第十一話
今回で、新キャラが二人出ます!
「……朝か」
あの訓練から俺達は『クラストーナメント』へ向けていつもより激しい授業を繰り返していた。【戦乙女】として身体能力が上がっていなかったら、起きるのも辛かっただろう。
ベッドから起き上がり、大きな欠伸をした後、閉まっているカーテンから外を覗く。
まだ完全には太陽は昇っていないようだ。
メルもまだ眠っているみたいだし……。
「ちょっと、散歩にでも行ってくるか」
朝食の時間まで帰ってくればいい。
俺は、制服に着替えメルを起こさないように部屋を後にした。
この時間帯だとほとんどの生徒達が眠っているだろう。
外に出ると、少し朝霧が漂っている。だが、小鳥達の囀りや心地よい風が吹いており散歩するには丁度良い。新鮮な空気を吸いながら、歩いて体を解さないとな。
そろそろ誰が出場するのか発表される頃だ。誰が出場するのかは、先生達がこれまでの成績で決めるらしい。
おそらく、朝のホームルームか帰りのホームルーム辺りに来ると思うが。
「ん?」
丁度、いい具合に新鮮な空気も吸ったので引き返そうと思ったところに、歌声が耳に響いてきた。とても澄んでいる。
だが、可愛らしくも力強い声だ。
どこから聞こえてくるんだろう? まるで、その歌声に導かれるように足が動く。辿り着いたのは……一本の杉の木が生えている場所。
ここは、よく生徒達が昼食を食べている場所で、天気が良ければ風が心地よく景色も最高に良い場所。
その杉の木の下で一人の少女が目を閉じながら軽快な動きで歌っている。
桃色の長い髪の毛は、二本のおさげとして伸びており、頭の天辺には人間にはない獣耳が生えていた。形状から見て、猫耳だろう。
ついつい聴き惚れていると少女はふうっと一呼吸をしてこちらを向いた。
視線が合ってしまい、しばらく沈黙が続き……。
「あ、えっと。良い、声だった」
と素直な感想を言うも、少女は茹蛸のように赤くなり俺から逃げるように離れていく。
「はうっ!?」
「だ、大丈夫か!?」
しかしながら、すぐに転んでしまい俺が助けお越しに行こうとするもの、何事もなかったかのように一人で起き上がり、走り出す……かと思いきやこちらへと振り返り一礼。
そして、走り去っていく。
「……変わった子だったなぁ」
おそらく、誰にも見られず歌の練習をしていたのだろう。
それを俺が見て、聴いてしまい、恥ずかしくなって逃げ出した。一礼をしたのは、あの子の性格ゆえにしたことなのかな。
紋章を見たところ同じ一年生のようだったけど。
一組じゃないのは確実だ。
ということは、二組か三組。
……気になるけど、そろそろ朝食の時間だ。早く戻って済ませないと。あの歌声が、耳に残っている。それほど良い声だったんだ。
今度会った時は、名前を教えて……もらえるかなぁ。
あの様子だと難しそうだ。
★・・・・・
「へー、そんなことがあったんだ。あ、でも二組にはその子はいないよ」
「じゃあ、三組になるのか」
「やっぱり会いたい?」
朝食を終え、教室でホームルームが始まるまで俺はメル、響香と話し合っていた。内容は、今朝出会った少女のことについて。
二組である響香が言うならそうなんだろう。
三組の子だったのか……うーん、三組には知り合いがいないしなぁ。それにわざわざこっちから出向くって言うのも。
ただ歌を聴いて顔を見ただけだし。
会いにいく仲じゃない。
「うーん、いやそこまではしない。ただ良い声だったなぁってさ」
「お? 空は、声フェチだったの?」
「なんだよフェチって。ただ素直に褒めているだけだろ」
メルは、何かしら変な方向へと持って行きたがる。
別に俺はフェチというほど声にはこだわっていないけど……まあ、あの子のような耳に残る声は、結構好きだな。
なんていうか、聴いていて落ち着くって言うか。
「おっと、どうやら先生が来ちゃったみたいだね。じゃ、あたしは自分の教室に戻りますよー」
「じゃーねー」
「またな」
真田先生が教室に入ってくると響香は自分の教室へと帰っていく。
一組の生徒達は、皆席に座り真っ直ぐ真田先生を見詰めていた。何か重要なことを話すのか、いつもより真剣な表情に見える。
まさか……『クラストーナメント』についてか?
「ホームルームを始める前に、ひとつ伝えておくことがある。来週開かれるクラストーナメントについてだ」
生徒達は一気に騒ぎ出す。
が、真田先生が手を叩き静寂へ。
「お前達も知っている通り。クラストーナメントには、三クラスから八人選ばれる。一クラスから三人までと言われているが、一クラス一人や二人という可能性はあるってことは知ってるな? でだ。その生徒達は俺達教師人が決めることになっている。んで、昨日ようやく決まった」
それを聞き、生徒達はもう一度騒ぎ出す。
「誰なんですか!」
「いったい誰が!」
「まあまあそう焦るなって。出場する生徒は、電子掲示板に三クラス共に掲示される。気になる奴はホームルームが終わったら見に行け。言っておくが、これは今までの成績を考えての結論だ。文句を言わず……てのは無理な話だろうが。受け入れ、次に生かせ! 連絡事項は以上だ。ホームルームを始める」
さて、いったいこのクラスからは誰が出るのか。
考え事をしていると、足元から突かれる感覚が……。
「なにやってんだお前は」
俺とは席が離れているはずのメルがなぜか足元でしゃがんでいた。メルの席を見ると、メルがいる。おいおい、まさか分身か?
「やったぜ」
「なにがやったんだよ」
「なにがでしょう?」
意味深な言葉を残し、メルは消える。
マジで、何をしに来たんだあいつは。先生に名前を呼ばれる生徒達だったが、皆結果が気になっていて体がうずうずしていた。
これは、ホームルームが終わったら雪崩のように教室から生徒達が消えるだろうな。
俺も一応……見に行くか。
「一之瀬空!」
「はい!」
「よし、全員いるな。次に連絡事項だが、もう先に知らせたので今日は以上だ。お前ら、見に行くのは良いが、勢いあまって怪我人とか出すんじゃないぞ」
さすがは先生。
これからホームルームが終わった瞬間に起こることを予想していての注意なんだろう。生徒達は、少しだが静かになる。
それでも、今にも走り出しそうな感じだが。
「……ホームルームは以上だ。授業にだけは遅れるなよ」
先生が、教壇から離れた瞬間。
「いくぞー!!」
「全速前進!!」
「いけいけー!!」
少女達は教室から消えていく。
残されたのは、俺とメルだけ。ゆっくりと立ち上がり、残っていたメルのところまで近寄り話しかける。
「お前は行かなくて良いのか?」
「私はもう見てきたから」
「……いつの間に」
だから、さっきやったぜとか言っていたのか。
「空も見てくると良いよ。おそらく一年生全員が見に行っているだろうし」
「空ー!! まだ教室にいたのー! 早く見に行こうよー!! メルもー!!」
と、響香が一人で行かず俺達のことを迎えに来てくれた。
「そうだな……俺も気になっているところだし。見に行くか」
「というわけで、私もついていく」
「結局来るのかよ」
まあいいけどさ。俺は、メルと共に待っている響香の元へと移動する。教室を出て、いざ出発! と思ったが、響香の隣に見慣れない生徒が立っていた。
「あれ? 響香。隣にいるのは友達か?」
「そうだよ! 同じ二組で、あたしの幼馴染! 紹介しよう!」
「式耶麻かなたと言う。響香とは幼少期よりの馴染みで、共に【戦乙女】に目覚めこの学園に入学した。まだまだ未熟の身ではあるが、よろしく頼む」
とても丁寧な挨拶をしてくれたかなた。
そういえば、いつか名前だけは言っていたな。
栗色のポニーテールに青い瞳。響香よりは身長は高く性格も響香とは反対でしっかりもののような雰囲気だ。
前髪を留めている髪留めだが小さな刀の装飾となっている。
そして何よりも気になったのが。
「その耳って」
「ああ、これか。私は、魔人族と人間のハーフなんだよ。だから、こうやって耳が尖っているんだ」
俺達と同じ人間かと思いきや、魔人族とのハーフだった。魔人族は、アスタリアでもっとも人数が少なくも戦闘能力なら【戦乙女】だって倒してしまうほど強い種族。
その魔人族と人間のハーフってことは……相当強いんだろうな。さらに戦乙女まで発現できるとなれば、どんなに強くなっていることか。
「いやぁ、ただに人間だったあたしにとってはかなたは、ものすごい強敵だったよ」
「なにを言っている。そんな強敵をボコボコにしたのはどこの誰だ?」
「あの時は、まだかなたが未熟だっただけでしょ? 今戦ったら絶対かなたのほうが強いとあたしは思うなー」
「お世辞として受け取っておくことにする」
「お世辞じゃないんだけどなー」
ハーフとは言え、魔人族をボコボコにする人間って……響香は小さい頃からそんなに強かったんだな。俺、よく勝てたよなそんな相手に。
今でも信じられないぜ。
「あら? 皆さんお揃いでどうしたんですか? 一年生はほとんどが電子掲示板のところへ移動していきましたよ」
廊下で立ち話をしていると、背後から癒しの声が聞こえてきた。
「あ、ユリア様……と、君は」
「あっ……」
いつも通りユリア様の癒しを与える笑顔を拝もうと振り返ると、今朝出会ったあの歌の少女が一緒に行動していたじゃないか。
俺の存在に気づいた少女は、すぐにユリア様の後ろへと隠れる。
やっぱり、人見知りなのかな。
「あれー? ユリア様の後ろにいる子って空が今朝会ったって言う子じゃない?」
「へー。これは可愛い子ですな。それにかなりロリロリしい……私に負けないぐらい」
自分でロリというか、お前は。
まあ、そんなことよりもだ。
「えっと、ユリア様。その子は?」
「リリムのことですか? ふふ、そういえば今朝空くんはリリムが歌っているところを目撃したんでしたね。リリムが、恥ずかしそうにして部屋に飛び込んできたからそれはもう大変でした」
「ゆ、ユリアお姉ちゃん……!」
言っちゃダメという風にちょっと大きめの声で訴える。
お姉ちゃん? ……うーん、こう言ったら失礼だと思うけど、あまり似ていないな。
「お二人は姉妹、なのですか?」
と、俺が気になっていたことをかなたが尋ねてくれた。
「いえ。幼馴染、と言ったところですね。昔から、よく一緒に遊んでいたんです。ほら、リリム。ちゃんとご挨拶を」
「……う、うん」
ユリア様に背を押され、リリムは俯きながらも前に出てくる。
しばらく沈黙が流れ、顔を赤く染めながら口を開いた。
「い、一年三組。リリム=リリアトル、です。よ、よろしくお願いします!!」
深々と頭を下げるリリム。
ちょっと、人と話すのは苦手、なのかな?




