log in - 08 遭遇
「スタート地点が森の中とか……無くね?」
普通こういうのって始まりの町とかからスタートするものだと思っていたのだが、その考えを裏切るようにしてマップの表示範囲内には森と湖しか写ってはいなかったのだ。
「てか、湖?…デカ過ぎね?」
そう、とにかく湖がデカいのだ!マップを最大尺度で表示しても、現在確認出来る範囲では対岸まで表示されないのである。
「まあ、森の方も大概だが……」
湖に向かって左側と後ろ側は果てが見えず、右側も遥か彼方に山らしきものが確認できる程度である。
「この森の中からセーフティエリアを探すのか……無理じゃね?」
これは死に戻り覚悟でログアウトするしか無いか? でも何処に死に戻るんだ? などと考えていると、またもや後ろから“ガサリ”と草木をかき分ける音がした。
また風か? とも思いつつ、後ろを振り返ると……
「グギャ」
「グギギャグギャ」
なっ、何と同族が…とか思ったのも束の間、彼等は木の棒等の粗末な武器を振り上げ襲いかかってきた。
血走った様な真紅に染まった瞳を向けて、こちらへ猛然と駆けてくる。
彼らをよく見ると、頭上に表示されたカーソルは赤であった。通常、頭上のカーソルは青がPC、緑がNPC、黄色が軽犯罪PCで赤が重犯罪PCとモンスターである。
「モンスターか…」
少々複雑な思いを抱きつつも、努めて冷静に彼等を識別してみる。
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[種族]ゴブリン(魔物)Lv-2 !狂乱
[満腹度]36%
VP - 100%
SP - 31
MP - 10
STR - 12
VIT - 11
MAG - 4
AGI - 27
DEX - 9
MND - 4
LUK - 18
[種族特性]
【成長促進】【神罰】【悪食 Lv-1】
[スキル]
【棍 Lv-1】【逃走】
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識別の結果、種族名の後に(魔物)と表示されている事に気付く。どうやらこのゲームのゴブリンは、妖精枠と魔物枠の二種類が存在しているみたいだ。
しかし気になるのはレベルの後に表示されている狂乱だろう。
「グギギャ」
「ギグギャ」
先頭のゴブリンが走る勢いのまま木の棒を振り下ろしてくる。
その攻撃を半歩下がりつつ剣を使って左へと流し、左から錆びた剣を振りかぶったもう1匹との間に割り込ませる事でその攻撃を妨げる。
そのまま左へと流れてゆく胴を薙ぎ払い、勢いのまま力無く倒れてゆくその背中越しに剣を突き込んだ。
その突きは狙い違わず後ろで剣を振り上げたまま硬直していたゴブリンの喉元へと吸い込まれていった。
「ふぅ…倒したか?」
と、一息ついたのも束の間“ガササササ”と言う音に剣を構え直して様子を窺っていると……。
「ひの、ふの、みの……」
なにか数えるのも馬鹿になるほど後から後から湧いて出てくる。
「グギャ」
「ギャギャギャ」
「グギャギャ」
「っ!」
奇声を上げて襲いかかってくるその群れを前にして自分は覚悟を決める。
ステータス的にはこちらの方が圧倒的に上だ。やってやれない事は…無い…はず!
自分は[アーツ]天稟の極みと栄達を発動させ自らその群れの中に飛び込んでいった……。
「せいっ!」
「グギ…」
「つあぁ!」
「ギギヤ…」
その戦闘は熾烈を極めた。
時空魔術のクイックで行動速度を上げつつ、剣で薙ぎ、突き、時に光魔術のライトアローで後方を狙い撃つ。
敵の囲みが厚くなり過ぎる前に【疾走】の[アーツ]瞬歩を使い囲みから抜け出し距離を取り、即座に弓へと装備を変えて矢を速射する。
消耗したSPなどは初期アイテムの各種ポーション類を使用し凌ぎ、それらが尽きた所で【★仙丹】の[アーツ]神仙の霊薬を使用し、これを乗り切る。
神仙の霊薬はVP,SP,MP、更には満腹度まで完全回復させ、その上で一定時間VP,SP,MP、の常時回復、および満腹度の消耗が無くなると言う、エリクサー+αの壊れアーツである。
因みに使用回数はスキルレベル分ストック出来、午前零時毎に1回分回復する。
これにより、なんとか戦闘を継続していき……
「グッギャ…」
目に映る範囲に存在する最後の一匹を仕留めると、辺りに静寂が訪れた。
はたして、どれだけの時間……どれだけの数と戦ったのだろうか?
「ハァ、ハァ、ハァ…フゥ」
荒い息を整え周囲を確認すると……其処は正に死屍累々な様相を呈していた。
このゲーム、倒したモンスターはその場に残り任意にインベントリに収納後に項目にある解体を選択する事で素材等へと変換される。これは個別でも、チェックを入れての一括での選択も可能である。
その他ではスキル【解体】をセットしていると手動での解体が可能となる。この場合、スキルレベルとリアルスキルで素材等の品質や量が変わる。
ただしインベントリの解体だと良くて高品質どまりで、それも滅多には出ない様だ。
即ち最高品質の素材等を得ようとするのならば【解体】セットして手動で行わなければならないと言う事である。
「かっ、勝ったどー!」
そう勝鬨を上げた瞬間にそれは訪れた。
“ピコーン”
《アギトのレベルが上がりました》
“ピコーン”
《【魔術】のレベルが上がりました》
“ピコーン”
《【光属性】のレベルが上がりました》
その後も“ピコーン”“ピコーン”“ピコーン”“ピコーン”…………
「けっ、結構上がったなぁ」
レベルアップのラッシュを終えて、こういったラッシュにもそのうち慣れるのかなぁ…等と思いながら倒したゴブリンを次々とイベントリに収納していく。
そうして作業を行いながらステータスを操作していると“ガササ”と言う音が聞こえた。
またか!? と思い其方を向くと、またしてもゴブリンが………て、緑?
そう、目の前に現れた拵えの良い斧を構えたゴブリンの頭上には……NPCを示す緑色のカーソルが浮かんでいるのであった。