log in - 72 とあるニートに倣え!
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かくして、俺は今こうして道なき道を、待ち合わせの場所へと向かってひた進んでいるという次第だ。
しかし……妹、ねぇ?
まあ、色々と訳ありだということは分かっていたが、ね。先日の件もあるしな……。
先日の『転生者』との戦闘。
その根っこに国……『戦軍のアンバッス』が絡んでいることは分かっている。
そこにきて、マルス=ロゼ=アンバッスの妹が接触してくるとは、ね。厄介事の匂いしかしないんだが……。
に、しても……暇よのぅ。
杜の外に暮らす者達が聞けば正気を疑うことだろう。世界有数の危険地帯を歩いているとは思えない言葉だからな。
とはいえ、だ。時折襲いかかってくる魔物も、俺が対応する間もなくマルスの手によって千切っては投げ、千切っては投げ……。
あ? 今丁度ツインヘッドベアが、威嚇の咆哮を上げる間もなく殴り飛ばされていったよ……。
因みに、ツインヘッドベアとはその名の通り、頭が2つある体長5mほどの熊の魔物だ。
こういうのを見ると毎回思うが、体の制御ってどうなっているんだろうな? 分担制なのか、交代制なのか……もしくは?
そこら辺の疑問は尽きないが、まあ、熊という例に漏れず、この世界においてもその胆嚢は薬の素材として、その手は珍味として高額で取引されている……らしい?
え? ファイティングベアはって? あれは駄目だ。手は硬く筋張っていて食えたものではないし、胆嚢も……何か、酷くダメージを受けているものが多いんだよ。
それもまあ、そのはず。こう、出会った2匹のファイティングベアは向かい合い……ファイッ! てな感じで、な……。肝臓諸共に、クラッシュ……。
あいつ等ってば、どうも3度の飯より同族同士で殴り合うことに心血を注いでいるっぽい生き物みたいなんだよ。
これには逸話もあってな? とある新米『狩守』のパーティが運悪くファイティングベアに出くわして危機的状況に陥ったらしいんだが、そこに現れるもう一匹のファイティングベア。最早絶体絶命……と、思いきや、『狩守』のパーティほったらかしでファイッ! てなったらしくてな? 呆気にとられて逃げる間を見失った彼等は、目の前で見事なクロスカウンターによるダブルノックアウトで倒れ伏す2匹に止めを刺すことに成功したんだとか……。
……っと、そんなことを考えている内に、どうやら目的の場所に到着したようだ。
深い森の中に“ポッカリ”と開いた空間。その中心には、木々の隙間からそよぐ風に水面を微かに波打たせる泉が、陽の光に照らされて“キラリ、キラリ”と幻想的な輝きを放っている。
お~、とその光景に目を奪われる俺。
僅かばかり先に到着したのであろう先方も同じ心境なのだろうか? 畔に佇む女性も、どこか感慨深げにその泉を眺めていた。
その姿には……憶えがある。
そよ風に揺れて、泉に負けず劣らず“キラ、キラ”と煌めく銀の髪。
“スラリ”と伸びた長身に、メリハリの利いた肢体。
そして、なぜだか頭の奥の方を掠めていく、逆らっちゃ駄目だ! 逆らっちゃ駄目だ! 逆らっちゃ駄目だ! 逆らっちゃ駄目だ! という……警告?
何だろうね? この、懐かしさにも似た、本能的な……畏れ、は……?
「おう! おめぇがフェルメリアのパシリかぁ? まさか、こんな別嬪が来るたぁ思わなかったぜぇ!!」
「……何かしら? この、副音声……」
「気にしたら負けだ」
「そ、そうね……」
この場の雰囲気をぶち壊す、情緒の欠片もないその粗野な主音声とは裏腹な副音声に、渋い顔をしながらこめかみを“グリ、グリ”と押す女性。
口から零れ出たその第一声に思わず返した俺の言葉に、彼女は戸惑いながらも素直に同意するのであった。
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