log in - 53 託すもの、託されし者
それにしても……やはり、多いな。
“デップリ”と肥え太った巨体に豚面の頭部……オークに、その足元をウロチョロするゴブリン(魔物)。奥の方にいるのは……トロールか?
全体的にのっぺりとした太めの体格。特徴的なのは、先に行くほど太さを増していく長くて巨大な腕か。その握り込む拳に至っては、まるで鉄球のようである。
そんな大小入り乱れた魔物達が、オレが〝一歩〟……また〝一歩〟と足を進める度に断末魔の悲鳴を上げていく。
〝一歩〟……背中から斬り伏せる。
また〝一歩〟……正面から突き殺す。
更に〝一歩〟……側面から薙ぎ払い。
続けて〝一歩〟……掬い上げるように斬り上げる。
まるで透過するように、地中を斬り裂くことなく走った刃。
その長大な刀身は、地面や木々、建物の残骸をものともせずに、ただ肉を斬り、骨を断ち、戦場に血の雨を降らしていく。
それでも、だ……。
殺しても殺しても、一向に減る気配が……見られんな……。一体……何処から湧いてくるのだ? いや……実際に湧いて出ているのか……。
遠見の見通す先。森の一角で、地面から“モウ、モウ”と立ち込めた瘴気が晴れると共に、その場に姿を現したオーク。それは1匹だけには留まらず、2匹、3匹と、後から後からその言葉の通り湧いて出てくるのだ。せめてもの救い? は、出現すると同時に俺の方へと向かって来ることだが……他の場所での負担が減ることを、切に願う。
とはいえ……些か殲滅力に乏しいか……? ここは一旦縮地で大きく距離を取って、大技を叩き込むか? ……いや……いける、か?
フォートレス、起動。そして……。
「ふっ!」
〝一歩〟
今までとは異なり力強く踏み込んだ足元から、紫電が駆け上り。
――ズッギューーーーンッ――
地面を焼き焦がしながら奔る雷光。
『ギャアァ~~~~~ッ!?』
断末魔の尾を引きながら直進すること、おおよそ……50m、といったところか?
「ふむ? まだまだ調整が必要か……」
散々縮地を使い続けたがため、歩法系統に馴染んだのだろうか? ようやくスキルのオンオフの切り替えが出来るようになったのだ。
これが[アーツ]であったのならば、マニュアル発動が出来ずとも普通にアーツとして使うことも出来たであろうが。〖震電〗による電磁加速とも呼べるそれは、あくまでスキルの効果によるものなのだ。故にその効果を発揮するためには、任意にオンオフの切り替えをしなくてはならないのだが、それがいままで出来ずにいたのだ。
まあ、常にオンになっていたとしたら、これ危険極まりなくもあるからにして、{慣れる《制御できる》? まで無意識下でロックでもかかっていたのだろうが……。
*
*
*
――ズッギューーーーンッ――
何度目かの轟音が鳴り響く。
その甲斐もあってか、寄るは……集まるは……。
殲滅速度こそ上がったものの、群がって来る魔物の数はむしろ増えているように思える。
SP的にもMP的にも、まだ余裕はある。【仙丹】も、まだ1回分手つかずだ。
とはいえ、だ。何時終わるともしれぬこの状況に、精神的な疲労はかさんでいく。何よりも、先程から何かに呼ばれているような感覚に、心が焦らされているのだ。
「くっ!?」
斬る。突く。薙ぐ。駆け抜ける。心の乱れを鎮めるように、只々機械的に作業をこなす俺の足元……いや、寧ろ頭上に影が差す。
見上げれば……そこに巨体。その頂に燦然と輝く、真紅の……単眼。
サイクロプスか!?
小柄なオレとは、比べ物にならない体躯。
ここで1つ補足。基本的に通常のゴブリンの身長は、妖精種魔物問わず0.8m~1.2mぐらいに収まるらしい。もっとも、個体差で極端にちんまいのやデカいのもいるだろうが……。
で、オークが2.5m~3mほど。オーガが3m~3.5mほど。トロールが4.5m~5メートルほどとなる。
ヒルトロールと呼ばれるものもいるが、こいつは実際のところ通常のトロールと同一のもので、生まれながらにある種の変性を持つ異常個体を俗称的にそう呼んでいるらしい。その身長は、個体によって際限が無いのだとか。
と、いうのも、この異常個体はもの凄い大食いらしく、喰えば喰うほどデカくなるのだとか……。かつては雲を貫くほど巨大なヒルトロールが出現したと、伝承には記されているようだ。それ……最早ヒルではない……。
因みに、大きいの代名詞でもあるジャイアントは人枠だそうだ。
身長はといえば、種族によって異なり。フォレストジャイアントが5メートル~6mほど。山岳地帯に住まうヒルジャイアントや、雪原地帯に住まうフロストジャイアント等は10m越え。そして、標高の高い山の山頂に住まうクラウドジャイアントに至っては50mを越えていくのだとか……。
――閑話休題――
「それに、しても……」
と、油断なく剣を構えた……その時であった。
「.頭が…高いっ! ですわっ!!」
それは、叫びと共に……振ってきた。
そして“ドゴン”だろうか……それとも“ズガン”か……? とにかく轟音と共に8mもの頭上にあった単眼が……地面へと、沈んだ。というか、めり込んだ……。
いや、まあ……うん、確かに頭は高かったが……。
“ピョコン”と垂直に突き立つ耳は誇らしげで。“フリ、フリ”と振られる丸い尻尾は、まるで褒めて褒めてと言っているよう。“グリン”と振り向く顔に浮かぶ満面の笑みがオレを捉え……。
「アギト様っ! 貴方のリュシオーネが参上仕りましたぁああっ!!」
……何というか……緊張感が、雲散霧消した。
これは……ツッコミ待ちか? ツッコんでいいのだな? ……ならば、ツッコもう! 何故にバニーガールぅううっ!?
黒い網タイツに同じく黒いハイレッグなスーツ……いやホント、よく零れ落ちないものだ。何が、とは言わんぞ!
後、人聞きの悪いことを口走るでないわ! 何時から俺のモノになったというのだ!! 乳か? 乳を揉んだあの時から、既に決定事項なのかっ!? 選択の余地など、初めから存在してはいないと…いうの、か……orz
そんな、何処か気の抜けたオレの口が、見知らぬ名前を呟いた。
「『雪』……か?」
「っ!?」
ネージュ? と、疑問を抱きつつも、止まらぬ言葉は綴られていく。
「ふむ? まあよい。この場は任す……殲滅せよ!」
その、何と偉そうなことか……ん?
自分の口から出た言葉に思わず、うわっ!? と呆れながらも。オレは、突き動かされる感情に促されるがまま……。
――ズッギューーーーンッ――
焦れる心の赴く場所へと、飛び出していくのであった。
……うむ! 既に遥か彼方となった後方から、「フゥオォオオオオオォォォォォ~~~~~ッ!!」という女性にあるまじき雄叫びが聞こえてくるのは……気にすまい。




