第三話
その日の昼休み。
俺は、食堂に来ていた。
この学園には、食堂が完備されており、食券を買い好きな食べ物を食べられる。
俺は、腹が膨れるようにカツ丼を選択。
食券を買い、食堂のおばちゃんにそれを渡す。
自分の後ろを見れば、同じく食券を買い昼食を食べようとしている女子生徒がずらりと。
この学園では、学年ごとに見分けがつくように胸に紋章がついている。
一年生は星ひとつ。
二年生は星ふたつ。
三年生は星みっつと……ずいぶんと見分けやすいようになっているみたいなのだ。
よくあるリボンなどの色が違う、というのはないらしい。
どちらにしろ、見分けがすぐつくのは嬉しいことだ。じゃないと、学年が上なのに「一年生の教室はこっちだよ?」とか言っちゃったら大変なことになる。
そうじゃなくても、この学園は年齢層がバラバラなうえに種族だってバラバラだ。獣人やエルフなどは、特徴があるからすぐに見分けられるけど。
学年が上でも、本当の年齢は上というややこしいことになっているんだよなぁ。
そんなことを考えていると、丁度カツ丼がおぼんの上に乗っかり出てくる。
たくあんと小さな味噌汁もセットであるみたいだ。
うーん……いい香りだ。
早く、空いている席を見つけて食べようか。
おぼんを持ち、食堂を歩く。
どこか、いい席は……おっ。あそこがいいかもな。
窓側の席で、景色を見ながら食事ができる良い席を発見した。すぐにそこへ向かいおぼんを置き、席に着く。
「いただきます」
食べ物への感謝の気持ちを忘れずにして、蓋を開ける。
そこから沸き立つ湯気が、卵と味付けに使った出汁の匂いを俺の鼻に漂わせ、すきっ腹に攻撃。
これはでかいカツだな。
こんがりと揚げられた丼ぎりぎりまでの大きさであるカツ。
歯ごたえがありそうだ……って別に俺はグルメじゃないから考える前に齧れ、だ!
「……うまい!」
これは、うまい。
学園の食堂で出てくるような料理ってこんなにもうまいものだったのか。中学校では弁当だったからぁ。
食堂デビューは高校生で、だもんな。
これはよく噛み締めて、味わって食べなければ。
「やっほー」
「え?」
カツ丼を味わっていると、いつの間にか俺の隣に座っていた女子生徒が居た。
白だけかと思っていたが、水色と混ざり合っている珍しい髪の色をしている。尻尾のように一本に纏めた長い髪の毛を揺らし、赤い瞳で俺のことを女子生徒は見詰めていた。
小柄な体系で、小学生ぐらいかな? と思いながら胸の紋章へと目が行く。
「同学年?」
「そだよー。私は、一年一組のメルだよー。よろ」
「よ、よろしく。俺は」
「知ってる。唯一男で【戦乙女】を発現させた一之瀬空、でしょ? むふん」
あってるだろう? と言いたげな表情をするメル。
こ、これはどうやって対処をしたほうがいいのやら。どう見ても、俺よりは年下だろうし……でも同学年ってことになっているし。
本当、ややこしいなぁ。
「えーっとメルは俺に何か用事があるのか?」
「なくちゃ、話しかけちゃだめなのー?」
「いや、だめじゃないけど」
「だったらいいじゃないかー。楽しく行こうぜ? 青少年」
「青少年って。小娘のお前に言われたくないんだけど」
「おー、結構言うねー」
おっと、つい言い返してしまった。
なぜか、掴めない性格をしている少女だ。
そのゆったりとした言葉が、なんとも。
おぼんを見ると、そこにはケチャップがかかったオムライスがあった。メルは、スプーンを手に取りその小さな口の中に運ぶ。
「うまいねー」
幸せそうな顔だ。
「あっ! 一之瀬君みっけ!」
「おお! カツ丼なんだ! 私は牛丼だよ!」
「一緒に食べてもいいかな?」
メルのことを観察していると、他の女子生徒がおぼんを持ってやってきた。
「別にいいぞ。食事は大勢で食べたほうはいいからな」
「ありがとー!」
「それじゃあ、お隣を失礼して」
「まったあ! そこはあたしが座る!」
「あれー? 逆サイドにはもう先客がいるみたいだね?」
「どもー」
メルは相変わらずゆったりとした喋り方で、おいしそうにオムライスを頬張る。
おっと、俺もカツ丼を食べている途中だった。
午後からは【戦乙女】の力を発現させての訓練だ。
しっかりと食べておかなければ。
★・・・・・
昼休みも終わり、俺たちはグラウンドに集合していた。
やることはもちろん【戦乙女】を発現させての訓練になる。
目の前にいる先生はって、あの人は……!
「始めまして皆さん。今日から皆さんに【戦乙女】の使い方を教えることになったユリア・A・エレナードと言います。以後、お見知りおきを」
「う、嘘!? あのユリア様が?」
「きゃああ! 夢のようだわ!!」
「ユリア様! スマイルをひとつ!!」
女子生徒は歓声を上げる。
それもそのはずだ。
目の前にいるユリア=エレナードという人は、ここの第一期生にして【四大乙女】と呼ばれる最強の四人の一人なのだから。
ちなみに学園長もその四大乙女の一人である。
白銀に輝くふわっとしたウェーブのかかった長髪に、サファイアの瞳。
おっとり、ふわっとした雰囲気がよく似合うお嬢様系の女性だ。
その笑顔は、男性だけでなく女性すらも虜にし、発せられる声音はまるで癒しの音色のように聞こえる。
だが、一度戦場に赴くとその姿は戦場で咲く一輪の花。
俺もニュースや雑誌でも見たことがあるが、その姿は白銀の騎士という風貌だった。
得物である身の丈より大きい大剣を振るう姿は、勇ましくもそれでいて花のような可憐さがある。
「こうですか?」
『きゃあああああ!!!』
女子生徒の要望を、聞き笑顔になるユリア様。
おぉ……なんと神々しい。
思わず見惚れてしまう笑顔だ。
それにしても、まさかユリア様が俺たちを指導してくれるとは。歓声を上げている女子生徒の気持ちは俺にもわかる。
「えっと、それではそろそろ始めたいのですが……よろしいでしょうか?」
『はい!! いつでも!!』
「では、まずは誰かに【戦乙女】を発現させてもらいたいと思います。私が選んでもいいのですが、誰か立候補をしたいという人はいらっしゃいますか?」
ちなみに、ユリア様が【戦乙女】を発現させたのは十歳だったという。
なので、現在ユリア様は十八歳。
俺と三歳しか違わない。
この中には、ユリア様と同じ年齢の子もいるだろう。
「誰か、いませんかー?」
癒しの声は響く。
うむ、いつまでも聞いていたい。テレビで聞くのとはやはり違うな。
『はい! 私がやります!!』
一斉に挙手をする少女達。
うむ。俺は、別にいいか。
一人だけ挙手をせずに居ると……ユリア様と目が合ってしまった。
「……」
「あっ」
そして、何かに気づいたらしく笑顔で、俺の下へ真っ直ぐやってくる。
え? え? 俺? 近づいてくるユリア様の麗しい姿を見詰めながら俺は動揺するしかなかった。
「あなたが、一之瀬空くんですね? お噂は聞いています。唯一、男性で【戦乙女】を発現させた方だと」
「は、はい」
あれだけ、騒がれたんだもんな。
検査が終わり、家に戻ったらもう一躍有名人みたいな感じにテレビ局の人達が押し寄せてきたっけなぁ……。
やっぱり、ユリア様のところにも俺のことは届いていたのか。
それにしてもユリア様は結構小柄なのに対して、豊満なバストを持っている……って、いかんいかん! 何を考えているんだ、俺は。しかしながら、男としてはそこに目が行ってしまうのは致し方なし。なに、胸だけじゃない。
ちゃんとおみ足や首元など色んなところを。
……邪念を捨てよう。
こんなことをすぐに考えるようではここでの三年間など、過ごせるわけがない。
だけど、邪念はすぐに出てきてしまう。
それが男ってものだから。
「そこで、私からの提案です。私はもちろん皆さんもすごく気になっていると思うので、どうでしょう? あなたの【戦乙女】を発現させてはくれないでしょうか?」
やっぱり、そうなりますよねー。
確かに、男が【戦乙女】を発現させるとどうなるのか気になるのはわかる。
ニュースなんかでも、ただ「男で唯一発現させた」ぐらいしか放映されていないからな。どんな風になるのかは俺と両親。そして、この学園に入学するように勧めてきた学園長とその他の関係者しか知らない。
周りを見渡すと、期待で目を輝かせている女子生徒ばかりだった。
目の前にのユリア様も、純粋な眼差しで俺を見ている。まるで、初めて見るものを期待して待っている子供のように。
……これはやらなければならないみたいだな。
「わかりました。ユリア様に指名されてしまっては。男としてやるしかないです!」
「まあ、ありがとうございます空くん。では、皆さんに見えるよう前へ移動してくださいますか?」
「はい」
こうして、俺は皆の前で本日初公開になる俺の【戦乙女】を発現させることになった。
皆の前に立つと、わくわくしているのがよくわかる表情が映る。
チラッと、ユリア様見てから「始めてください」と言われ、俺は頷きそっと目を瞑る。
さあ出番だぞ。
俺の【戦乙女】さん。
「我が呼びかけに応じよ セイヴァー!!!」
刹那。
俺へと落ちる眩い光の柱。
瞬間的に、その姿は変わっていき蘇る過去の戦乙女が扱いし武装は具現化。
その身に纏いて、今、真の姿を現す。
「……まあ」
『おおっ!?』
皆が驚愕したその姿とは。