log in - 58 オーレル_③
“ズギューーーーンッ”
けたたましい轟音と共に、雷が地面を走る。大気に余波を“ゴロ、ゴロ”と響かせながら、焼け爛れた大地に“パリ、パリ”とその名残を刻む。
「な……何だ、ありゃあ?」
「何かの……[アーツ]でしょうか?」
そこで目にしたのは、まるで【奏雷のアトラトル】の保有[アーツ]雷纏咆のように紫電を纏って生身で駆け抜ける……アギトの姿。
「いえ! あれは【震電】。歩法系統のスキルの効果です!!]
「「はい?」」
オレとエレオノーラの間抜けな声が重なる。
いや、だってよ? あれが単なるスキルの効果ってんだぜ?
まあ……ある種の魔物の中には、常時炎を纏っていたりする奴もいるから……ありえるの、か……?
「って、ヤバイっ!?」
「サ、サイクロプスなのです!?」
木々を押し退け、アギトの前へと躍り出る巨体。
単眼の巨人――サイクロプス。
優に8mを超えるその巨身が、アギトを見下ろす。
「……不敬……ですね?」
「「ひぃいっ!?」」
一体何処から出したんだ!? と恐怖に慄くほど、深く昏い……まるで、地獄の底から響いてきたかの様な声色でそう呟いたリュシオーネ。
「ふっ!!」
その姿が一瞬で宙を舞い……。
「頭が…高いっ! ですわっ!!」
それは“ドゴン”だろうか……それとも“ズガン”か? とにもかくにも大地を見下ろす単眼が、轟音と共に……地面に堕ちた。いや……埋まっ、た……。
ああ、うん……分かっては、いたんだがな……。それでもよ? あの巨体が目の前で、こう……“プチッ”と潰されるのを見ると、な……。
思わず呆気にとられて立ち止まるオレとエレオノーラ。そんなオレ等を尻目に、まったく動じることなく何やら一言二言リュシオーネに告げたアギトは、颯爽とこの場を後に……って、待てぇいっ!?
「ふっ……」
あん?
「ふふふふふふふふふふふふふふふ……」
な、何だぁああっ!?
「リュ……リュシオー、ネ?」
〝一歩〟後ずさりながらも、恐る恐る問いかけるエレオノーラ。
いや、うん……これは、引くわぁ……。
だが、これはまだ……始まりに過ぎなかったんだ!
「ふおぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」
「「ひっ! ひぃいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~っ!?」」
勢いよくその場を飛び退くオレ達の前で、白銀の嵐が嵐が吹き荒れた。
「っ! 【覚醒】か!?」
「ちょおぉおおっと待つのですよっ、リュシオーネ! 今そんなものを使ったら、後が持たないので、す……って、何ですかぁああっ!?」
リュシオーネを中心に渦を巻く銀色のオーラに、あまねく色彩が加わっていく。
それは……銀虹、とでも言うんだろうか? 眩い煌めきを撒き散らしながら、そのオーラは「ふおぉ~~~っ!」という奇声と共に天地を震撼させる。
つうかよ? その雄叫びは、女としてどうなのよ……?
「リュ、リュッ……リュシオーネぇえ!? それは一体……何なのですかぁあああっ!?」
見た目とは裏腹なあまりの残念さに、妙な冷静さを取り戻したオレの隣でエレオノーラが叫ぶ。
「ふっ、ふふふふふふふっ! よくぞ聞いてくれましたっ!! これに名をつけるとするのでしたら【超・覚・醒】とでも言ったところでしょうか? 【覚醒】時のペナルティを無くし。全ての消費消耗ををゼロに。そして、能力値を更に5倍跳ね上げるのですっ!!」
「「……はいぃいいっ!?」」
“ジリ、ジリ”と周囲を取り囲む魔物がつめよってくるその只中に、場違いも甚だしい素っ頓狂な叫びが響く。
いや、だってよ? こいつの【覚醒】って、確か……能力を5倍にする代わりにスタミナの消耗と消費が2倍になって。更には満腹度の消耗が以上に加速されるっつうやつだったよ、な?
そこから、更に能力が……5倍? ペナルティを無くした上に、全消費と消耗がゼロ? それって……満腹度も、か?
これ……まさに、唖然。
無防備に立ち尽くすオレとエレオノーラへと、好機とばかりに飛びかかってくる魔物。
それを、銀虹の嵐が呑み込んだ。。
「……なあ、エレオノーラさんや?」
「……はい、何でしょう。オーレルさん?」
「これ……オレ等、要らなくね?」
「……………」
言葉もなく黙り込むエレオノーラ。
さもありなん。目の前で起こっているそれは、最早戦闘などと呼べるものではなく……蹂躪、と呼ぶべき虐殺に他ならない。
まったく……どっちが狂乱なのか、分かりゃしねぇな……。
拳が振り回される度に肉片が散り、足が薙ぎ払われるたびに血風が舞う。
むう? セリアン(兎)のSTRは低めのはずなんだがなぁ……。
いや、AGIとDEXは高いから、正確に速度が乗るのか……?
最速で、最短の拳が飛ぶ、と……。
まあ、もっとも……5倍×5倍、累計25倍に跳ね上がっているSTRにかかれば、その辺りも誤差に過ぎんか……。
いずれにせよ、だ。オレが手を出せる余地なんて、ねぇんだよなぁ……。
その、圧倒的、という言葉すら生温い戦闘力を目にして、体に“ズズゥ~~ン”と伸し掛かってくるような無力感を感じる。
――ホントウニ……ソレデイイノカ?――
「っ!?」
「オーレル?」
な、何だ!? 今の……声?
――オマエハ……ナンノタメニ、センシタル?――
“ハッ”とする脳裏に浮かぶ……漢の、背中。
絶望的な状況を前に、傷つきながらも決して屈せず。無力な者達を、その背に護って立ち塞がる……漢の、姿。
そうだ! オレは、あの不屈の背中に……憧れたんじゃねぇかっ!? なのに……何を日和っていやがるんだっ!!
燻る炎が、胸の奥で燃え上がる。
そうして〝一歩〟足を踏み出す俺の前に……それは、姿を現した。
“ズズゥウウウ~~~~~ンンッ”
「な、なん……だと……? 何で、こいつが……ここ、に……?」
突如虚空から出現し、大地へと地響きを立てて突き立った……一振りの斧。
それは、漆黒にして巨大な両刃の斧。片側は、半円を描く鋭い刃。それに対してもう片側は、サメの歯のように鋭い巨大な襞が重なり合うように連なる異形の刃。
完成させたはいいが、何故か装備することが出来なかった。アギトから譲り受けた【怨剣・デモリッシュオーグ】を素材として鍛え上げた、俺の最高傑作。
【神噛の砕斧・鬼覇】
「な! 何なのですか!? それはぁあああっ!!」
それが今、まるでオレの闘志に呼応するかの様に、その存在感を解き放っているのだ。
「くくくくくっ……ふはははははっ……はぁーっはっはっはぁーーっ!!」
「さ、三段笑いぃいいいっ!?」
オレの手が、その柄へと伸びていく。
――ドックンッ――
しっかりと握り込まれた手の内側から、脈打つような力が流れ込んでくる。
「お……おおお……おおぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!!」
「まっ!? 待つのですよ! オーレルぅうううううぅぅぅぅぅ~~~~~っ!!」
オレは、手にした斧を肩に担ぐように構えると、猛然と駆けだすのであった。
ああ、やってやる! やってやるさっ!! 漢の背中は……オレが継ぐっ!!
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“ピコーン”
《称号〈九近衛:黒の継承者〉を得ました》
《〈九近衛:黒の継承者〉は強制的にセットされました》
《称号スキル【※※※】を習得しました》




