log in - 56 オーレル_①
逆巻く紅蓮に染まる街。
飛び交う悲鳴。地へと伏す人々。
空を埋め尽くすは、黒翼黒輪の堕ちた天使、か?
そんな、訪れる終焉の前に立ち塞がる……漢の背中。
それは、民を守護せし騎士の鏡。
それは、決して屈せぬ戦士の魂。
それは、王に仕えし九近衛の将。
それは、巨躯を誇る漆黒の……ゴブリン。
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「……ぐ…む……んん……」
鼻腔をくすぐる、美味そうな匂い。その香りに釣られるように、ゆっくりと意識が浮上する。
それでも、微睡に溺れる心は、この心地良さを手放そうとはせずに……。
“グ、グゥ~~……”
し、食欲には勝てなんだ……。
「……ぐ、むうぅ……く、くあぁ~~~っ、くむぅ?」
俺は、しょぼくれた目をこすりながら、隣のベッドへと目を向ける。
当然のことながら、そこに膨らみは既に無い。漂うこの香りが、見るまでもなくそれを証明していたのだから……。
うむ! こうしてベッドを別けて寝るのも、後少し。後、少しで……。
「しっかし、まさかオレが……父親になるたぁなぁ……」
感慨深いものである。
初めてあれと会った時には、まさかこんな関係になるとは思ってもみなかった。
そう、今を遡ること8年前。エレオノーラの杜衛就任の儀に参列した時のことである。
元々は、エレオノーラの両親とオレの父方の爺様が狩守としてパーティーを組んでいたこともあって、家族ぐるみの付き合いの中にあって何かとエレオノーラの面倒を見ていたんだが……。
まさか、そのままお目付け役まで兼任することになろうとは……。オレ……しがないゴブリンの狩守に過ぎんのだが……。
でだ。その儀式の際中、無表情に“ジィー”とオレを見つめていたのが、杜衛のお一人であるミュスカ様に仕える守部であった……。
「ん? おはようございます、あなた」
この、エミラだった。
「おう! おはようだ、エミラ。今日も旨そうじゃねぇか!!」
「ん。もうすぐ出来上がります。座って待っていた下さい」
淡々とした口調ながら、僅かにほころぶその口元。
無口む表情こそ、未だにデフォルトではあるものの。時折、オレにだけ……オレだけに、見せるこういったところが堪んねぇんだよなぁ……分かるだろ?
まあ、それも今でこそだが……。
行事やその役目やらで何かとバッティングすることが多かったんだが、その度に木陰やら建物の影やら……まあ、物陰からだが“ジィー”と突き刺さる眼差し。正直に言って……怖かったぜ?
それでも、良くも悪くもコイツを意識しちまう切っ掛けになったってんだから……手の平の上だったのかどうなのか……? いや、流石に聞けねぇし! 「はい」とか言われたら、一体どう反応しろと!?
そんなことを考えながら、キッチンに立つその後姿を眺める。
“ピコ、ピコ”と忙しなく動くネコミミ。“フリ、フリ”と左右に揺れるシッポ。 無表情かつ静かな物腰とは裏腹に、そこはその感情を非常にわかりやすく表している。
つまりは……上機嫌だ!
う~む……ネコミミ、か……。
オレは、今朝の夢を思い返す。
幼い頃に幾度となく見た夢。ある時期からトンと見ることがなくなっていた……それが、最近になってかなりの頻度で見るようになってんだよ……。
傷だらけになりながらも、決して折れること無き……不撓不屈の、その背中。
その漢の生き様に、幼心に憧れて。それがきっかけで、オレは狩守を志すようになったんだ。
だが、夢には続きがある。
黒髪のネコミミ幼女を背負い、その大きな背中を後にし駆け出す幼いゴブリン。
その時感じたどうしようもない無力感と、それでも背中に感じる温もりを守らなければという使命感に、涙を流し嗚咽を零しながら走り続けるんだ。
ある意味、こっちの方が強く影響を及ぼしてたのかもしれねぇなぁ……。
“コトン”
「ん? おおっ!?」
んなことを考えてるうちに、テーブルへと並べられた料理の数々。
まあ、数々っつうのも大袈裟だが……。
①白米
②自家製納豆
③焼き魚
④青菜のおひたし
⑤ミソスープ
というラインナップだしな……。
さて、どれどれ。まずは……ミソスープから……。
んん~~ん、これだこれ! やっぱりこの味噌ってやつは素晴らしい!!
こいつは、遙か昔に白黒の巫女様がもたらしたっていわれているが、数々の頭の痛くなるようなあれやこれやが残されている中で、数少ない有益な一品だよなっ!!
ただ、先ほどのラインナップを見て分かる通り、本来なら味噌汁と呼ぶべきものであるらしいのだが……そこが白黒の巫女様クオリティ? 曰く「異世界ならミソスープこそがテンプレなのだぁあああ……だぁああ………だぁあ…………だぁ……………」と天高らかにのたまったのだとか……。
因みに、米と納豆は当時から存在していて、巫女様方は大層お喜びになったのだとか……。
もっとも、当時の米は味もあまりよくなく。主に保存食として扱われていたところを、巫女様方が徹底的に魔改造? したんだと。
その様子は、まさに鬼気迫るものであったと文献には記されているのだそうな……。
うん、まあ……美味いから、これも感謝だな!
だが、魚はいかん! 魚はっ!! こいつらときたら、骨を取るのがどうにも面倒くせぇんだ!
まあ、最悪……骨ごと丸齧りで……あ、はい。ちゃんと骨を取って食べるであります。だから……そんな心を読んだかの様な冷たい眼差しで“ジー”と見ないで下さいな、かみさんよ……。
「ふぅ~~、食った食った。ごっそさん」
「お粗末様でした」
んな、とんでもない!? ……して、かみさんや?
「……そこに用意されている、装備一式は……何ぞ?」
そう、オレが飯を食っている間に、何時の間にか音も無く準備されていた武器防具。
怪訝な顔を向けるオレに、かみさんときたら無表情で……。
「行ってらっしゃいませ」
「いや、オレ……今日、非番」
「いってらっしゃいませ」
「だから、非番」
「いってらっしゃいませ」
「ひば」
「いってらっしゃいませ」
「……はい」
負けちまったよ……orz
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ふぅ……たまにこういうところがあるんだよなぁ、うちのかみさんは……。
しかも、その度に厄介事が舞い込んできたりしてなぁ……。
うむぅ……気を引き締めねぇと。
多少の愚痴が混じりながらも、逃れることの出来そうもない……所謂、宿命というやつを受け入れる覚悟をしながら、俺は社に足を踏み入「ああ、オーレル。いいところに来て下さいました」れ……踵を返してもいいだろうか?
「オーレル? 今……よからぬことを考えませんでしたか?」
「い、いや。それより、いきなり何だってんだよ!?」
この、目の前で“ピコ、ピコ”とウサミミを揺らしている女の名はリュシオーネと言う。エレオノーラを世話する守部っつう連中の筆頭をしている奴だ。
おまけにだ。鬼神なんつう物騒な二つ名まで持っていやがる。見た目は、見目麗しい兎のセリアン(巨乳)……(巨乳)だというのに……。
「先程、狂乱したゴブリン(魔物)を数体見かけたという報が入ってきたのですが。それを耳にしたエレヲノーラ様は、単身で飛び出されていってしまわれてんですよ……」
……何をやってるんだ、あの馬鹿……。
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森の中を彷徨うように歩き回って……どれくらい経ったか……?
“…ザシュ……ギャ…ドゥ……グギ……”
「ん? ……こいつは……戦闘音!?」
遠くから、微かに聞こえてくるざわめき。こいつは……湖の方か!?
「くっ、間に合えよ!」
慌てて音の響いてくる方へと走り出すオレ。
そうして、その場所へと辿り着いた時には……時すでに遅し。全てが終わった、後だった。
もっとも、そこで俺が目にしたのは、想像していた光景……などではなく。……って、なんじゃこりゃあああっ!?
辺り一面に転がる、おびただしい数のゴブリン(魔物)の死体。
ぐっ……なまじ種族名と見た目が似ているだけに、あまり気分のいいものじゃねぇな。
因みに、オレはゴブリン(妖精)で、人種に入る。
で、こいつらはゴブリン(魔物)。読んで字の如く、れっきとした魔物だ。
種族名から特性、見た目にまで亘ってそっくりではあるが、全くの別種族である。
でだ。そんな累々とした屍の転がる先。……同胞、なのか? 1人佇むその姿。
見紛うことなく、ゴブリン……なのだが。今一、確信が持てねぇのは……何故だ?
だが、その違和感の招待に気がつくのに、そう時間はかからなかった。
そうか!? 装備か!! 見た目こそは何処にでもあるような服と剣だが……。こいつは……もしかして……?
結論から言うと、そのもしかしてだったんだが。いやよ? 『凶ツ洞』に転送されるとか、どんな因果が廻ったんだっつうの?
と、まあこんなことを考えられるのも、命あってのものだろう。正直……死ぬかと思ったわっ!!
そう、そいつは……唐突に、現れた。
そして、オレは……我が目を疑った。
――ゴブリン・アヴェンジャー――
復讐個体と呼ばれる強力な魔物。
いや、真に目を疑ったのは……その漆黒の巨体。
何故ならそれは、幾度となく夢の中で目にした漢の姿に瓜二つだったんだ。
そして始まる戦闘。
驚愕に戸惑う暇もなく、この身へと迫る巨剣。
せめてもの救いは、個体LVが低かったことだろうな。
アヴェンジャーはその出現状況によって、LVから保有スキル、戦闘方法に至るまで様々に変化をする。
今回は……つうか二度とごめんだが、1対1の戦闘に特化したタイプみたいでよ? 2人がかりでタゲ回しして、何とか互角に持っていけたんだ。まあ、それでもハンパなかったけどな!
特に、渾身の一撃たる【奏雷のアトラトル】の固有[アーツ]雷纏咆を耐えきられた時には、もう駄目かと思ったぜ。そのまま気を失っちまったしな……。
どれくれぇ意識を失ってたかは分からねぇが、天然馬鹿に起こされた時には……決着がついていやがった。
ってか、エレオノーラ!? お前は何1人で突っ走っていやがるんだ!! ……あん? 報告を受けた時、脳裏に俺が何かに吹き飛ばされて林の中に突っ込んでいくビジョンが過ったからだって?
いや、まて。そもそもお前が一人で出ていかなければ、オレはこんな危険を冒す必要はなかったんじゃね?
これ、なんつったか? 確か巫女様の遺した言葉で……卵が先か、鶏が先か、だったか?
もっとも、それがなけりゃあこの『転生者』は1人でアベンジヤーと戦うことになっていたんだよなぁ……?
つうかよ? 話が……違くね?
『転生者』て奴らは、LVアップ時のステータスの上りがオレ等より多少いい……個人差はあるようだがそれくらいで、LVじたいは全体的に若干上がりやすいっつう程度で誤差の範囲だって聞いていたんだが……?
それでも高LVになれば、その積み重ねは馬鹿にならんだろうが。現時点でアレを相手に出来るとか……ありえねぇだろ?
そんな内心の驚愕は、こいつが『凶ツ洞』に転送さてたっつう事実と……。
「【真魔結晶】……だとぉおおっ!?」
アヴェンジャーから取り出したそいつによって、木端微塵に吹き飛んじまったんだがな!
まあ、オレとしては……。
【怨剣・デモリッシュオーグ】
アヴェンジやーの使っていた剣の片割れ。コイツの方が、むっちゃ気になるんだけどよ……。
はわわとしているエレオノーラをからかいつつも、オレの目はその剣に釘付けだった。
しっかし……くくくっ、普段は凛と装っているが、勘違いするなよ? こっちがコイツの、地だぜ?
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「だぁ~~っ……疲れた……」
町へと戻り。途中で合ったかみさんと連れ立って、家へと帰ってきて一番……オレはテーブルへと突っ伏した。
「お疲れ様です」
全て存じておりますよ? と言わんばかりの“シレッ”としたかみさんの労いに、思わず“ジトー”と座った目を向けてしまうのも致し方あるまい?
「はぁ~~~、にしても……何なんだ、あれは? ……鬼の、霍乱か……?」
まさか、あのリュシオーネが……乳揉まれて、堕ちるとか……。
あの『転生者』……アギトと言うらしいが。あいつのラッキースケベにも驚かされたが、まさかそのまま超高速もみもみを始めるとは……勇者だ! 勇者が此処に居てはった!!
「……あなた?」
「うおっほんっ! しっかし、本気で死ぬかと思ったぞ……今回は……」
「ですが……あなたの為にもなったのではありませんか?」
「むうぅ……」
そう言われると……唸るほかはない。
実際にスキルも含めて軒並みLVが上がっているし。何よりも、アギトから譲り受けたこの【怨剣・デモリッシュオーグ】がな……。
ふ……ふふふふふふっ、滾る! 滾るぞっ!? 鍛冶師としての血がっ!!
「クスッ……あなた? ほどほどに、お願いしますね?」
「お、おうっ!」
そう釘を刺されるも、オレの意識は既に半分以上あっちに飛んでいたんだわ……。




