log in - 74 そうして、戦端は開かれた。
“サラ、サラ”とそよぐ風が髪を掬っていく。
空模様は、こんなにも晴れやかですのに……。
小高い丘の上から見渡す眼下には、押し迫る『転生者』の群れ。
失礼な物言いだとは思いますが、あれだけの数が犇めき合っているとそうとしか呼べませんもの……。
わたくしは、そっと隣へと目を向ける。
そこに佇むのは、巨漢。
本当に、最初に会った時はあんなにも小さかったですのに……育ちましたわね。
もっとも、少しばかり……いえ、繕いきれませんわね? こう、激しく方向性が三次元立体的に突き抜けてしまってはいますが……。
そんな彼の顔に浮かぶ影。
「何を黄昏ていますの?」
「身の程知らずの馬鹿どもがよぉう。こう、うじゃうじゃと……これってよう? まるで虫けらのようじゃねぇか、なぁ?」
ぞんざいな言葉に乗って頭へと響いてくる副音声。
お分かりになりましたでしょうか? 本当……へんてこな方向に成長したものですわね……。
「はぁ~~~……いい加減にその口調、おやめになりません?」
わたくしの口から淑女としてあるまじきため息が零れ出ます。
いえ、別に淑女然を気取っているわけでもありませんが……。
「今回の事がうまく進めば、貴方の名義上の妹君が王座につくのでしょう? でしたら、これ以上そんな道化を演じる必要もないでしょうに……。何より、スキルの影響で内面まるわかり。道化に成り切れていないところが、ある意味とても道化ですわよね……」
そう、彼の名はマルス=ロゼ=アンバッス。『戦軍のアンバッス』の王子様ですのよ? それが、この道化っぷり……。溜息の一つも出るというものでしょう?
「ふうぅ……本当に、容赦がないな」
「当然ですわ。いっそのこと、ゼンラーマンと呼びましょうか?」
わたくしは、初めて彼と出会った時のことを思い返します。そう、鮮明に! 忘れられようはずもありませんもの。
わたくしを助け出してくださったあの方の脇に抱えられてやってきた小さな少年。
気を失っているその子の身には、一糸すら纏われてはいなかったのです。そう、フル○ンでしたわ!
……こほん。聞けば、そのままの姿で荒野に倒れていたというんですのよ?
手こそ酷い怪我をしていましたが、それ以外には外傷が無いことから追剥にあったということもなさそうでしたしね。
正直、意味が分かりませんでしたわ……。
もっとも、そんな姿で帝都から疾走してきたとは、流石に誰も思い至りませんわよね?
「それだけは勘弁してくれ!」
思わずといった様子で声を荒げる彼。
そのあまりの必死さに“クス、クス”と笑いが零れ出てしまうのも仕方ありませんわよね?
「まったく……緊張感の欠片もないではないか……」
「あら? アギト様の話を聞く限り、緊張する必要なんてどこにもありませんことよ? 油断さえなさらなければ、ね……」
そう、こちらともう片方……北側に押し寄せる『転生者』達は、いずれもが最初の進化にさえ至ってはいない方々ということでしたもの。
まあ、数だけはそれなりにいますから、囮だと分かってはいても無視が出来ないというころがいやらしいですわよね?
そうして、進化に至った少数精鋭(笑)の方達は、本命の南側へと向かっているのだそうですよ? そう……あの方の待つ、南へと……。
「相手は死なずの『転生者』……ならば、手加減の必要は無し! 全力で、叩き潰すのみっ!!」
裂帛の気合いと共に、踏みしめた地面に亀裂が走る。
――ドウッ――
迸る闘気を推進力に、彼の巨体が『転生者』へと向かって飛翔する。
◇◆◇◆◇
“ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……”
欺かれし愚か者達の踏み鳴らす大地が、その響き渡る轟きに震える。
後に愚者の攻進と呼ばれるこの侵攻は、それに続く一連の事件も相まって、深くこの地に生きる者達の記憶に残されることとなる。
それが、良くも悪くも『転生者』に影響を及ぼしたということは、至極当然の結果であった。
*
*
*
《『禁忌の森』境界線・中央部》
押し寄せる転生者の数……およそ、3万。
ある者は成功の暁に得られるであろう報酬に胸を躍らせ。また、ある者はこれから先の展開に思いを馳せる。
そんな、夢に現を抜かす彼等彼女等の許へと……。
――ズズゥ~~~~~~~~~~ンンッ――
「ひぃい~~~~~っ!?」 「な、何っ!?」 「きゃ~~~~~っ!?」 「どわぁ~~~~~っ!?」
大地を砕く轟音と共に……闘神が、舞い降りた。
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