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第十二話

「よろしく、リリム!! あたしは響香! 仲良くしようね」

「私は、かなただ。同じ一年生同士仲良くしよう」

「よろー、メルだよー」


 俺以外が挨拶を終える。

 後は俺だけだなと、リリムの目を見て自己紹介をした。


「俺の名前は、一之瀬空だ。今朝はごめん。なんだか、自然と歌声に誘われちゃってさ」

「あら。リリム、空くんはあなたの歌声のことを褒めてくれていますよ。よかったですね」

「あ、ああ、あの……その……ありがとう、ございます」


 やっぱりまだ完全には心を開いてはくれていないな。

 今後の接し方でどうなるか。


「っと、絆の深め合いも大切だけど、そろそろ電子掲示板に見に行かないと時間がなくなっちゃうよ!」


 響香の言葉に俺はハッと本来の目的を思い出す。

 そうだ、そろそろ行かないと授業が始まってしまう。……いや、一時間目が終わってからでも別にいいかな。

 それに、先に見に行った生徒の誰かにどうだったかを聞けば良いだけの話し出し。それほど、急いで見に行くようなことじゃない。


 今は、冷静に何が優先なのかを考える。

 で、出た答えが。


「いや。もう時間もないし、一時間目の授業の準備をするか」

「えー! あたしは、今すぐ見たいのにー!」

「響香。授業に遅れては、勉学に支障を来たす。ここは、一之瀬の言う通り。一時限目の授業の準備をするべきだ」


 ぶーたれている響香を優しく宥めるかなた。

 うん、やっぱりバランスがとれているようだな、二人は。


「だーいじょうぶだよ。私がもう誰が出場するのか見てきたから」

「そういえばそうだったな」


 いつの間に見てきたのかはわからないが。

 この中で、出場メンバーを知っているのはメルと教師人側のユリア様だけだろう。


「おー! じゃあ、メル! いったいどんな人達が出るの! おせーて!!」

「ふっ、このメルさんのありがたい言葉を聞くがいい」

「ははー!! メルさまー!!」


 仲良いなーこいつら。

 なんてやり取りをしていると、とある生徒の声が廊下中に響き渡った。


「あー!! 『クラストーナメント』に出る五人が集まってる!! しかも、ユリア様も一緒だ!!」


 クラストーナメントに出る五人?

 ……集まる視線。

 それはどう見ても俺達のところに集中しているのがわかる。というか、ユリア様という名前が出ている時点で俺達のことを言っているのだろう彼女は。


「今年のトーナメントは荒れるわよー! なんてたって、うちの話題のエース一之瀬空くんがいるんだもんね!」

「ふふーん。そういうことなら、二組だって負けていないんだから! 響香! かなた! ファイトー!!」

「リリムもがんばれー!!」

「メルメルー!! 応援してるよー!!


 同じ一組のクラスメイトや、響香達のクラスメイトが応援の声を贈ってくれている。やっぱり、トーナメントに出る五人は俺達のようだな。

 くいくいっと袖を引っ張るメル。

 その顔はすごくドヤっており、親指を立てていた。


「やったぜ」

「ああ。素直に嬉しい、かな。でも、いざ出ることになると緊張してきたな」


 俺は、平凡な毎日を送ってきた少年だ。

 こういうクラスの代表とかそういう大役はやったことがない。出れたらいいなぁって思っていたけど、改めてそのことを考えれば、震えが止まらない。


「よっしゃー! あたしも出るんだね!! かなたもよかったね!!」

「うむ。これも鍛錬の賜物だな。リリムも、トーナメントの選手として選ばれたということは相当の使い手と見るが」


 そういえばそうだ。

 なんだかあまり戦いが得意そうに見えないリリムも選ばれている。かなたの言葉で一斉にリリムのところへ視線が集中。

 リリムは、慌ててユリア様の後ろに隠れた。


「まあまあ。そのことはまた後にしましょう皆さん。今は、授業に遅れないようにしませんと、怒られちゃいますよ?」

「そうだった!? 急ぐぞ! 皆!!」

「待ってよー!! 空ー!!」

「では、失礼しますユリア様!」

「いくぞー」


 自分で言ったのに、なんてことだ。

 廊下で俺達のことを応援していた生徒達も同時に慌てて教科書類を準備し、それぞれの教室へと移動していく。

 が、廊下は走るな。

 移動途中で、ばったりと会った浅間教官に注意され俺達は早歩きへとなる。もう、すり足を全力で使った。ギリギリ間に合ったからよかったが。

 今度からは、時間に気をつけないとな……。




★・・・・・




「はぁ……授業にはなんとか間に合ったけど、ずっとトーナメントのことが気になってまったくノートが書けなかった!!」

「いや、それはいつも通りだろ」

「まったくだ。ひとつのことに集中するのは良い事だが。気持ちの切り替えるも大事だぞ響香」

「ぶー。あたし、そこまで頭の回転よくないもーん」


 自分言うかそれを……。

 午前の授業を何とか乗り切った俺達は、食堂にて昼食を食べていた。今日は、いつもよりメンバーが多いので、それに合った席に座っている。


 俺、メル、響香のいつものメンバーに加え。

 今日は、かなた……そして、リリム。なんという豪華なメンバーだ。席順としては、先ほど言ったメンバーを時計回りにという順番だ。


「リリム。ユリア様はどうしたんだ?」

「えっと……会議があるから、私は皆さんと一緒に食べていてって」


 なるほどな。

 注文したサバの味噌煮を箸で一口サイズにし口に運ぶ。


「じゃあ、いい機会だ。今から、お互いどういう趣味があるとかそういう話をしないか?」

「お! それさんせー!」


 すでに牛丼を半分食べ終えている響香が元気に同意。

 ちなみに、汁だくで大盛りである。


「趣味、か。……私は、皆のように人と分かり合える趣味は持ち合わせていないんだが」


 困ったな……と、俺と同じサバの味噌煮を注文したかなたが頬を掻く。


「私は、いろんな娯楽を遊ぶの趣味でーす」


 俺と響香はすでに知っているが、メルが先に自分の趣味を言いだす。ちなみに、メルはカニクリームコロッケ定食なるものを注文し、もう食べ終えていた。


「リリムはどんな趣味があるの?」

「わ、私ですか? ……あ、アニメ観賞、とか」

「お? 意外だな。アニメ観賞なんて」


 オムライスを注文していたリリムが響香の問いに答える。その趣味は、なんとアニメ観賞。俺もアニメは好きだ。

 というか二次元が好きだな。だが、そこまで重度の二次元好きというわけではない。あっ、これ面白そうだなぁと自分で気になったものを観たり。


 話題の漫画を読んだりと。

 こんな感じに、趣味範囲での好きということだ。


「アニメ……」

「ん? どったの、かなた」

「あ、いや! ……なんでもない」


 なんか一瞬、かなたの様子がおかしかったように見えたけど……気のせいか?


「そう? あ、でさ! アニメってどんなもの観るの! あたしもアニメを観るけどさ。専ら、熱い戦闘があるアニメばかりなんだよねー」

「俺は、意外と日常系とかコメディー系かな。バトル系も好きだけど」

「私は……色々と。気になったアニメがあれば、全部観ています」


 へぇ、てことはグロテスク系も観ているってことか。

 俺は、基本的にこんな日常があったら良いなぁ、なんて青春を謳歌できていなかった分、アニメを観賞しながら妄想に耽っていたっけ……ははは。


 なんだか思い出しら涙が出てきそうになった。


「アニメを観るようになったきっかけとかあったりするのか?」

「……私、生まれた頃から体が弱くて」


 スプーンを置き、リリムは静かに語りだした。

 あれ? もしかして俺。聞いちゃいけないことを聞いちゃったか?


「だから、いつも外で走り回ったりとか激しい運動が無理だったんです。気づけば、いつもベッドの上でした。そんな時、テレビで偶然朝に放送していた魔法少女もののアニメを観たんです」

「あ、それって『魔法少女は日常的に』だよね? あたしも観てたよそれ!」


 ほう、俺は知らないけどそういうアニメをやっていたんだな。タイトル的に、魔法少女が当たり前な日常を描くアニメかな? 

 ……てか、この世界だとリアルで魔法少女は日常的に存在しているんだけどな。

 世界統合がなかった頃の地球だったら、もうちょっと視聴率とか上がっていそうだよな……。


「とても綺麗な作画も、迫真の演技を見せる声優さん達。キャラクターが、生き生きとしていて私は夢中になっていたんです」

「いやぁ、あのアニメのギャグセンスはなんともいえないものがあったね。ツッコミがまず魔法をぶっ放していたからさ。もうそこら中穴凹だらけだったよ」

「うわー、リアルでもできそうで怖いな」

「やってみようか?」

「やらんでいい」


 そもそもお前はボケる側で、魔法だって使えないだろうが。……いや、俺が知らないだけでこいつ意外と魔法も使えたりして。

 マジで使えたとしても、こいつがツッコミをするところなんて想像できないな。


「ふふ。あの豪快なツッコミはやり過ぎな気もしましたが、私は笑っちゃいました。そこからです。アニメが好きになって……私もあんな日常を送ってみたいなぁって思ったのが」

「ツッコミを魔法にする日常を送りたいと申すか。大人しそうに見えて、意外とバイオレンス思考。……リリム、恐ろしい子……!」


 ほら、結局こうやって謎発言をしたりするのがメルだ。

 ツッコミをするメルなんてありえないだろ、うん。


「ち、違います! そういう意味で言ったんじゃ」

「こらこらー、メル。リリムを苛めちゃだめだよ?」

「ほーい」

「悪いな、リリム。こいつはいつもこんな感じなんだ。悪い奴……じゃないと思う」


 時々、こいつのせいでひどいめに遭うことがあるからな。

 なんかはっきりと悪い奴じゃないって言い切れなかった。


「は、話を戻すけどさ。リリムって体が弱かったんだよね? 今は、大丈夫なの」


 それは俺も気になっていたことだ。

 この学園にいるということは【戦乙女】が発現しているということ。だが、リリムのように体の弱い子には……刺激過ぎじゃないか?


「それは……戦乙女が発現してからというもの、なんだか体の調子が良くなったんです」

「戦乙女が発現したことで、健康にということか」

「うーん、あたし達も戦乙女についてはまだ全部知っているわけじゃないからなぁ。そういう効果もあるってことなのかな?」


 だとしたら、戦乙女には可能性がある。

 病弱な子供達に発現することによって、その病気が治るとか。あ、でも、発現してしまったらこの学園に入学して戦いの日々を送らなくちゃならなくなるのか。


「わかりません。お医者さんにもどうしてよくなったのかわからないみたいなんです。でも、私は嬉しかったです。ずっと憧れていた学園生活を送ることができるようになったんですから……」

「そっか……じゃ、これからは友達として良い思い出を作っていこう!」

「と、友達? いいんですか、私なんかとで……」

「良いも何も、あたし達はもう友達だよ。ささ! 友達の印としてたくあんをあげよう!」

「むぐっ!?」


 たくあんが友達の印って……なんかいやだな。

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