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第一話

「……あぁ、気合いを入れてきたけど。やっぱり、どうしたらいいかわからん」


 どこまでも広がる無限の青き空。

 白い雲。

 優しい春風が俺の頬を撫でる。


 真新しい制服を着込み、俺、一之瀬空は教室の窓から景色を眺めていた。

 どうして、俺がこんな憂鬱そうなことを呟いているのかというと。


「ねえねえ? あの子でしょ?」

「うんうん。確かにそうよ」

「本当だったんだぁ。私、ちょっと嘘かと思ってたよー」


 女生徒の視線を感じる。

 声が耳の届く。

 俺は注目されている。

 どうしてか? その答えは簡単だ。


 ぐるっと、教室を見渡す。

 そこには”俺以外”男子生徒が見当たらない。これは、どこかに遊びに行っていると、別の教室に居るとかそういうのではない。

 これは本当に俺しか男子生徒がいないのだ。


「お前ら! さっさと席につけえ! ホームルームを始めるぞ!」


 そこへ厳つい顔立ちのスーツを着込んだ男性教師が現れた。

 それにより、女子生徒たちは一斉に席に座る。

 全員席に座ったことを確認した男性教師は、口を開く。


「今日より、お前たちはこの【聖ヴァルキュリア学園】で三年間。戦い方の基礎! 応用! 実践! そして、何よりもお前ら【戦乙女】の戦い方をみっちり学んでもらう!! まあ、戦い方だけでなく普通の学生としての勉学にも励んでもらう。俺は、お前ら一年一組の担任を務める真田幸男だ! これから一年間覚悟するように!!」

『はい!!!』


 ……俺は唯一、男で戦乙女の力を使えることから強制的にこの学園に入学させられたのだ。 




★・・・・・




 あれは、今から数週間前。

 真似事で【戦乙女】の発現呪文を唱えた結果、なぜか戦乙女が発現してしまった俺を黒服とサングラスをかけたいかにもって人達がお出迎え。

 半壊した自室を出て俺は聖ヴァルキュリア学園へと連行された。


 そこで怪しい検査を山ほどやらされるため、無理やり裸にひん剥かれてしまう。検査をするのは女性だったので、マジで恥ずかしかった。

 検査をする女性達は、新しくも珍しい試験対象が来てノリノリで検査をしていたなぁ。


 そんな最終的に、マジで男でありながら戦乙女を発現できたことをいかにもお偉いさんな人達の前でやり、合格していた普通高校の入学を取り消され強制的にこの学園への入学が決まった。


「よう。始めましてだな、特異点」

「と、特異点?」


 入学が決まった俺は、ヴァルキュリア学園の頂点である学園長に会っている。

 テレビでも何度も観たことがある。

 最初の戦乙女達と言われる中でももっとも強かったために学園長に任命された人。紅蓮の炎のような色をした長い髪の毛はポニーテールで束ねられている。

 野性的な目つきに、豊満なバスト。学園長らしくスーツ姿に身を包んでいるが、おそらくきっちりとしたのが苦手なのだろう。

 胸元を思いっきり開けている。


 アシェル=アシェラミヤ。

 元は、貴族のお嬢様だったようだが戦が何よりも大好きで紅き狂戦士の異名を持っているほど強い。


「ああ。女性にしか発現しないものを男でありながら発現させた。だから特異点だ。検査の結果だが……すげぇ数値を叩き出してるな。戦乙女との適合率も良い」


 届けられた資料を頷きながらぺらぺらと捲っていく。そして、最後まで目を通し資料を置いた。


「お前には、これから三年間この学園の生徒として過ごして貰う。お前も知っていると思うが。戦乙女は確かに強い力だ。が、強い力だからこそ己でコントロールする必要がある。それを教え、学ばさせるのがここだ」

「……はい」


 学園長の言葉に俺は静かに頷く。

 わかっている。どんなに強い力があっても、コントロールできなければ宝の持ち腐れというもの。ニュースでも戦乙女が制御できなくて暴走していた子を、何度も見たことがある。

 彼女達は、学園への入学を拒み溢れ出る力を私利私欲のために利用した者達。


「……まあ、つっても肩肘張るな。気楽に過ごせ」

「そ、そう言いますけど。俺って言わば実験動物みたいなものなんじゃ」


 男手唯一戦乙女を発現できる。

 その原理がどうなっているのか、俺は監視されるんじゃないかと不安になっている。そんな俺に、学園長はなんだそのことか、と呟く。


「心配するな。大事な生徒にそんな非人道的なマネはあたしが絶対させない。お前が特異点であるのは事実だが、この学園に入学する以上お前も一生徒として面倒を見てやる」

「一生徒として……」


 彼女の言葉には、何か力を貰えるようなそんな感じがする。

 これが最強の戦乙女……。

 不安になっていた俺の心が、自然と和らいでいく。


「ま、それにだ! お前は素直に喜んだほうがいい!」

「え?」


 にっと満面な笑顔を浮かべる学園長。


「お前、アニメとか漫画は好きか?」

「好き、ですけど」

「だったら、わかるだろ? 女子生徒の中に男子生徒はお前だけ。ハーレムだよ! ハーレム! 絶対、世の中の男どもは羨ましがってるだろうな。はっはっはっは!!」


 そうか……色んなことがあり過ぎて忘れていたが、男子生徒は俺だけ。

 これは、ハーレム。

 男としては、喜ばしいことだ。


「さあ、楽しい学園生活を送ってくれ。青少年!」


 パン! と俺の背中を力強く叩く学園長。

 痛い……女性とは思えない力強さだ。これ絶対、背中赤くなってるだろうな……。楽しい学園生活、か。平凡な高校生活になるかと思っていたけど。

 これは、マジで楽しいものになりそうだな。

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