log in - 57 オーレル_②
アギトと出会って、早ひと月。
その間、あいつってば色々とやらかしていやがったが。それでも、それほどの混乱もなく、日常は穏やかに過ぎていっていた……この日、までは……。
「だぁ~~~っ! まだ瘴気異常地域を抜けねぇのかっ!?」
木々生い茂る森の中を、全力で駆け抜ける。……ってか、どれだけ走り続けてるよ!? いい加減、スタミナが! スタミナがぁあっ!!
「無駄口を叩いていないで、足を動かすのですよ、オーレル!!」
いや、お前はまだいいだろうよ。エルフは森の中での行動に+補正がつくんだからよぅ……。
オレの目の前で、起伏の激しい地面をものともせずに“スイ、スイ”と木々の間を抜けていくエレオノーラに、なまらジトった目を向けちまうのも仕方のないことだろう?
「邪魔! ですわっ!!」
そしてその先で、周囲の木々を足場にし、立体軌道で進路上に現れる魔物を爆殺していくリュシオーネに関しては……。
う、うむ……最早、何も言うまい……。特に……その、胸部の立体軌道に関しては……。
思わずエレヲノーラの背中に生暖かい目を向けてはしまったがな!
「っ!? な、何ですか!?」
むう、何て感のいい奴だ……。
さて。何故こんなにも慌ただしく森の中を強行することになったのかと言えば……。事の起こりは、今から2時間ほど前へと遡る……。
*
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「くっ……ふあぁ~~~ぁあ……。むう? 昨夜はちと根を詰め過ぎたか?」
……だが! それも仕方あるまい? 製作中の武器が1ヶ月の歳月を経て、ようやく完成までこぎつけたんだ。最後の詰めに、力も入るってなもんだろう?
ベッドから“ノッソリ”と抜け出したオレは、ふと壁の姿見に目を向ける。
「むんっ!」
サイドチェスト! ……うむ! 我ながら、見事な筋肉だ!!
因みにオレは、寝る時はパンツ一丁派だ! ん? 誰も聞いてねぇよって?
まあ、野郎のセミヌードなんて誰得だってやつだよな! では、こいつは如何だ?
エミラは……スッポンポン派だぁああっ!! 見たいか? 見たいだろう? まあ、見せたりしねぇけどよっ!!
もっとも、今は胎ん中の子供のこともあるから、きちんと着て寝ているぜ。
“ドタドタドタドタ……”
ん? 何か……騒がしいな……?
“バンッ”
「オーレル! 大変なので、す……よ……」
「あん?」
いきなり部屋へと飛び込んできたと思ったら、目をまん丸に開けて硬直するエレオノーラ。
「…………………………」
「…………………………」
「ええ、と……」
訪れる沈黙。
困ったように苦笑を浮かべるエミラ。
視線を受け“ピク、ピクン”と躍動する筋肉。
「な……」
「な?」
「何て恰好をしているのですかぁあああああぁぁぁぁぁ~~~~~っ!?」
「くべらっ!?」
何処にこんな力が? と思えるくらい強烈なストレートが、オレの鋼の腹筋? を呆気なく打ち砕いていきやがった。
「さっさと、着替えるのですよぉ~~っ!!」
叫びを上げつつ、部屋を後にするエレオノーラ。
な、なんたる理不尽……ガクリ。
*
*
*
「あてててて……ひでぇ目にあったぜ」
「あなた。あのポーズは……ないです」
「ぐふっ!?」
無表情のコメントが、心に“ザックリ”と突き刺さるぜ……。
「まったくです! オーレルの所為で、余計な時間を食ってしまったのですよっ!!」
「ああ~ん? つうか、朝っぱらから何だってんだよ。慌ただしい、な……?」
つうかよ? 朦朧とする意識の中。かみさんに着付けられるがままだったんだか……何故のオレ、完全武装?
「そ、そうなのです! おしゃべりしている暇は無いのですよっ!! 準備が出来たのならば、さっさと行くのですよぉおおおっ!!」
いや、まてまてまてぇいっ! だから、一体全体何だってんだよっ!?
「待つ」
「ぐえっ!?」
思い出したかのように、慌てて俺の腕を掴んで引き摺っていこうとするエレオノーラの襟首を“グワシ”掴んで引き止めるかみさん。
さ、流石はエミラさん……容赦がねぇ……。
「落ち着いて」
「おひふへはふはぁあっ!! けふぅうっ! けふっ、けほっ……ううぅ……」
「それで?」
蹲り、恨みがましく見上げるエレオノーラへとのしかかる……静かな圧力。
うん? ひょっとしてエミラさん? オレへのボディーブローのこと……怒っていらっしゃる?
いや~、愛されてるなぁ、オレ。
「あなた」
「オーレル?」
はい、ごめんなさい。調子に乗りました……。
如何やら顔に出ていたらしい俺へと向けられる三白眼。
エレオノーラ曰く。「すっごくイラッとしたのです!」だそうな……。
「んっ、んんっ! 今朝、神託が降りたのですよ! 大狂乱が起きると!!」
大胸……筋? ……いや、乱か? ……ん? 狂、乱……?
「大狂乱だぁあああああっ!?」
「と、いいますか。エミラ! 貴女、分かっていましたよねぇえっ!?」
うん? そういえばオレ……何気にフル装備?
あまりに何時ものこと過ぎて気付かんかったが。あのタイミングですぐに着替えさせられていたっつうことは、前もって用意していたっつうことだよな……?
……毎度の事ながら、エミラ……恐ろしい子!? ……子?
*
*
*
と、まあ……こんな感じで今に至ったっつう訳だが。
ったく。瘴気の異常活性が原因で、一部の『転地の洞』が正常に繋がらなくなっているってんだからよぅ……。
日頃『転地の洞』での移動に慣れちまっている弊害か、道らしい道ってやつが整備されていねぇ訳で。木々生い茂り、地面の起伏甚だしい森の真っ只中をひた走るすることになっているつう訳だ。
「でもよ? 何でお前が出張っているんだよ?」
「知らないのですよ。それは、森霊様に聞いて欲しいのですよ!」
まあ、その理由は薄々察してはいるんだけどよ?
恐らく、オレ等が向かっている『湖村:フォロム』にはアイツも……アギトの奴も向かっているんだろう。確か、前に依頼で赴いて……色々あったらしいからな……。
てか、そうするとだ。森霊様のアギトへの関心が、普通じゃねぇってことになるんだが……?
「月まで、吹き飛びなさいっ!!」
“キラン”という効果音が聞こえそうな勢いで、空の彼方へと消えていくファングベア。
むう? 普通じゃねえっつうと、こいつのアギトに対する態度もおかしいんだよなぁ……?
因みに、ファングベアとは長く太い犬歯を持つ、立ち上がると4m超もある熊の魔物である。
それにしても、だ。まだ着かねぇのか!? いい加減、マジでスタミナがヤバいんだが!!
「見えたのですよ!」
お? おおぉう!? 間に、合っ…た……? って、ドットギリギリかよ!? スタミナポーション! スタミナポーション、プリーズ!!
「さあ! エレオノーラ様。オーレル。参りますよ!!」
「って、待てぇい! ス、スタミナ、マジ、ヤバイ、からぁあっ!!」
村の入り口で仁王立ちになりながらそう告げるリュシオーネに、オレは間髪入れずにツッコんだ。
いや、一瞬でも躊躇したら、そのまま中へと放り込まれそうな勢いだったんだよ! マジで!!
「ふう……仕方ありませんね」
いや、待て!? ちょお~~と待とうか、リュシオーネ!! その手に取り出したものは何だ? いや、ポーション瓶だってのは分かる……分かるんだが! 中に入っている液体の、その何とも形容しがたい色合いは何なんだっ!?
それは、得物語り風の場面において、まず間違いなくモザイク映写がされるであろう不気味さを帯びているのだ。
「リュ……リュシ、オーネ? そ、それは一体……何なのですか……?」
「はい。これは私が開発しました【DXポーションSS(試)】と言いまして、スタミナと満腹度を瞬く間に満たしてくれる……かも、知れない秘薬なのです!」
いや、おい!? かも知れないって言ったよ、コイツっ!! ってか、え? マジ、か? いやいやいやいや、ちょっとまっ……。
「むぐぅううっ!?」
「時間がありませんのでキリキリ飲みなさいっ!!」
甘いような苦いような、それでいて強烈な辛さを伴なっている……様にも思える刺激が、脳天を突き抜けていく。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
あ? あかん……これ、駄目…や……。
…………………………。
「……レ…!? オ……ル!? オーレル!?」
「はっ!? ……川の向こうで、親父とお袋が手を振っていやがったぜ……」
あれが、三途の川か? マジで、死ぬかと思ったぜっ!!
「いえ、オーレル? 小父様も小母様の、まだ生きておられるのですよ……」
「はいはい、漫才は後にしてくださいませ」
「うおっ!?」「ひやっ!?」
“ムンズ”と後ろ襟が掴まれ……。
「参りますよっ!!」
「どわぁあああ~~~~~っ!?」「ひやぁあああ~~~~~っ!?」
オレとエレオノーラは、そのまま暗い樹洞へと引き摺り込まれるのであった。そして……。
「「のぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!?」」
一瞬で切り替わる視界。耳を劈くような風切り音と共に、全身にかかる凄まじいG。
目まぐるしく流れていく風景に、オレとエレオノーラの叫びが響き……過ぎ去っていく。
「リュっ! リュシオーネぇえっ!? とまっ、止まっ、留まっ、停まるのですよぉおおおおっ!!」
「差し迫っていますので、このまま村まで駆け抜けます! 喋っていますと、舌を噛みますよっ!?」
そう言うや否や“ドンッ”と更に加速するリュシオーネ。
「いぃ~~やぁ~~~っ!? おぉ~~ろぉ~~すぅ~~のぉ~~でぇ~~すぅ~~よぉおおお~~~~~っ!!」
諦めろ、エレオノーラ。荒ぶる鬼神は、何人たりとも止められん。
そうして、村に近づくにつれ。流れ過ぎ去っていく視界に映り始める……死体。それは、次第にその数を増やしていき……。
「っ!? ひでぇ……」
「誇り高き戦士の御霊に冥福を……」
そう。大量の魔物の死体の中に、狩守であろう者たちの亡骸が混じり始めたのだ。
確かに依頼の折りに不覚を取って亡くなる者もいるだろう。だが、一度にこれほどの数ともなると……。
っと、そこで“ピョコン”とリュシオーネの耳が、天へと衝き立った。
“……ギューーン……ゴロゴロゴロォ~~……”
「ん? 戦闘音……?」
「雷撃系統の[アーツ]か何かでしょうか?」
「いえ……今の、は……? まさかっ!? 2人とも、飛ばしますよっ!!」
「「へ?」」
そう言うや否や、再び“ドンッ”と一気に増加する……G
「「のぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!?」」
また……これかよぉおおおっ!?
そのまま音を置き去りにしながら、俺達はその場所へと……言葉通りぶっ飛んでいくのであった。




