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第四話

「あれが、一之瀬君の【戦乙女】?」

「へー。あんな風になるんだぁ」

「でも、女性にしか発現しないものだったわけだし……」

「納得、かも?」


 俺の【戦乙女】を発現させた姿を見て、女子生徒達は一度は驚愕したもすぐに納得したような表情で見詰めてくる。

 正直、そんなに見詰められると恥ずかしいんだが。 


 ただでさえ! そうただでさえ……こんなねぇ。


「予想はしていましたが。やはり、女性になってしまわれるのですね」

「は、はい。いやぁ、私もびっくりしましたからね。性別が変わるっているのは」

「あら? 一人称も変わってしまうのですか?」

「その、自然と私って言ってしまうんですよ。戦乙女の意思とでも言うんでしょうか?」


 そう、一人称が変わってしまうほど俺は女になっているのだ。

 元々【戦乙女】は女性にしか発現しないものだった。それが男である俺に発現することは、どういう意味があるのか?


 ただ、真似事でやった動作で偶然にも発現させてしまい……こうして性別が変わってしまった。

 自慢の黒髪は偏りも少し長く、そして色素を変えて夕日のように綺麗な茜色になっている。漆黒の瞳もアクアマリンを填め込んだような綺麗な青い色に染まっている。


 発育途中の中学生という感じのプロポーション。

 あまり大き過ぎず、小さ過ぎず。

 平均的な体躯で、カッコ可愛い剣士風の格好だ。レオタードのように肌に張り付くボディスーツに、スカート。下着のように見えるが股関節の部分までセットなので大丈夫。


 そして、肝心の武装はまるで『機械天使』のようなデザイン。

 背中に装着されているのは小さなリング状のもの。そこからブースターのようなものが左右合わせて六枚生えるんだ。

 機械部分は短めで、そこから光の翼が生えるような感じだったな。

 腕や足には薄めの装甲で軽快に動きやすいようになっている。

 全体的に白いカラーリングだが、赤や金色のラインがあり少し鮮やかだ。


 それにしても……最初装着した時も、学園長達に見せるために装着した時もそうだったけど……慣れないよなこれは。

 股のところがスースーするし、胸の重さも違和感がある。ニーソックスを穿いているとはいえ、男の時半ズボンを穿いたあれよりもスースーする。

 何よりも、声質が変わって女性らしい高く。若干アニメ声になっていて、本当に自分は男だったのか? と疑問に思ってしまうほどだ。


「あのそろそろ始めていただけると、大変嬉しいのですが」

「あら? ごめんなさい。ついつい見惚れてしまっていました」

「こ、光栄です」

「それでは、空くん……今は空さんとお呼びしたほうがいいでしょうか?」


 と、性別が変わっているためにくんづけはいいのか? と首を傾げているユリア様。

 今は女だけど、元は男だからくんづけのほうがいいんだが。

 俺の心が、なんだかさん付けにして欲しいと言っているような気がする。


「さんづけで、お願いします」

「はい。では、空さんが【戦乙女】を発現させたところで少しおさらいをしましょう。まずは戦乙女とはいったい何のか、です。この武装はかつてこの世界で戦場を駆け抜けた乙女達の力そのものなんです。古い文献や教科書などにもよく載っている有名な乙女以外にもまだ見ぬ乙女達があなた方の内……【心門】に眠っている」


 ゆっくりとそして聞きやすい声音でユリア様は【戦乙女】について説明を始める。

 俺は、発現させた状態でユリア様の言葉に耳を傾ける。


「【心門】とは、私たちの心を守る門のこと。乙女達の魂はあなた方の心と同調しています。そこで、その魂を繋げる言葉が何なのか? 先ほど空くんが言ってくれましたが……さて、何と言う言葉でしょうか?」

「はい」


 いち早く手を上げたのは……小柄な体系で眠たそうな目をしているメルだった。

 そっか同じクラスだったもんな。


「はい、ではメル=バークフォルさん。答えをどうぞ」

「答えは、我が呼びかけに応じよでーす」


 相変わらず、マイペースな口調だ。

 しかし、常識というものはさすがのメルでも知っているようだ。マイペースな口調だが。


「正解です。乙女達の魂と私達の心をひとつにする言葉。ライドの言葉により【心門】に眠る乙女の魂と同調し、繋がりを強くさせるんです。そして、その魂を具現化させるために要されるのが乙女達の真の名。空さんの場合は、戦乙女セイヴァー、でしたね?」

「はい、そうです」


 歴史的なところから言えば、アテナやジャンヌダルクとかだな。 

 他にも、歴史的に言えば女性じゃないが、戦乙女として発現しているものもある。

 俺のように、歴史上で活躍をしていないようなオリジナルな戦乙女も多く存在する。むしろそっちのほうが多いかもしれない。

 つまり、有名どころの戦乙女を発現させたものは、ラッキー。大喜びしていいと思う。


「このように、乙女達は真の名を正しく発言させることで、武装の形として私たちの体に具現化。戦乙女として現世に姿を現す、ということになりますね。真の名は、自然と乙女達が教えてくれますので、正しく発言しましょう。……ここまでが、おさらいになりますが。私達には常識とも言える知識なのでちゃんと復習をしておきましょう!」

『はい!! ユリア様!!』

「良い返事ですね。では、次に【戦乙女】を発現させた者がいったいどういう動きをするのか。実際に動いてもらいましょう。空さん、よろしいでしょうか?」


 小首を傾げて問いかけてくる。

 そんな仕草に可愛いと思いつつも、俺は「はい、大丈夫です」と返事をする。そして、少し離れたところで俺は実際に動いて見せた。


「いきます!」


 最初は、自慢の翼を羽ばたかせ飛翔。

 リング状の機械が唸りを上げ、光の翼が羽ばき、粒子が放出される。それがブースターの要領で移動する際、噴射する。

 まだ慣れないが、ここに入学する前に少しは練習していたので、何とか制御ができているようだ。


 そして次に、ユリア様が用意してくれたターゲット目掛け滑空攻撃を仕掛けた。

 腕に装着されている機械のアームで一撃。

 見事に倒れたサンドバックのようなターゲット。

 残りのターゲットは、この武装に秘められている粒子を剣の形にし切り裂いた。他にも、武装はあるが今回は流し程度だから、こんなものだろうと判断した。


「……こんなものでいいでしょうか?」


 降下した俺は光の剣を消し、観戦していた皆に問いかけた。

 すると、すぐにユリア様が拍手をし、それに続いて女子生徒達が大きな拍手をするので、少し驚いてしまう。


「まだ不慣れな武装をあそこまで扱えるなって、すごいですね。これからの成長に期待しちゃいますね?」

「はい、頑張ります!」


 ユリア様に期待されるなら、頑張るしかない。

 男として、素直にやる気が湧き出てきた。

 今は、見た目だけは女だけど。


「では、皆さんも実際に戦乙女を発現させて自由に動いてみましょう。今日の授業はそれで終わりです。初日ですので、感覚を掴むようにしたいんです。よろしいでしょうか?」

『はい!!』


 こうして、午後授業は戦乙女を発現させたまま自由に動き、ユリア様にアドバイスを貰いながらどう動くかを自分で考えたりと、自由な時間が過ぎていった。




・・・・・☆




 この学園は全寮制である。

 なので、授業が終わると生徒たちは寮にある自分の部屋へと帰るのだが……俺はどうなるのだろうか?

 ここは女子だけが通うつもりで設立された学園。

 寮だって、女子しかいない。


 俺だけ一人部屋とか?

 それだったら、嬉しいんだけどな。

 そんな特別な扱いをしてくれるのだろうか……あの学園長が。


「それじゃあね! 一之瀬君!」

「暇があったら絶対遊びに行くから!!」

「ばいばーい!!」

「ああ。また」


 一緒に帰宅した女子生徒達と別れた俺は自分の部屋の前に居る。

 緊張が走る。

 いったいどんな部屋なのか……俺は、一人部屋なのか? 


「……よし、行くか」


 ドアノブを捻り、部屋へと入っていく。

 そこに広がっていたのは、まるでホテルのような広々とした空間。

 奥へと歩いていくと……ベッドが二つもあった。

 だが、誰の姿もない。

 荷物は……あったよ。

 ベッドの間に、大きなバックが置いてあるのを確認した。


「やっぱり、相部屋か。こうなったら、腹を括るしかない」


 そんな決心をすると。


「やほー」

「うわっ!? って、もしかしてメルか?」

「うん、メルメルだよー」


 なんだよ、メルメルって。

 いつの間にか俺の真下で俺のことを見上げていためる。

 学園の制服ではなく、何かラフな私服を着ていた。

 まさかとは思うけど。


「メルが、俺と同室なのか?」

「うん。これから一年間よろー。青少年」


 と、ベッドの上に飛び乗り軽い挨拶をした。


「だから青少年って……まあいいか。いや、よかったよ。少しでも見知った顔だとホッとする」


 メルが乗っていないベッドに荷物を置き、どっかりと腰を下ろす。

 ふう、今日は疲れた疲れた。

 日ごろ運動なんて滅多にしなかったし。始めての授業。初めての女子に囲まれる環境……ハーレム主人公は、こんな疲労感を覚えて過ごしているんだろうか。


「ほい、お菓子食べる?」

「え? いいのか?」

「どぞどぞ」


 メルは、短めの棒チョコを俺に渡してくる。

 いつの間に食べていたんだ。

 まあでも、丁度腹が減っていたことだし。夕食前だけど大丈夫だよな? これぐらいの量だし。


「ありがとう」

「うむ。しっかり、噛み締めるように」


 本当に不思議な子だ。

 俺は、貰った棒チョコを齧りながらふ、と頭に浮かんだことをめるに問いかける。


「なあ、メル。こういうことを女の子に聞くのはデリカシーがないって思われるだろうけどさ」

「なに?」

「メルって……何歳なんだ?」

「十三だよー。ピチピチだよー」


 思ったより、軽く答えてくれた。

 ……メルの性格上、そんなに気にしていないってことなのか? それにしても十三歳か。俺と二つしか違わないのかぁ。


「そ、そうか。教えてくれてありがとう。ちなみに、俺は十五歳だ。お互い歳が近いし、これから仲良くしていこうぜ」

「断る理由がないので、おけー。これからよろ!」


 ぐっと、親指を立てキリッとした表情になる。

 それに釣られて、俺も親指を立てた。

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