第二十話
かなたの戦いは、一瞬だった。
相手が攻撃を仕掛けた瞬間。
赤きオーラが噴出し、かなたが【戦乙女】を纏ったと思いきや……対戦相手の今井さんはやられていた。
《こ、これはすごい! 式耶麻かなた選手! 一撃で今井夕選手を気絶させました!!》
勝負は俺がやった時のポイント制。
だが、ポイントが貯まる前に相手が気絶したため、かなたの勝利となった。この試合で、かなたの戦乙女や実力をじっくりと観察したかったのだが……。
「式耶麻さん、すごく気合が入ってるみたいだね」
「気合い入りすぎだろ……」
モニター越しからでもわかる。
かなたは俺達の戦いを見て、そして次のメルと戦いたいという思いが滲み出ている。バトルものの登場人物達は、強敵のオーラを見た時こんな気持ちだったのか……。
《一回戦全ての戦いが終わり、次は準決勝!! 準決勝第一試合は、初戦から熱い戦いを見せてくれた一之瀬空選手と! 鮮やかな技で相手を困惑させ勝利を収めた島田絵美選手です!》
タンカで今井さんは運ばれ、かなたは静かにフィールドから出て行く。
その間、片岡先輩がマイク片手に熱く説明をしている。
《準決勝は、十分の休憩を挟んでからとなります! 私も、ドリンクで喉を潤したいと思っていますので……また、十分後に!!》
十分後か……。
俺は初戦だったから、十分に休憩ができた。いつでもいける。
「……」
いつでもいけるが……メルの奴、まだ戻ってこないのか? いや、まだそんなに経ってはいないけど。そこまで時間がかかる用事なのか? と思っていると、ドアが開く。
メルか? そう思ったが違った。
「まずは一回戦突破だ」
「お疲れさん」
かなただった。
汗ひとつ掻かず、涼しげな表情で戻ってきた。
「……バークフォルは戻ってきていないのか?」
「そうみたいだ。俺、ちょっと探してくる」
「私との試合までは戻ってきてねー」
「了解!」
メルのことを信じていないわけじゃない。
でも、なんだか胸騒ぎがするんだ。
休憩時間は十分。
まだ余裕がある時間だ。とりあえず、メルが行きそうな場所を虱潰しに探すしかない。
それから、俺は次の試合に支障が出ない程度に急ぎ足で会場内を探し回った。
観客席から、トイレ。
使われていない倉庫など。
刻々と時間が過ぎて行く中、メルの姿はどこにもなかった。
《はーい! 審判の片岡でーす!! 休憩時間は残り三分! 三分でーす!!》
選手控え室前に来て、片岡先輩の声が聞こえてきた。
残り三分か……。
これ以上遠くまで探しに行くのは、時間的にきついか。それに、もしかしたらもう戻ってきているかもしれない。
いるものように「あれ? どこいってたん?」って言ってくるかもしれない。
「ただいま……」
「戻ってきたか。……その様子だとバークフォルは見つからなかったようだな」
「……戻ってきてもいないか」
出迎えてくれたのは、かなたと絵美だけだった。
メルの姿はどこにもない。
「バークフォルのことは気になるが、もうお前の試合だ。島田はもう移動をしている。お前も遅れないように移動をしたほうがいい。バークフォルのほうは、私のほうも探しておく」
「わかった……頼んだぞ」
「念のため、響香にも頼んでみる。あいつは何かを探すのは意外と得意なほうだからな」
それなら安心だ。
俺は、メルのことを響香達に任せてフィールドへと向かう。
だが……本当にどこへ行ったんだ? メル。
★・・・・・
始まった俺の第二回戦。
絵美には、俺の絵を描かせてくれて頼み込まれていたなぁ。特訓の時も、遠くからまさかの鉛筆片手に一生懸命掻いていた。
面白い子だけど、今回は敵同士。
真剣勝負ということで。
「ほい、開門」
「わーん! 負けちゃったー!」
二回戦目の戦いはゲートアタック。
お互いの背後にある門を守りつつ、どこかに出現した鍵を手に入れ、相手の門を先に開門したほうの勝利となる。
鍵を見つけるのにちょっと時間はかかったが無事勝利。絵美も、いい動きをしていたけど、ちょっと俺のほうが上手だったってことで。
《決着!! 準決勝第一試合を勝利したのは一之瀬空選手です!!》
試合が終わり、俺が開門したゲートも消える。
【戦乙女】を解除して、俺はその場に座り込んでいる島田さんに手を差し伸べた。
「結構面白い戦い方で驚きの連続だったよ」
絵美の戦乙女の能力は、虹色の剣を使い火や水、風などの自然現象を起こし戦うスタイルだった。簡単に言えば、魔法特化みたいな感じかな。
ちなみに剣自体には、あまり攻撃力はないそうだ。
「うーん、やっぱり剣よりペンを持っていたほうが楽だね」
「また今度、絵を見せてくれよ絵美」
「もちろん。いつでも見せてあげちゃう!」
今回のクラストーナメント。
試合を通して、色んな人達と知り合い、仲良くなれた気がする。リリムの意外な一面や、同じクラスメイトとの交流。
敗退していった人達の分まで頑張って優勝を目指してみますか。ここまで来たんだ、やる気全開で天辺へ!
「あ、そうだ。クラストーナメントが終わったら一枚絵を描かせてよ」
「別に良いけど」
「うん、約束ね! できれば空くんの他にも数人集めておいてくれる? そのほうが描きがいがありそうだから!」
つまり集合絵ってことか。
じゃあ、メルに響香。それにかなたとリリムに声をかけてみるか。それに……ユリア様とか誘ったら参加してくれるかな?
「おう。なんとか集めてみる。まあけど、トーナメントが無事に終わったらだけどな」
「おっけおっけ。楽しみにしてるから! 優勝目指してファイト! 一組の希望の星ー!」
エールを送り、絵美は去っていく。
決勝か……。
次の試合は、メルとかなた。
どちらの実力もかなりのものだ。メルは、凍結能力と忍者のような巧みな技で相手を圧倒する。対してかなたは、魔人族の能力に加え、まだ未知数の戦乙女がある。
どちらが勝つのか……。
次の準決勝第二試合で見極めたいところだけど。
それは……叶わなかった。
《メル選手ー? いないのですかー?》
「……」
選手控え室のモニターから俺は、今のかなたの気持ちを感じ取れるような気がする。強敵との戦い。それが叶わなくなる。
表情を変えず、その場に棒立ちをしているかなただ。
片岡先輩と、観客の声が響き渡るだけ。
《えー……非常に! 非常に心苦しいのですが! 試合開始時間から三分以内にフィールドへ現れなかった場合は……その者を失格とするルールがあります! そのため準決勝第二試合勝者は……式耶麻かなた選手です!!》
「メル……お前、どこに行っちまったんだよ」
もやもやした気持ちのまま俺は決勝戦を向かえることになった。




