第二十三話
闘技場内は混乱していた。
翼が生えている騎士が、生徒達を襲っているのだ。
しかも。
「くっ! なんで、武器がこんなにも簡単に……!」
俺達が手にしている武器は、ただの武器じゃない。【心門】から生成されている武器。
使い手の魂が折れない限り、心門が無事な限り、そして通常の武器ではひびすら入れることもできない。
そんな武器を明らかに普通の武器にしか見えないもので、簡単にひびを入れている。
応戦している生徒達も、迂闊に騎士と競り合うことが出来ずにいた。
「きゃっ!?」
「させない!!」
押された生徒を騎士から護る。
俺の武器は、光の粒子により生成される粒子武器がほとんどだ。他の武器とは違い、それほどダメージがないようだ。
もうフィールドから離れ、俺は観客席にも飛び戦っている。
どうやら、闘技場の外にまでこの騎士達は飛び交っているみたいだ。
「空!」
「響香! よかった無事だったんだね」
「うん! それよりも、この敵ってさっき破壊者とかなんとかって言っていたけど……」
その二人は、今でもフィールドの中央で俺達の様子を伺うように立っている。
「そういえば、ユリア様は?」
「えっと、偉い人達を逃がしているって聞いた。このクラストーナメントには十人以上の偉い人が見に来ているって話だし」
なるほど、ユリア様ならこの事態を迅速に解決してくれると思っていたんだけど……戦乙女じゃない人達もいるんだ。
いくら歴戦の乙女でも、これだけの数、それに普通じゃない強さを持つ相手から護りながら戦うのは至難ってことか。
「それに、これを見て」
「リリム? これは……」
戦乙女を発現させた姉御と呼ばれてもいいような性格をしたリリムが、携帯端末から流れる映像を俺達に見せる。
そこに映っていたのは、他の地域でもここと同じく騎士達が暴れている。
それを対処する一般の戦士や、卒業した乙女達。
「ここだけじゃなくて、世界中でこんなことが起こっているんだ……」
「見た感じ、あの首謀者が倒した先からどんどん召喚しているみたいね」
ということは、やっぱりあの首謀者をどうにかしないと俺達が消耗してやられてしまうってことか。
「三人とも! 大変だ!」
「かなた? どうしたの?」
「騎士にやられた生徒が居るのだが……なにか様子がおかしいんだ」
様子がおかしい? どういうことなんだ。
かなたに抱えられている女子生徒。
戦乙女が中途半端に発現している状態だ。確かにおかしい……こんなに中途半端に発現することは今までなかった。
武装だけを発現させることは可能だが。
「心門の破壊者……もしかすると、あの騎士達って心門を破壊できるってことなのかな?」
「心門の破壊? そんなことできるはずが」
「っと、のん気に話している場合じゃないようよ!」
一気に三体もの騎士達が攻め入ってくるも、リリムが一気に撃ち抜いた。
そうだ、今は戦闘中。
警備のためにいた先輩も、同じ一年生達も必死に戦っている。
「皆! 長期戦になる前にあの首謀者をどうにかするよ!!」
「おまかせ!!」
「心得た!」
「援護は任せなさい! そら!!」
正面から突撃してくる騎士達を撃ち抜き、弱ったところを響香とかなたが撃退。
即興の連携とはいえ、かなりのものだ。
俺は、全速力で二人目掛け突撃する。
「おー、なんかこっちにくるよ? アーディーくんや」
「仕方ねぇ。こいつを出すか」
「おー、出しちゃうんだー。まあ、案外手強いししょうがないよねー」
何かが出てくる? また騎士か? いや、あれは。
首謀者二人を護るように出てきたのは、黒騎士。
他の騎士達とは大きさも、オーラも違う。だけど、俺は止まらない。このまま……切り裂く!
「おりゃあああッ!!!」
「【ダンコルデ】! 止めろ!」
「なっ!?」
ダンジョンのエクストラモンスターをも切り裂いたあの巨大剣を容易く受け止めて見せた。
「ふっふっふ。そんな心の籠もってない鈍じゃダンコルデは切れないよ?」
「心が籠もってない? どういう―――わあっ!?」
レイカの言葉に首を傾げていると、俺はダンコルデと呼ばれる黒騎士に投げ捨てられる。
「その隙! 貰った!!」
「いくよ、かなた!!」
俺とすれ違うように、響香とかなたがダンコルデの真横を取る。俺のことを投げ捨てたことで、若干の隙ができたのだ。
両脇からの強力な一撃。
「残念だけど、ダンコルデは隙があっても」
「なに!?」
「攻撃が……効いてない?」
だが、俺と同じでまったく効いている様子がない。
「だから言っただろ? お前達のそれは所詮ただの武器。心のない武器ではダンコルデを傷つけることはできない」
「ただの武器? 何を言う。これは、戦乙女が誇る心門より生まれた武装! それに心が無いなど」
反論しようとするかなただが、相手は攻撃する手を休めない。
ダンコルデと共に、他の騎士達が攻め入ってくる。
なんとか二人とも回避はできたが……あの黒騎士には、俺達の攻撃が効いていない。それは、二人が言う心がないということなのか。
俺達が使っている武装は、心門より生まれたもの。言わば心そのものだと言ってもいいだろう。それに、心が無い、籠もっていないってどういうことなんだ?
「まあ、そこの飛んでいる子やー刀の子はともかく……そっちの拳の子は武装すら使えていないようだね」
「うっ……」
痛いところ突かれた響香はぐうの音も出ない様子。
「さあ、ここには活きのいいのは居なかったみたいだし……ダンコルデ!! もう皆やっちゃえー!!」
その命令が発令した瞬間。
ダンコルデは、大降りの大剣を二本生成させ戦っている先輩や一年生達へと攻撃を仕掛けた。
「きゃあっ!?」
「くっ! なんだこの黒騎士は!?」
かなたが抱えていた生徒と同じように戦乙女が中途半端な状態になってしまった。
「やらせないわよ!!」
傷ついた生徒を護るために、リリムが狙撃。
ギリギリのところで大剣の軌道はズレて生徒には当たらなかった。
「心……心……」
心が籠もっていない? そんなはずがない。
俺は、今ここに居る皆を護りたい一心で戦っている。その攻撃に心が籠もっていないだなんて……あるはずがない。
だけど、それでもダンコルデを傷つけることはできなかった。
「皆さん!! 迷うことはありません!!」
「この声は……!」
聞き覚えのある声がしたと思いきや、ダンコルデが豪快に吹き飛ばされる。
視線の先には……あの人がいた。
美しき銀色の髪の毛。
白い肌、青い瞳。テレビで見たことがある騎士甲冑姿のユリア様がそこに。
「おー、ダンコルデが傷ついてる……」
「やはり、あいつは別格のようだな」
俺達では傷つけることも、吹き飛ばすことも出来なかったダンコルデをユリア様は容易に傷つけ、吹き飛ばして見せた。
「皆さん。相手の言葉に惑わされないで。迷えば、焦れば、相手の思う壺です」
「迷い……」
「戦乙女に、心門に呼びかけるんです。あなた方は一人で戦っているわけではないのです」
……呼びかける、か。
今までは、発現するためにしかやったことはないけど。そうか、戦乙女は心そのもの。一心同体……戦乙女を理解し、心を通わせ初めて力となるんだ。
落ち着け、集中するんだ。
己の内にある心門にいる戦乙女に……。
―――セイヴァー。
「おお?」
「奴を覆う波動が……変わった」
今更だが、俺はこれからお前のことをもっと理解しようと思う。ずっと、男の俺に発現した謎の力だって思っていたけど……。
「これからは、一緒に頑張ろう!!」
刹那。
湧き上がる力の波動。
体温が上がる。
気持ちが高まる……。
「むふふ。それじゃお試しに……ダンコルデ!!」
ユリア様から受けた傷は修復していた。
二本あった大剣を捨て、大岩のような拳を俺へと振り下ろしてくる。
「空!!」
「一之瀬!!」
響香とかなたの心配する声が聞こえる。
でも。
「大丈夫!!」
相手の攻撃がスローモーションのように遅い。
焦ることなく回避。
この湧き上がる力を剣に乗せ。
「セイヴァー!!!」
ダンコルデを切り裂いた。




