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第二話

「ではこれより、戦いの基礎をお前たちに叩き込む! 私は、戦いの基礎を教える浅間刀華だ。まずは、素振りから始める! ここに入っている十キロの鉛が入っている木刀を持って行き出席番号順に並べ!」

『はい!』


 一時限目は、戦いの基礎を学ぶ。

 担当である浅間先生は、とても綺麗な女性だが、それよりも刃のように鋭い眼光。そして、鍛え上げられた体躯。

 どこまでも深い漆黒の髪を風で揺らし、アイパッチで隠した右目には見えない何かを感じる。 


 彼女は、有名なので俺でも知っている。

 かつて、東南地方にある小さな町を襲った荒れくれた龍がいた。

 赤く燃えるような強固な鱗に覆われた体と、鋭い牙に爪。

 吐く紅蓮の炎は、何もかも焼き尽くすと言われるとても危険なモンスターの一匹だ。


 その龍をかつて一人の冒険者だった浅間先生が無類の強さを誇り、その龍を撃退したという。

 以来彼女は『龍殺し』の称号を手に入れたのだ。

 今から五年前の話だ。

 浅間先生は確か二十代後半の女性だったはずだ。あまり、そんな年齢には見えないな。などと思いつつ鉛入りの木刀を手に出席番号順に並び終えた俺達。


「素振り小手調べに百回! 始め!」

「1! 2! 3! 4! 5!」


 まずは、手始めに素振り百回からだ。

 普通、十キロの鉛が入っている木刀を百回も振るというのは、男性でもなかなか難しいことなのに女性にできるのか? と疑問に思うだろう。


 だが、安心して欲しい。

 戦乙女が発現した少女たちは、戦乙女を纏っていなくてもそれなりに身体能力が向上しているのだ。


「次に体力だ! グラウンド五十周!」


 余裕で、素振り百回など終わり、今現在はランニングをしている。

 戦乙女を発現した少女達は、一般の人間とはかなり身体能力の差が違うのだ。だから、生半可な訓練ではあまり疲れたりはしない。

 グラウンド五十周もなんのその。

 そうそう、この学園のグラウンドは、結構広いため一周が二周のペースになる。


 そして、三分の休憩をした後、今度は先ほどの木刀での打ち合いだ。

 二人一組のペアを作り各々自由に打ち合いをする。 

 二人一組のペアか……蘇るあの恥ずかしさで一人寂しく残った記憶が。


「一之瀬君! 一緒にやろうよ!」

「はいはい! 私も一之瀬君とやりたい!」

「ずるいよ! あたしが誘うと思っていたのに!」


 だが、この学園ではそんな寂しいことはないようだ。

 俺は、例えるなら動物園に一匹だけ中国から来たパンダのようなもの。唯一男である俺が彼女たちにとってはかなり珍しいようで、こうして積極的に接してくる。

 ふっ、中々良いじゃない。こんなハーレムな展開普通の学校に通っていたら無理だっただろう。


「あっえっと…」


 しかし、組めるのは二人一組。

 押し寄せてくる女子生徒は数十人以上。他はすでにペアを組んで打ち合いを始めているペアがちらほらと見受けられる。

 さらに俺はとてもチェリーなボーイなのでこういうことには慣れていない。

 くっ! どうしたらいいんだ……! 初めに話しかけてくれたポニーテールの子か? それともロリロリな子か? いやいやそれとも。


「お前ら! 何をしている! さっさとペアを組まないか!!」


 そんな時、浅間先生がいつまでもペアを組んで打ち合いを始めない生徒たちを見かねて注意しにやってきた。

 た、助かった……これで何とかなるだろう。


「男の取り合いか? まったくしょうがない奴等だ。自らペアを選ばないというなら私が選んでやる。お前はこいつと! お前はそっちの奴だ! そして、お前は」


 と、どんどんペアを組ませていく浅間先生。

 なんだか、体格の差があるペアばかりだな。

 もしかして、体格の差で押し負けないように選んで組ませているのか? そう考えると、さすがは歴戦の戦士と言ったところか。


「そして、お前!」

「は、はい!」

「こいつ組め」

「よろしくねー! 一之瀬君」

「お、おう。よろしく」


 俺が組むことになったのは、最初に声をかけてくれたポニーテールの女子生徒だ。

 まだ、名前を覚え切れていないのが俺の失態だ。

 早く覚えなくちゃな。


「じゃあ、どっちが攻撃側で行く?」

「うーん……そっちからでいいよ。俺は防御側になるから。好きなように打ってきてくれ」

「はーい! じゃあ」


 空気が変わった。

 やはり、戦乙女を発現させた者はどこか普通の少女とは違う。先ほどまでの明るい天真爛漫な笑顔から一変。

 彼女の瞳は、俺のどこに打ち込むか観察をしているようだ。

 木刀を構え、俺は彼女が動くのを待つ。


「やあ!!」

「はっ!」


 地面を蹴った。

 その弾丸のような突進力で、突撃し木刀を下斜めから振り上げる。それを俺は木刀を下段でガードすることで防ぐ。


「てやあ! や!」


 が、猛攻はとまらない。

 俺は、全ての攻撃を防いでいく。

 雄々しいがそれでいて美しさもある。これこそ、戦乙女! こうして、一時限目の戦いの基礎が終わり、二時限目と時間は過ぎていく。


 二時限目は、普通に勉学だ。

 戦士になるために、設立された学園とは言え、入学しているのは学生ぐらいの年頃の少女達だ。ちゃんと勉学もやらなければならない。


 勉学には二つ種類がある。

 まず一つ目は、一般の勉学。現国や数学などだ。でも、年齢層がバラバラなのでそれらを習う時は教室が別々になる。

 別々にするなら最初から年齢層を合わせればいいのでは? と思うだろうが、あくまでここは戦い方を学ぶところだ。


 基本は、潜在能力などが均等になるように振り分けられている。

 なので、勉学はやるにはやるがおまけみたいな感じなんだ。

 後は、自習するかだな。

 でも、ここを卒業したからと言って絶対戦士として戦っていくだけではない。ここは通過点でしかなのだ。

 三年間で、やりたいことが決まりそっちに進めることだってできる。


 だが、基本は戦場に進むように教育をしている。

 ここでは、扱え切れない戦乙女の力やそれを補う戦い方を学ぶところ。制御さえでき、戦い方を学べばこの世の中でまずそう簡単には命を落とさないだろう。


 二つ目は、戦乙女についてだ。

 この八年間で、戦乙女について調べ上げられたことを初心者である俺たちに教え込む。これは、教室を移動しなくてもいい。


 難しい言葉が多いがそれでも学んでいかなくちゃならない。

 教科書を見つめながら、先生の言葉をBGMに午前の授業が終わりを告げる。

 こうして、昼休みになったわけだ。


 午後からはいよいよ戦乙女を発現させての訓練。

 ……俺は、もう一度発現できるだろうか? あれ以来試していないから不安だな。

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