log in - 60 その、2人は……_①
「ん、んんぅ……んむ……んん?」
唇に振れる柔らかな感触。隙間を押し開いて滑り込んで温もりが、口内を舐め回してゆく。
舌が絡め取られ。“クチュリ、クチュ”と絡み合う水音が、脳に直接響いてくるようだ。
腰に回されていた手が、ゆっくりと前へと移ってきて……って、いい加減に……。
――ドグンッ――
「しなさいっ!!」
「かはっ!?」
肺の中の空気が一気に押し出され勢いで、吹き飛ばされるように離れていく彼の唇。一瞬糸を引いた唾液が弾けて宙を舞った。
「一体何なの、もうっ!」
今朝、顔を合わせた瞬間、何の脈絡もなく突然唇を奪われ。あまつさえ、そのまま行為に至りそうな彼の所業に対して、鉄拳制裁は当然の報いだろう。初めてではないとはいえ、あまりにも唐突がすぎる。
私と彼が、そういう関係になったのは、何というか……自然の流れだった。
親が子供の頃からの、家族ぐるみの付き合いで。生まれた日が同じ。病院のベットは隣同士。おまけに、両親が構えた新居も隣同士ときたものだ。
物心ついた時から隣にいて、自然と行動を共にし。いつの間にか恋人を通り越して、気が付けば夫婦のような間柄になっていた……まだ、学生なのに。
よくあるといえば、よくある話なのだろう? 不思議なことがあるとすれば、そこに……私が全く違和感を覚えていないところだろうか……?
まるでそれが、当然のことのように……。生まれた時から、それが当たり前であるかのように……。一連の流れや関係に、まったく疑問を感じないのだ。
それが異常であることは、私も理解をしている。何せ友人はおろか、16歳の子供相手に老成した夫婦のようだと親にまで言われるくらいなのだから……。こう……orz、である。
「で? ホント、いきなり……何?」
私は、未だ腹を抱えて悶絶している彼を、冷たく身おろちながらそう問い詰める。
嫌だったわけでは決してないのだけれど……。流石に早朝の玄関で、ドアを開け放ったままというのは……有罪、でしょう?
「う、ぐ……ご、っうぅ、世界を狙える拳だぜ……」
「ふう……何を言ってるんだか。いいから、説明!」
「い、いやな? 変な夢を見てよぉ? 何か異世界に転移した挙句、息子の前世と出会うとか……ありえねぇよなぁ? 俺たちまだ結婚もしていねぇってのにさ……」
「っ!?」
その話を聞いた瞬間。私の全身に“ピシィーッ”と電気が走った。何故ならそれは……私が見た夢と、おなじものだったのだから……。
とはいえ、ね。それはそれ、これはこれとして……。
「まだってなによ、まだって!? どさくさに紛れて、何を口走ってるのよっ!!」
「え!? お前……俺の嫁にきてくれねぇの?」
「~~~~~っ!?」
こ、こいつはぁあ! 本当に、どうして臆面もなく真顔でこんなことを口走るのよっ!?
いや、決して拒否するわけじゃないわよ? というか、それ以前に何か外堀が埋め尽くされているような気もするし……主に親同士の手で……。
「あ~ら、奥様。また、やっていますわよ?」
「まあまあ、朝早くからお熱いわねぇ?」
「はっ!? い、いい加減、中に入りなさい! ドアを開けっ放しだと寒いでしょっ!!」
門の向こうから聞こえてくる、ご近所様の声に、私は取り繕うように彼を家の中へと引き摺り込む。
「「あらあら、まあまあ……」」
ううぅ~、顔が熱い……って、おい? お前は何を愛想よく手なんぞ振っているかっ!?
*
*
*
“トントントントン……”
野菜を切り裂く包丁が、リズミカルに旋律を刻む。
「お~い、絹織 。何時までプリプリしているんだぁ~。そんなんだと、まな板まで切り裂くぞぉ~」
――カッチン――
「誰の所為よ! 誰のっ!?」
こんなやり取りも、一体……何度目になるのか……?
まあ、実のところそこまで本気で怒っているわけでもないのだけれど、ね。何時ものことだし……。
それに、多分に照れが入っているというのも……認めるわ。でも、下手に照れて見せると、こいつ……調子に乗るし! 何より……癪じゃない!!
え? ツンデレ、ですっ……て……? な、殴るわよっ!!
「だってよぅ。あんな夢見ちまったら、こう……無性に人肌が恋しくなっちまってよぅ……。最初はよかった……いや、よくはねぇけど。まあ、ありきたりな異世界転生ものだったからさぁ……」
そうね。確かに、最初はよくありがちな異世界転生ものだったわね。
海難事故で亡くなった夫婦が、異世界に転生してイトコとして再開。その後、色々あって仲間と共に冒険を繰り広げる……ところまではよかったんだけど……。
そんな中、突如勇者召喚(笑)によって別の世界に呼び出された私と彼は、その地で前世での息子……その前世と出会ったのだ。
そして私達は目にする。その漢の……痛々しいまでに悲しい生き様を……。
「って、ちょっ!?」
エプロンの内側へ“スルリ”と滑り込んでくる手。そのまま抱き寄せるように、胸が“ムンズ”と掴まれる。
密着する体に伝わる温もりと、お尻に当たる硬い張り。
「わりぃ……もう、限界。後姿を眺めていたら、ムラムラしてきちまって我慢できねぇ」
「んむぅううっ!?」
そう、足早に言い放った彼の口が、文句を言おうと振り返った私の口を塞ぐ。
慣れた様子で口の中へと侵入してくる生暖かい感触に、自然と応えてしまう私の……舌。
「ぷふぁ……」
糸を引いて離れていく温もりに、切なさを感じてしまう。それがまた……腹立たしい!
なのに、それでも……。
「ほら? もう家ん中だし……問題ねぇだろ?」
「……ばか……」
彼の求めに応じてしまうのは……惚れた弱みというものなのかしら……?
*
*
*
「……本当?」
何が? と問われれば。私も彼と同じ夢を見たという話が、である。
行為も極まりを過ぎ。余韻に浸る微睡の中で、寝物語のように語ったのだけれど……それを聞いた彼の、第一声がこれである。
まあ、分からなくもない。まさに寝耳に水とは、このことでしょうね?
「これって、やっぱり……アレ、なのか?」
「そうは、思いたくはないのだけれど……。そう……なのかしら、ね……?」
それは所謂、厨二的なモノなのだろうか……?
「俺……もう、完治したはずなんだけどなぁ……」
遠い目をする彼。けれど、あえて言わせてもらえば……。
「そうかしら? その分、オンラインゲームの方ではっちゃけているみたいじゃない?」
「うぐっ!?」
そして、言葉を詰まらせる……彼。
そうなのだ。こいつってば数年前までは、何というか……痛い、症状だったのよねぇ……。治療をするのに、酷く苦労をしたわ……。
「その節はお世話になりました!!」
私のジト目にその心情を察したのか、そうベッドの上で姿勢を正す彼。もちろん、そんな締まらない格好では呆れがくるというものだ。
「でもよう? それを言ったらお前だって、相当だろう? 知ってるぜ……『剣姫』とかってよくある厨二ネームで呼ばれてるんだろ? それも、魔法使いが主題であるゲームで」
「うぐっ!?」
今度は、私が言葉を詰まらせる番だった。
『ソーサリーアポカリプス・オンライン』
それが現在、私がプレイしているMMORPGの名だ。
こいつがいま言った通り、魔法使いを主題としたもので。終焉の迫る世界で、生き残りをかけた魔法使いたちの奮闘を描いた物語だそうな……。
そう、黙示録の名の示すように、プレイヤー達の行動のよって終焉の原因が明らかになっていく……というのが、ゲームの流れになるわけだ。
そんな舞台設定の中にあって、剣姫とは何故? と思うかもしれないわね。いくつか理由を上げるとすれば……。
まずは、このゲーム。プレイヤーの装備できる武器は、杖・指輪・魔道書の3種類のみ。それぞれの特長を上げれば……。
杖=威力や効果の増幅。
指輪=発動までの時間の短縮。
魔道書=リキャストタイムと消費MPの削減。
等が、主に優れている点である。
さて、この中で最も有用なのはどれか……?
一撃必殺の杖か? ……いえいえ違います。
相手に先んじて攻撃の出来る指輪か? ……いえいえそれも違います。
確かに前衛がいる他のゲームならそれもありなんだけれどね。
このゲーム……居ないのよ。その、前衛職……orz
当然のことながらプレイヤーは魔法使いだし。NPCも、やっぱり魔法使いなのよ……このゲーム。
その辺りは、装備できる武器で察することができるはず。他のゲームとかなら、せめてナイフくらいは装備できるものだし……。
と、いうこともあって、ソロには厳しい設定になっているのよね。
基本戦術が、パーティーを組ん立上での時間差攻撃で、各自のリキャストタイムを稼ぐか。拘束魔法や障害魔法で足止めしている間に叩くかだし、ね。
なので、詠唱時間の無い、或いは短い魔法の中で、元々キャストタイムの短いものを装備の効果で更に飛ばして、1人で弾幕を張れる魔道書が、最も優秀なのである。
なんせ、威力の強化や詠唱時間の短縮は、レベルやステータスの上昇で如何とでもなるけど。リキャストタイムは特殊な例を除いて、ほとんど変わることがないのだから……。
とはいえ。問題は、この魔道書……滅多なことでは手に入らないのだ。
何故ならば、これ……全てユニークで、同じものは存在しないというのよ。
そして、これは〝書〟と銘打ってはいるけど、それは魔法的な知識や記述、時に記憶なんかを納めている器という意味で、必ずしも本の形をしているわけじゃなかったりする。
中には、獣の姿形をしたものもあるし、ね……。
と、まあ……察している人もいると思うけど、割と早い段階でその魔道書を私は手に入れたわけなんだけど、その形状が……〝剣〟だったのよねぇ……。
もっとも、それだけなら痛い二つ名を与えられることもなかったんだろうけど……。
うちの家系ってば、代々警察関係の仕事に就く人が多いらしくて。本当かどうかは知らないけれど、遡れば先祖は岡っ引きだったとか。
でも、岡っ引きってどちらかといえば……ヤクザ寄りじゃなかったかしら?
まあ、そんな事情? もあってなのか、家には小さいながらも道場が建てられていて、小さい頃から私も木刀を振っていたわけなのよ。
なので、それなりには腕が立つもので、NPCも含めて近接戦闘が壊滅的なゲーム内ではそれはもう目立つ目立つ。
1人、別のゲームをしているようだとは、よく言われるものだ……。
「いやお前、それなりにって。確か、全国大会準優勝の剣道部部長に勝っていたよな? それも、圧勝」
き、聞こえない! 聞こえないわっ!!
で! 範囲魔法以外は、基本〝剣〟で切り払えるし。範囲魔法は詠唱時間が長いんで、発動前に切り倒せるし、で。PVP無双をしていたら、何時の間にかそう呼ばれていたわ……orz
「自業自得だな!」
「煩い! 海賊王(笑)よりマシよっ!!」
「はうっ!?」
そう、それはブーメラン。
因みに、こいつがやっているMMORPGのタイトルは『オーシャンズワールド・オンライン』と言う。
世界の9割以上が海に覆われた世界で、僅かに残ったり口を奪い合ったり、海底に沈んだ資源を探索したりする……言わば、海賊ゲーである。
その趣旨からいえば、栄誉な二つ名なんだろうけど、ねぇ……。
ゲーム内ではっちゃけ過ぎたせいか、何時の間にか周りに人が集まって。なし崩し的にギルドを設立する羽目になった結果、気付けばゲーム内屈指の巨大ギルドになってしまっていたと……。
そんな不本意な状況から付いた二つ名は、当人もさぞや受け入れがたいものなのでしょうよ。
「そ、それにしても、よ?」
「何?」
「腹……へった、な」
「それこそ自業自得よ、馬鹿」
*
*
*
“ズルズルズルズル……”
「……して、何故にカップラーメン?」
「はぁ~……あのねぇ? 今の私の何処に、料理を作る気力があると思うわけ?」
「はい。申し訳ございませんでした」
「ん、よろし」
“ズズズズズズズズズ~~~~~……”
「「はぁ~~~~っ」」
元祖鶏ガラと銘打つスープが、五臓六腑に滲み渡る。
北国のトップを銘打つラーメンも捨てがたいけど、私はやっぱりこっちよねぇ……。
“タプン”と波打つスープを見つめながらそんなことを考えていると、何やらテレビから勇壮な音楽が流れてきた。
「あ~、もしかして、これってアレか? 世界初のフルダイブVRゲームとか、い……」
ん? 何……?
途中で途切れた彼の言葉に、容器から顔を上げ……てぇええ!?
「瞳真!? 何やってるの!? 口っ! 口ぃいっ!!」
啜りかけの麺を口から“ダラ~”とぶら下げながら硬直している彼は、私の声に反応するかのように“プル、プル”と震えながらその指先を……指し示した。
何、が? と、視線を向けた……その先。
「……え?」
嘘……何、これ……?
その目に映る、見覚えのある光景。
それは、今朝、夢に見たその面影を色濃く残した……世界の姿、だったのだ。
私と彼の……時が、停まった。
共に2人。テレビに映し出される世界の様子から目を離せずに……。
「「ぷふぁあああああぁぁぁぁぁああっ!? はぁ! はぁ! はぁ!」」
い、息をすることすら、忘れていたわ!?
「お、おい!? これって!?」
「え、ええ! じゃあ、やっぱり!?」
彼と私の、夢の記憶が……一致する。
「「でも、一体……どういうことよ?」」
疑問は尽きない。けれど、私と彼が、即日この『|Reincarnation Online』のβテストに応募し……見事当選したということは、ここに記そう。
そして……廻る因果の、果て……。
――ドゥギューーーンッ――
それは、まるで……そのタイトルが、示すかの様に……。
「なっ!? ゴブリン……の、プレイヤーだとっ!?」
悠久の時を廻り巡って……。
「こんな所までご苦労なことだ……傀儡の先兵よ。だが、此処から先は進ません! このまま揃って……死に戻るがいいっ!!」
そこへと……収束する……。
後日、ノクターンで投稿中の廻る因果の狭間で - Reincarnation Revolve -にて、これのSSを投稿予定。18歳未満の方には申し訳ありません。




