第二十一話
残るは決勝戦。
俺とかなたの戦いを残すのみとなった。
なったのだが……今、控え室は張り詰めた空気にある。残った選手である俺とかなた。それに響香、リリムの四人が向かい合いながら話し合っている。
その内容は、メルのことについてだ。
「メル……約束したのに。どうしちゃったんだろう」
「それだけ、その用事というのが長引いているってことなんでしょうか?」
結局、メルはかなたとの準決勝には姿を現さなかった。
いや、準決勝が終わって早五分経つが未だに姿を現していない。行方不明、何かの事件に巻き込まれている、そんな可能性があるが……。
「かなた。大丈夫か?」
「心配はない。確かに、バークフォルとの勝負ができなかったのは悔しい気持ちだが。あいつが、勝負から逃げるような奴ではないと信じている。これなかったのは、その用事が長引いているからだろう」
だったら、何かしらの連絡をするはず。
しかし、携帯を見てもメルからの電話やメールなどが来ている形跡はない。あいつと出会って連絡先を交換してからは、近くにいるのにわざわざ電話をしてくる。
おかげで通話経歴のメルの多さよ……。
「何なんだろうな、メルの用事っていうのは」
「さすがに、ゲームを買いにいったって感じでもなかったし……」
メルは、娯楽という娯楽を楽しむのが趣味。
当然、携帯ゲーム機などもやっている。
俺も、何度もメルとは対戦をしたり、協力をしたりしたことがある。注文すればいいものを、わざわざ店に足を運び購入。
週末に、俺は付き合わされた。
「ご家族になにかあったとか?」
リリムの意見に俺達は反応する。
そういえば、俺達はメルのことについてそこまで知っていることがない。性格や趣味など近くにいればわかることばかり。
だが、その先。
もっと奥のほうのものを俺達は知っていない。
例えば、家族。
「ありえる、かもしれないが」
「もしそうだったら、さすがに学園側に連絡をするとかあるはずだし」
「そ、そういえば……」
家族関係のことは、当然のように学園側にも何かしらの連絡があるはずだ。俺達は、戦士である前に学生なのだから。
今回は、学園側もメルのことに関しては何も知らないようだった。もし、何かしらの連絡があったのならかなたとの試合の時、こういう理由でメルは出場できなくなった、のようなことを言う筈だ。
《皆さん! 休憩時間はそろそろ終わりです! 最後に残すは、ここま熱い戦いを繰り広げ勝ち残ってきた一之瀬空選手とまだまだその実力の全てを出し切らず勝ち残ってきた式耶麻かなた選手による最終決戦!! 試合が始まる前に、お二人は遅れることなくフィールドへと移動を開始してください!!》
「そろそろ出番か」
メルのことが気になってしょうがないが、ここは目の前の戦いに向き合うしかない。
「一之瀬。いこう」
「ああ」
「頑張って二人とも! あたし達、応援してるから!!」
「ファイトです!」
二人の応援を胸に俺達は決戦のバトルフィールドの移動を開始した。その途中で、俺達は話し合う。これからの戦いのことを。
「かなた。手加減はしないぞ。というか、手加減なんてしたら、一瞬で終わりそうだからな」
「もちろんだ。もし、手加減などしたら……一刀にて斬り捨てる」
こ、こわっ……。
魔人族のハーフってことで、凄みが違うな。
「それは怖いなぁ。斬られたら痛いから、そうならないように頑張るか」
「その調子だ。クラストーナメントの最後。花形となる戦いだ。心置きなく、力を出し合おう」
「もち!!」
こつんっと拳をぶつけ合い、俺達はフィールドへと立った。
響きあう歓声。
戦う前なのに、盛り上がりが最高潮まで達しているかのようだ。
《登おおお場おおおおッ!!! 決勝戦を戦い合う、二人の乙女がフィールドに姿を現しました!! あ、一之瀬選手は今は乙女じゃないですけど!!》
「あはは……」
律儀な人だなぁ、片岡先輩は。
《まあ細かいことは今はなし! 選ばれし八人から勝ち残った二人! 今ここに、一年最強が決定しようとしています!!》
一年、最強……そういえばそうなるんだな。
一年生全三組から、選ばれし八人。
この中から、一人優勝者が出る。
ただそれだけだと思っていたけど……実質一年最強が決まるってことなんだな。
《今回、決勝戦用のバトルルールはありません! 決勝戦に見合ったガチンコ!! どちらが気絶するか、参ったと言わせたほうが勝者となります!!》
「ガチンコか……それは滾ってくるな」
その言葉の通り、かなたの表情は今まで見た中で最高のものだった。漫画だったら、目から炎が燃え盛るかもしれないほどに。
《さあ、決勝戦を戦う選手の紹介!! まずは唯一の男にして戦乙女を発現させた注目選手!! 一之瀬空!!》
「おっしゃあ!!」
決勝戦ということで、俺は気合いの入った雄叫びを上げ拳を突き上げる。
《対するは、魔人族と人間のハーフにして魔刀術の申し子!! その実力は未知数!! 式耶麻かなた!!》
「さあ、我が刀の錆びにしてやろう!」
もう抑えきれない、そんな感じだ。
俺もガラにもなく手に力が入る。
《両者、気合いは十分!! 会場の盛り上がりも十分!! 私ももう待ちきれません!! そんなわけで、クラストーナメント決勝戦!! 一之瀬空選手対式耶麻かなた選手!! 試合、開始いぃッ!!!》
「「我が呼びかけに応じよ!!」」
試合開始のゴングと共に、俺達は戦乙女を一斉に発現。
俺が白き光だとすれば、かなたは赤き光。
発現したと同時に、ぶつかり合う。
弾ける二色の光。
「考えていることは、同じだったみたいだね!!」
「ああ。ずっと、お前とは戦ってみたかった! 見よ、これが我が戦乙女!! 佐々木小次郎だ!!」
和服を思わせるが、どこか現代風なアレンジが加わっている服装。
膝上前あるスカートに、袖が長い振袖。
腰にあるのは、二振りの刀。
だがそれだけじゃない。今、俺とぶつかり合っているのは、機械仕掛けの刀。
佐々木小次郎といえば、日本が誇る剣豪の一人。
有名なのは、宮本武蔵との戦いだが……。
「有名どころが戦乙女か……これはなかなか面白い戦いになりそうだね!」
「我が一刀は、魔を切り裂く刃。しかし……」
姿が消えた!? いったいどこに。
「魔でなくとも」
「後ろ!!」
攻撃がくる。俺はすぐに光の障壁を展開した。
「切り裂く!!!」
「くうっ!?」
会場中を振るわせる一撃が俺を襲った。




