log in - 52 踏み出す〝一歩〟
「間に、合った……のか?」
“ゴゴゴゴゴ”と未だ爆音が雷鳴の如く空へと轟く中、恐る恐ると上体を起こす女性。幼い子供を抱き締めながら“キョロ、キョロ”と辺りを見渡す、そんな彼女と……目が合ったような気がした。……いや、気の所為だろう……?
「ふうぅ……」
俺はゆっくりと立ち上がると、周囲を“グルリ”と見渡す。……そこは……地獄と化していた。
俺を中心に巨大なクレーターが広がり、辺り一面に飛び散る肉片。所々隆起した地面は、ぶちまけられた血を吸って真っ赤に染まっている。うむ……酷い有様だ。
その惨状に……或いは、未だ脳裏に刻まれている過った光景の残滓が為か、“クラリ”とよろめく。……それにしても、さっきのは……一体、何だったんだ?
*
*
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――バーーーンッ――
「うひゃぁあああぁぁあっ!?」
突如響き渡った轟音に、オレの股間に顔を埋める――が素っ頓狂な悲鳴を上げて飛び上がる。
「なっ!? 何っ!? 何なのぉうっ!?」
目を白黒させている――の視線の先。
ハイライトの消えた目を此方に向けて佇む※※※。って、扉……蹴破ったのか?
その彼女は、肩を“ワナ、ワナ”と震わせると……。
「ふ……」
「ふ?」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ」
その口から、地獄の底から響いくるかの様な昏い笑い声を溢れさせたのだ。
「ひぃいいっ!?」
そこに何かを感じ取ったのか? いや、何もなど言わずもがな、咄嗟にオレの元から飛び退く――。
うむ! よい判断だ!!
「ふっ!!」
――ズドンッ――
などと思っている間に、勢いよく踏み込んだ※※※の脚元から紫電が駆け上がる。それは彼女の全身を一瞬で覆い尽くし……。
――ズッギューーーーンッ――
一陣の閃光が駆け抜け……。
「くっ!? おぐぅうううううぅぅうっ!!」
凄まじい衝撃が腹へと走り。オレは、腰を下ろす玉座諸共……後ろの壁へと吹っ飛んだ……。
「まっ!? まさかのライ○ーキックぅうっ!?」
驚きの中に、何処か興奮を滲ませた――の声が、遠ざかっていく……ガクリ。
“ピコーン”
《ユニークスキル【震電】を習得しました》
《【震電】が強制的にセットされました》
*
*
*
「グギャッ!」 「ブヒヒンッ!」
っ!? 色々と腑に落ちないものも感じるが、今は考えている場合じゃない!
爆心地から近かったのであろう手負いのモノから……全くの無傷なモノまで、1匹、2匹と姿を現す魔物。あの爆音が、魔物を引きつけることに繋がったのか? ……ならば、好都合!
オレは、剣を正眼にて構える……ん? 何か……ざわめく……?
……これ、は……インベントリ?
「っ!? 何故……今……」
俺は、【神威の天剣・習】をしまうと、インベントリの中で自己主張をするそれを……手に取った。
それは、西洋剣であるグレートソードを強引に刀の形にしたかの様な異形の刀剣。軽く曲線を描いてゆく刃は、異様にして流麗。その巨大な漆黒の刀身に浮かぶ金と赤の文様は、禍々しさの中にも神々しさを感じさせる。
動と静を併せ持つ、この世にあらざりし奇跡の御剣。それが今、その存在の威を示すかの様な威容を解き放っているのである。
【神滅の絶刀・皇牙】
【怨剣・カオスマデア】を素材として生み出された一振り。
作り上げてから、今の今まで装備することが出来なかった……俺の、最高傑作……だと、思う。
と、いうのも、詳細が一切表示されないのだ。それは、こうして手にしている今でも変わらない。
それでも。これが、オリジナルの【レギンレイブ】はおろか【エクスカリバー】などの伝説上最強クラスの武器と比べても、圧倒的に勝るものだということだけは〈神秘の匠〉が教えてくれているのだ。
「ブヒィ~~~~ッ!!」
「くっ!? それこそ今は、考えている場合じゃない!!」
“ドス、ドス”と肥え太った巨体を揺らしながら迫る、豚頭の魔物……オーク。その巨体から振り下ろされる鉄棍を、前へと踏み込みながら半身になって回避する。
そして、擦れ違いざまに……一閃。薙ぎ払われた胴から血飛沫を巻き散らかして崩れ落ちる巨体。
そこに、待ち構えていたかの様に飛びかかってくる3匹のゴブリン(魔物)。
右から振るわれる棍棒を、正面へと流すように受け流し。左から突き出される槍を、そのまま体を廻しながら躱して掴み取る。
そして、言葉の通りジャンプ一番、剣を振り上げ飛びかかってきた正面へと向けて、たたらを踏んでその正面へと躍り出てきた棍棒持ちを蹴り上げ。俺が手放した槍の勢いに、脇へとすれ違っていく槍持ちを斬り伏せる。
「「「グギャッ!?」」」
「次っ!!」
如何やら棍棒持ちは蹴りの威力で絶命したようで、その肢体に押し潰されていた3匹目に“サクッ”と止めを刺して、俺は周囲へと向けて声を荒げる。
その威圧にたじろぎながらも、引き寄せられるように群がってくる魔物。それを片っ端から斬り払い。蹴り飛ばし。受け流しを繰り返すも、徐々に体の傷は増えていく。
いや、ダメージはいい。スタミナの消耗もだ。まだ、【仙丹】にも余裕はある。
だが、これだけの数だ……精神的な疲労が馬鹿にならない。
何よりも、辺り一面に転がる魔物の骸によって、囲い込まれないようにする位置取りも……いい加減ままならなくなってきている。
「くうっ!? 囲まれる!」
オークの群れが、その巨体を重ねるようにして押し寄せてくる。
――何ヲ狼狽エルコトガアリマショウ――
っ!? ……何だ……?
不意に、頭に響いた……声? ……って、呆けている場合か!!
群れの中から、数体のオークが武器を振り上げながら突出してくる。1匹、2匹と血気に逸ったかの様に、“ブギィ、フギィ”と耳障りな奇声を上げながら迫る醜い豚面の巨体。その間も、包囲網は“ジリ、ジリ”と狭まっているのだ。
――貴方様ノ行ク手ヲ遮レルモノナド、何処ニモゴザイマセヌ――
……誰……だ?
――貴方様ハタダ、望ム場所ヘト〝一歩〟……踏ミ出セバヨロシイノデス――
……ああ……そうで、あったな……。
一瞬で何かが切り替わり……そして、元へと戻る。
その刹那。漆黒の巨漢が満足げに頷きながら、恭しく片膝をつく光景を目にした……ような気がした。
視界が……晴れる?
今まで以上に鮮明さを増す世界。
その直中で、オレはこの手に……剣を取る。
「さあ、理不尽を……蹂躪しよう」
「ブギィイイイイッ!!」
背後から雄叫びと共に剣を振り下ろすオーク。
オレは〝一歩〟前へと足を踏み出し……。
――ザンッ――
「ブギィイッ!?」
その背中を叩っ斬る。
“ピコーン”
《EXスキル【縮地:天動】を習得しました》
目の前でよろめきながら、俯せに倒れていく巨体を尻目に……更に〝一歩〟。
――ドシュッ――
突き出す剣先が、正面から駆け寄ってきていたオークの腹を突き破って背中へと抜ける。
「ブ……ギ…ィ……?」
弱々し普吐き出された鳴き声には、何が起きたのかが分からない……という感情が、滲み出ているかのようだ。
そのまま力を失い傾ぐ巨体を、〖踏衝脚〗で蹴り飛ばす。勢いよく吹っ飛んでいった巨体に巻き込まれた魔物達が、ボウリングのピンのように弾かれ押し倒されて、次々と地面へ横転していった。
「「ブ、ブフォ~~~~~ォオッ!!」」
群れの混乱を前に足の止まった突出していた残りの2体が、ようやく見失っていたのであろう俺の存在に気が付いたようだ。
背後から連なって迫る気配。オレはまた、前へと〝一歩〟踏み込む。
「ブッ!? ブギィイッ!?」
突然懐へと踏み込んできたオレに驚くように、足を止め仰け反る後方のオーク。その、前へと押し出された弛んだ腹を薙ぎ払い……続けて〝一歩〟。
「ブギッ!? ブフゥウッ!?」
前方を駆けていたオークが何事か!? と振り返り際に、その脳天から一刀両断にする。優に2mを越える刃は、易々とその巨体を2つに分かつのであった。
一部を除き“シン”と鎮まる魔物の群れ。未だ混乱の収まらない正面との温度差が、非常に印象的であった。




