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第七話

「ほい! よし! これでまた一組! 次、空だよ?」

「早くひけー」

「……なんで、お前が俺達の部屋にいる」


 あの試合以来、響香との仲はそれなりに進展した。

 勉学の際は、隣でこそこそ会話したり、俺が勉強を教えたり。

 昼食になると、メルとも一緒に楽しく食べたり。


 自由時間に組み手をしたり、とまあ色々と仲良くなったわけだが。

 どうして、響香は俺達の部屋で普通にトランプをしているのか。さすがに、部屋に遊びに行くほど仲良くなってはいないと思っていたのだが。


 ちなみに、今日は休日。

 戦いのために集まっているが、それでも俺達はまだ学生という年齢である。学園である以上、休日がないと疲れで倒れてしまう。

 いくら、身体能力が向上しているとはいえな。


「なんでって、休みの日に友達と遊ぶのは当たり前じゃない!」

「確かにそうだけど」

「響香。どうやら、空は「おめえと友達になった覚えなんてねえよ」って思ってるよ、これ」

「そんな! あんな熱い試合をした仲だって言うのに……ひどい!」


 メルの嘘っぱちを信じてショックを受けている響香。

 なんてわざとらしい。

 冗談だとわかっていて悪乗りをしているパターンだな。


「そんなことないって。大丈夫だ。響香は俺の友達だ。だから、落ち着けって。な? それと、メル。適当なことを言うなって」

「ほうほう。空は、随分と響香のことを知ってらっしゃるようでー。嫉妬ですわー」


 ですわーっと小さくセルフエコーをする。

 本気なのか? それともわざとなのか? 少しわかりずらいな。


「なんてったって、親友だもんね!」

「飛躍し過ぎだろ、それは」


 こんな会話をしながら、俺達はトランプでババ抜きをしている。

 俺はシャツにズボンと楽な格好をしていて、メルは相変わらず女の子らしい洋服を着てベッドの上に座っている。


 そして、響香なのだが。

 性格上、予想はしていたんだが思ったよりラフ過ぎる格好をしている。

 タンクトップに、短パンと……夏かよ! と突っ込みたくなる格好だった。この学生寮には俺以外、女子しかいないからこういう格好は大丈夫なんだろうけど。


 ツインテールだった髪も解いて、長い黒髪が布団についている。

 開放感あり過ぎだろ、こいつ。

 少しは、男への配慮というものをだな。


「ほーい。あがりー」

「ええ! また、メルが一番?」

「すごいな。お前。さすが、遊び盛りな十三歳ってところか?」

「ふっ。伊達に、世界中の娯楽という娯楽を遊んでいるわけじゃないからね」


 カードをぽいっと捨て、勝利のポーズを取る。

 先ほどもそうだが、こいつはどうやらゲーム類はかなり強いらしい。部屋に居ると必ず携帯ゲーム機でなにかしらのゲームをプレイしていることから、無類のゲーマーとというか遊び人と考えられる。


 それに、お菓子も好きのようだし……それ以外にもハンバーグやオムライス、カレーライスと子供の好きそうな定番料理をよく食堂で注文している。

 まあ、十三歳だかなんとなくわかるような気もするが。


「よっしゃあ! 後は、あたしと空だけだね! 勝負! 勝負ッ!!」


 と、手札を見せつけ叫ぶ響香であったが。


「すまんが、これであがりだ」

「なんと!?」


 すでに、ジョーカーではないカードを引く準備は終わっていた。

 こいつは手札の位置を変えないから、覚えておけばすぐ引ける。

 というわけで、俺は二番、と。


「ん? 誰か、来たみたいだな」


 あがると同時に、インターホンの音が部屋に響いた。

 俺は行ってくると言って、ドアの前まで移動し部屋の中に設置してあるモニターからドアの前にいる人を確認する。

 そこに立っていたのは。


『こんにちは。ユリアです。今、お時間よろしいでしょうか?』

「ゆ、ユリア様!?」


 あのユリア様が立っていた。

 真っ白なレースのワンピースがよく似合うが……何ゆえにここへ? 何か、連絡でもあって伝えにでも来たのだろうか? 

 俺は、待っててくださいと告げモニターを切り、鍵を解除しドアを開ける。


「どうして、ここへ? 何か連絡事項でも」

「いえ。そうではないのです。私も丁度、暇でしたのでどなたかと交流を深めようかと思いまして」

「それが俺……というか、俺達なんですか?」


 この部屋にはメルだって一緒に住んでいる。

 俺だけと交流を深めにくるはずがないが……少し妄想してしまった。


「はい。他の生徒さん達に聞いたところ、あの響香さんも来ているとお聞きしましたので。まずは、私が今注目している生徒さん達から、と。とはいえ、空くん達と遊んだ後は他の生徒さん達とも時間が許す限り交流しようと思っていますが。……よろしいでしょうか? お邪魔しても」


 交流を深める、か。

 そういうことを考えれるユリア様だからこそ、あんなに人気があるんだろうなぁ。それに、まだユリア様は十代。

 友達と遊びたいという気持ちが溢れてきているのだろう。


「はい、いいですよ。どうぞ」

「では、お邪魔いたします」


 まさか、ユリア様を部屋に迎えることになろうとは。

 部屋に入ると、すぐに二人がユリア様を見て驚くも、すぐに交友的な態度を取り始めた。


「まあ? トランプをしていたんですか」

「ユリア様も一緒にどうですか? 今、丁度終わったところだったんで」


 と、響香が提案。


「はい、是非」

「じゃあ、またババ抜きをしよー。混ぜるねー」


 メルがカードを集めて混ぜる。 

 その後、よくシャッフルして、均等になるようにカードを配ってく。その後、ペアができたカードを捨てる。

 皆、終わったようなので。


「じゃあ、一番乗りだった私から時計周りでー」

「よーし! 今度こそ勝ってやる!」

「結構余ってしまいました」

「うーむ……これはいい手札だな。いけるか?」


 ババ抜きが始まり、どんどんカードを引いてはペアができたら捨て、できなかったらそのまま進めるを繰り返す。

 そこで、響香があることを思い出し、ユリア様の問いかけた。


「そういえば、来週からなんだか特別訓練みたいなのがあるらしいけど。ユリア様は何か知りませんか?」

「来週からの訓練ですか? そうですねぇ、それはたぶん……あっ」


 ユリア様! 顔に出ています! 絶対、ジョーカーを引いちゃってるよユリア様。

 話の途中で、カードを引いたユリア様は、あからさまに何かあったと言う表情を見せた。

 絶対ジョーカーを引いた。

 だが、こほん、と咳払いして何事もなかったかのように、カードを引きながら話を進める。


「おそらく、それは『クラストーナメント』に向けての訓練ではないでしょうか?」

「クラストーナメントですか?」

「はい。四月から一ヶ月後に行われる恒例行事で、一ヶ月でどれほど成長したのか各クラスから三人まで選ばれて、小さなトーナメントを行うんです」


 なるほど。

 この一ヶ月。

 どれだけ俺達は戦の基礎や【戦乙女】を扱えるようになったか。それが試される場、ということか。

 でも、人によっては一ヶ月ではそれほど成長していないものもいるかもしれない。

 そのための訓練、ということなのだろう。


「でも、クラスから三人まで。までだから、一人とか二人もありえるかもしれない。それもペアじゃないってことは同じクラス同士で戦うことになりますよね?」

「その通りです。ですから、どちらかが勝ったら、そのクラスでその方が一番強い、ということにもなります」

「それに最後まで勝ち残った者がクラス全体で一番強いってことになるんだね。ほい、また私いちばーん」

「はや!? もうあがりかよ」


 俺も手札は悪くなかったと思っていたんだけど。

 またメルが一番か。

 ババ抜きは簡単な遊びのように見えるが、意外と手札が減っていく毎に駆け引きが大事となってくる。それをメルは簡単にやって見せている。

 こいつ、ポーカーフェイスがうま過ぎるからな。


「あっそうそう。ビリの人は罰ゲームを受けてもらいまーす」

「おい、そういうのは始まる前に言うもんだろ!?」

「勝った者が偉いのだよ」


 確かに、そうだけどさ。

 はあっと、頭を抱えながらユリア様を見る。


「ユリア様がビリだったら、どうするんだよ?」

「私は、ユリア様だろうと罰ゲームを実行しちゃう。それこそメルちゃんクオリティーなのだ」


 こいつだったらそういうだろうと思っていたが、マジで言いやがった。


「私は構いませんよ? こういう遊びにはつき物ですから」

「本当にいいんですか? ユリア様」

「大丈夫ですよ。さあ、続けましょう」

「よし! じゃあ、あたしが……てい! やった! ペアだぁ!」


 そんなこんなで、罰ゲームありのババ抜きが続く。

 三人とも劣勢を強いられたが。

 結果としてはその……なんと言いましょうか。俺は、自分の手札を見詰めながら、ゆっくりとカードの山の上に二枚を置いた。


「あの……あがり、です」

「あう……負けちゃいました」


 ユリア様がビリになってしまった。

 ジョーカーを見詰め、悲しそうな表情を浮かべるユリア様。そして、無常にも罰ゲームを実行しようとするメル。


「はーい。では、ビリのユリア様には罰ゲームでーす」

「は、はい」

「メル。あんまり、無茶な罰はやめろよ?」

「大丈夫だーいじょうぶ。そうだなー」


 考えるそぶりを見せ、俺とユリア様を交互に見比べる。

 な、何をする気なんだ? 


「よし。決めた。じゃあ、ビリのユリア様。ジュースを買ってきてください」

「ジュースを?」

「おいおい。ユリア様をパシリに使うつもりか?」


 そういうことだったら、俺が代わりにだな。


「空と手を繋ぎながら」

「……は?」


 俺が代役としていこうと宣言しようとしたところにメルのとんでもない言葉に止まってしまった。動きも思考も。

 ユリア様も予想外だったのだろう。

 目をパチパチと瞬きさせていた。

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