第13章 王様にされた
物凄く大きな建物だった、地上100階建てで職員20万人が働いてるそうだ、ゴブリン帝国を統括する首都の更に中枢の建物だ。この中に王様がいるらしい。俺達の世界の王様と違い毎日忙しく働いてるのだそうだ。エリザベスの後をついて行ってるが何か嫌な予感がする。出迎えのゴブリン達が目をキラキラさせて何かを期待している。何処かで見た事が有る感じだ。
「さあ着きましたわ、王が待ってます。」
大きな扉の中には大勢のゴブリン達が居た。この部屋に居る者は皆王国の重鎮達なのだろう。100億人程の代表らしいから数が凄いのも当然だろうな。部屋の中は何百人もの仕立ての良い服を着たゴブリン達がいたのだ。俺達ははっきり言えばみすぼらしい身なりだった。
「父上、男爵様をお連れしました。」
「おおそうか、ご苦労!」
一段高い所からキングゴブリンが降りて来た。でもなんか弱弱しい。キングゴブリンなのに180センチ位で痩せているのだ。なんだか顔もほおがコケている。俺の知ってるキングゴブリンの強烈なエネルギーが全然感じられないのだ。でもまあ相手はデッカイ国の王様なので膝をついて挨拶する事にする。
「初めてお目にかかります、ダイ男爵と申します。」
「・・・・・・・」
俺が王に跪いて挨拶すると場内がざわめいた。何か俺が失敗したのだろうか?俺ははっきり言って田舎者なので良く分からない。
「ひいィィ~!!!!!!やめて下さい男爵!」
「えっ・・・」
ふと前を見ると王様が腹を上に向けて転がっていた。ゴブリンの降参の体勢だがいったい何に降参してるんだ?周りにいた沢山のゴブリン達は土下座している。
「師匠、立つゴブ。皆恐怖で固まってるゴブよ。」
「なんで?」
「さっきからアーサーが滅茶苦茶殺気を放ってるゴブ!」
アーサーを見ると不機嫌な顔をして怒ってる様だ。殺気と威圧を同時に放っている。エリカも物凄く怒っている。
「止めろ!アーサー、エリカ。何怒ってるんだ。」
「これは失礼しました主殿、たかがキング如きが主に膝をつかせる等、許せることではござらん。」
「マスター、最初が肝心ですわ!」
「だから止めろ!俺達は喧嘩しに来たんじゃないぞ!」
アーサーとエリカは渋々殺気をひっこめた。そこで俺は付き人の無礼を王様に謝った。
「王様、私の部下が失礼しました。」
「いやいや、良いのです。アーサー様は私より遥かに上位のゴブリンですから。」
「お父様、勿体付けてる場合では有りませんわ!さっさと男爵様にお願いしないからアーサー様達がお怒りなんですわ!」
「そっそうだな、早速始めると仕様。」
「それではこれより帝国の移譲式典を始める!」
なんだか会場が盛り上がっている、おかしい。今移譲って聞こえたような気がする。
「おい!ちょっと待て。なんだその移譲ってのは・・・・おい、聞いてるのか。」
王様は俺と目を合わさない様にして、マイクに向かってペラペラ喋っている。俺のクレームはガン無視だ、アーサーやエリカはニコニコしてるから余計嫌な気がする。絶対面倒な事になるに違いない。
「・・・それでは、私の次の国王、ダイ男爵をご紹介いたします!皆さん盛大な拍手を!」
「おいちょっと待て!何の事だ、こんな事聞いてないぞ!」
王様はわざと聞こえないふりをしてドンドン話を進めている、会場のお偉いさんたちも俺を無視して拍手している。こいつら既成事実を作って俺に何かをやらせる気だ。
「ダイ男爵は約束の星から我々を救いにわざわざいらしたゴブリンの神であり・・・・・・・」
「なに言ってるんだこいつ、俺はカテゴリー1の未開の種族じゃなかったのか?」
「皆さま盛大な拍手で男爵様をお迎えください!」
うわ~!!男爵様!~新王万歳!!!!!
何を言っても駄目だった。ゴブリン達は興奮状態にあり人の話を全然聞かなかった。俺はいつの間にかゴブリン100億人の王様にされてしまった。いやもっと悪いな、神とか言ってたような気がする。アーサーやエリカはニコニコして当然って顔をしていた。ゴブ吉はいつもと同じ平然としていた、こいつは大物だからな。俺は何だか胃が痛く成って来た。
「おい!エリザベス!どういう事だ。」
「あら、ちゃんと私は言いましたよ。王国は男爵様のものだと。」
「そんな訳が有るか!100億人の国を知らない人間に治めさせるなんておかしいだろ!」
「主なら可能です。」
「マスターがゴブリンを統治するのは当然です。」
「何とかなるゴブよ」
「お前ら、黙れ!おい、王様!これで良いのか?」
「いや、実はですね男爵様・・・これには訳がありましてですね・・・」
前の王様はこれまでの事情をポツリポツリと話し出した。ゴブリン王国の王は代々世襲制なんだそうだ、でもキングゴブリンは戦うのは得意だが統治なんかできないので毎日頭を使って気が狂いそうなのだそうだ。頭の良いメイジゴブリンに代わってもらおうとしたが、王様なんか辛いだけなのでメイジゴブリン達は絶対にならないのだそうだ。それで前王はヒョロヒョロしてて病気にしか見えなかった様だ。このままでは死ぬか気が狂うのでエリザベスに聞いたゴブリンの神にお願いする事にしたそうだ。
「う~ん、事情は分かったが。俺にも無理だぞ、俺はカテゴリー1の人間だからついて行けないぞ。」
「大丈夫です、我が国の優秀なメイジ達が全力でバックアップ致します。」
涙を流して俺に縋るキングゴブリンを見てチョット可哀そうになったので、少しの間だけ変わってやることにした。疲れてる様だから多分休息が必要なんだと思ったのだ。疲れると弱気になるのは人間もゴブリンも一緒だからな。
「それじゃあちょっとだけ変わってやるから、少し休むと良い。」
「はは~、ありがとうございます。」
それから、歓迎式典なんかが有り。俺が新王なのがゴブリン王国に広く公布されてしまった。その間もオークのステルス艦の分析やオーガの偵察艦の解析なども内密に行っていた。この2隻を手に入れたのは機密事項として処理させた。
「やれやれ、友好条約を結びに来たのにどうしてこんな事になったんだろうな?」
「良いではないですか主殿。主の一存で友好条約は結べますぞ。」
「そうですわ、これは当然の帰結です。」
「まあ、何とかなるゴブよ。」