プロローグ
「あーあ。こういう世界だから、俺も獣っ娘と恋がしてぇ……!」
「それは絶対叶わない夢だな……」
「俺達のような平凡も平凡な男達が、エルフや獣っ娘と恋ができるはずがねぇよ」
「しかも、いまや女子は【戦乙女】っていう特殊能力があるから尚更な……」
俺の名は、一之瀬空。
こんな悲しみに包まれる会話をしているほど恋愛経験など皆無な少年の一人。名前はまるっきり日本人なのに獣っ娘と恋がしたいとか、妄想だろ? と思われるだろうが、俺達が生きている混合世界チスタリアだったら現実で可能なのだ。
突如として、地球の隣に現れた異世界アスタリア。
その存在に人々は恐怖したと同時に興味を持ち、調査に向かおうとしたが……謎の光が二つの世界を包み込み気がつけば世界は交じり合っていた。
まあ、地球の人々から言えば、エルフとか獣人とか魔法とかそういうのが現実のものになったから大喜びだったんだけど。
アスタリアの人達も、地球の機械文化やアニメや漫画などに興味津々。
自然と協定が結ばれ、地球とアスタリアの名前が混ざりチスタリアとなったのだ。
「くそぉ!! 俺にも魔法とかそういう力があれば!!」
「俺達のクラスに、魔力を持った人間は結構いるけど。俺達みたいな普通の人間もまだまだいるからなぁ」
混合世界になってから、魔力という魔法に必要なエネルギーを持った者との間に子供を作ることで地球人でありながら魔法を使える新たなハーフが生まれる。
昔の人達がずっと妄想し、憧れていた魔法を使える。
まるでアニメのような世界に入り込んでいる。
今の時代の俺達にとっては当たり前なような世界でも、昔の人達にとっては言葉どおり夢のような世界なんだろうなチスタリアは。
「来月には、俺達も高校生。また色気のない三年間を過ごすのかー」
「言うな。泣けてくる」
「俺達はブサイクじゃないんだ! ただ普通! そう普通なだけなんだ!! 頑張れば、恋のひとつや二つ……!」
そう、俺達は先ほど卒業式を終えてきたばかり。
来月からは、俺達は受験で合格した高校へ三人で通うことになっている。ただ家から近いという理由で三人とも選んだ普通高校。
「やったね! 私、来月からヴァルキュリア学園だよ!」
「私も! 一緒に頑張ろうね!」
目の前から歩いてくる女子生徒の会話に俺達は耳を傾けた。
ヴァルキュリア学園、か。
「いいよなー。女子だけの学校……そこに男だけがって展開。妄想が止まらねぇ!!」
「まあ、そんなこと無理なんだけどな」
「ですよねー」
なんて会話をしながら俺達は帰った。
そして、何もすることがなかった俺は小腹が空いたのでカップ麺を食べながらなんとなく自室でテレビを観ている。
『それでは、今週の注目ニュースです。今年も、優秀な戦乙女達が聖ヴァルキュリア学園へと入学が決定しました。皆さんもご存知。女性だけに発現する特殊な能力。戦乙女を育てる学び舎。今日は、その学び舎から卒業した生徒達の活躍を今一度』
テレビに映るのは、様々な姿でモンスターや強盗などと戦う乙女達の姿。
女性だけっていうのが、贔屓過ぎるよな。
なんで女性だけなんだよ。
男性にだって発現したっていいじゃないか。まあ、戦乙女ってぐらいだから性別的には女性にしか発現しないんだろうけど。
「かっけぇなぁ……」
戦乙女を発現するには、ある呪文のようなものを言う必要がある。
とはいえ、発現しない俺達男にとっては何の意味も成さないんだが。それでも……。
「我が呼びかけに応じよ!!」
その場に立ち上がり、ポーズを決めて叫んだ。
何にも起こるはずがないのに。
「なんつって……はあ、馬鹿らしい。アニメでも観ようかな」
リモコンを手に取りチャンネルを切り替えようとした刹那。
「―――へ?」
体が突然光りだす。
な、なんだ!? 思わずリモコンを落とし慌てて立ち上がる。
熱い……体が……! 何かが、俺の中から何かが……くるっ。体の底から湧き出てくる何かに俺は悶え、堪らず外に聞こえるほどの大音量で叫んだ。
「アアアアアアアアアアアッ!?」
同時に、光は弾ける。
衝撃は、俺の部屋を破壊するほど。苦しみは消えた。冷静になった俺の耳には、階段を慌てて上がってくる音が聞こえる。
「あ、空! さっきのはいったい……って、空なの?」
母さんの声だ。
空かって? そんなの決まっているじゃないか。あなたの一人息子を見忘れたというのか? って、ん? なんだか体に違和感が。
「……な」
母さんの反応。
体の違和感。
謎の苦しみがある前に俺がとった行動。
そこから導き出された答えは……。
「なんだこれーーー!?」
男でありながら、俺には戦乙女が発現してしまった。