時、神により定められたのが『十戒』です。ですが、人々は安息のあまり、神の定めた戒律を守らず、堕落してしまったのです」

「はあ、それで?」

「つまり、安息地といえど、適度に緊張感が無いと駄目なのです。というわけで、凶悪な暴君竜ファフニールさんを討伐してください」

「いやいやいや」


 確かに、人生において適度な刺激というものは必要なのであろう。

 だが、いきなりドラゴン討伐はぶっ飛び過ぎではないだろうか。


「そんな事したら死人が出るのでは?」

「大丈夫です。ファフニールさんも死なない程度に殺しに来るでしょう。ただ、負ける度に痛い思いをすると幸福度が下がりますので、うまく戦略を考えて戦って下さいね」

「そう言われましても」


 カロンは相手のプロフィールが見える以外に戦闘能力は無い。

 ついでに言うと、他のメンバー三人もみんな雑魚である。


「あの、何というか……いきなり難易度高すぎるのでは。それに安息地で殺し合いはちょっと」

「いいえ、これはあなた方にとって必要な試練であり、また、ファフニールさんにとっても大事な事なのです」

「ファフニールにも?」


 適度かどうかはさておき、戦闘イベントが実装されたのは間違いない。

 しかし、それが今の三人のためだけではなく、暴君竜ファフニールにも大事というのがよく分からない。


「意味が分からない、という顔をしていますね。では、お話しましょう。ソシャゲ運営が生み出した、低レアとはまた違う悲しき犠牲者、『がっかりSSR(ダブルスーパーレア)』について……」

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