log in - 50 縁 -再会-
コイツ……いや、コイツ等……か?
茂みから、1体、2体と姿を現すそれは、先程まで死闘を繰り広げていた覇刃鬼の面影を帯びた異形。もっとも、覇刃鬼をT-REXだとすれば、 コイツ等はさしずめRAPTORといったところだろうが……。
威圧も威容も、覇刃鬼には到底及ばない。その体格も、4mを優に超え“ガッシリ”とした巨漢であった覇刃鬼とは比較にもならない、2m有るか無いかのどちらかといえば細身の体つき。
明らかに異なる点は、巨大な両腕と共に背中から伸びた一対の鋭い鎌腕を持っていた覇刃鬼に対して。コイツ等は、その両腕そのものが一対の鎌腕になっているところだろう。
とはいえ……。
「ひの、ふの、みの……13体、か?」
この数は、いかんともしがたい。ただでさえステータスが低下しているのだから……。
こうなってみると、もう一つの手札である天衣無縫が霊纏解放と併用できずに残されているのは幸いなのか? だが、ここでその札を切ると、向こうで何かあった時に……詰む。
因みにだが、【千技の繰り手】を極めれば、2つのスキルを併用出来そうな気もする。そう、慣れれば通常では併用できない[アーツ]なんかも、無理矢理に併用出来そうなのだ。もっとも、現状では河清が過ぎるというものだが……。
「……くっ!」
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[種族]武羅魏・弐式 Lv-██████
〈邪神の尖兵〉〈偽りの獣〉〈影刃〉〈群竜〉〈暗殺者〉
〈狩猟者〉
[満腹度]██████%
VP - ██████%
SP - ██████
MP - ██████
STR - 1255
VIT - 825
MAG - 655
AGI - 1825
DEX - 1655
MND - 525
LUK - ██████
[種族特性]
【魂喰らい】【潜影】【群隊】
[スキル]
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】
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覇刃鬼の時とは異なり、軽い眩暈だけで割とあっさり表示された識別結果。それでも、一部が表示されていないところは同じなのだが……?
表示されている部分。全ての個体が、数値も含めて……全く同じ?
それは……普通はありえない。
称号やスキルならばともかく、ステータスの数値までが全く同じなんてことは……。
コイツ等……。
それは、覇刃鬼とはまた異なる意味での、確かな異形であった。
「と、いうか……今の状態だと、ステータス的にも普通にヤバイな……」
ステータスには表示されない補正の効果。特にTECによる補正値がどれ程のものになっているのかが、肝だな……。
消費消耗3種と共に、霊纏解放の影響を受けていないTECとLUK。そこに活路があると信じて、俺は……この手に剣を持つ。
構える刃。その切っ先を向ける……と同時に、一斉に襲いかかってきた異形……が。
――ズザンッ――
「……は?」
先陣を切って躍り出てきた3体が……一瞬で薙ぎ払われた。
「驚いた。アレを……倒した?」
いつの間にか、俺の目の前に佇む……女性。
くせっ毛……というか、燻る炎のように僅かに逆立ち波打つ真紅の長髪。そこから僅かに“ツン”と突き出る少し尖った耳。
小柄ながら確かな力強さを感じさせる引き締まった体つき。それでいて女性的な艶をしっかりと帯びた肢体。胸の方は、少しばかり残念さを醸し出してはいるが……これも個性だと弁明しておこう。
顔立ちは、こちらも“ツン”と立った鼻筋が特徴的な、凛々しさと愛らしさがいいとこどりで合わさったかの様な……例えるなら、エレオノーラから天然さと残念さを全て取り除けば、こんな感じになるだろうか……?
とにかく、美人さんである。
そんな女性が“コテン”と首を傾げながら此方を窺っているのだ。その姿を“マジ、マジ”と凝視してしまうのも無理からぬことであろう?
故に……
「ぐふぅうっ!?」
目の前に浮かび上がったウィンドウと共に不意を突いて襲ってきた、覇刃鬼の時と同等……或いはそれを上回る強烈な頭痛。MPこそあの時ほどは消費していないものの……脳が、痺れレレレ……。
それ、に……?
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クレハ
[種族]ゴブリナ・フィリア Lv-██████
[称号]
████████████████████████████████████
[満腹度]80%
VP - ██████%
SP - ██████
MP - ██████
STR - ██████
VIT - ██████
MAG - ██████
AGI - ██████
DEX - ██████
MND - ██████
LUK - ██████
[種族特性]
████████████████████████████████████
[スキル]
████████████████████████████████████
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何だ……この徹底ぶり。何気に[満腹度]の数値だけが表示されているとか……。
「無理しない」
痛み……断じて識別の結果にではない! に“クラリ”とよろめく俺へと投げかけられる言葉。
いや、無理をしたとかではなく、勝手に発動しちまっただけなんだが……。
「グルルルルゥ……」
っと、放置されていて機嫌を損ねた……て訳でもないのだろうが、威嚇するように喉を鳴らしながら“ジワリ、ジワリ”と包囲を縮めてくる異形達。いや、何処か腰が引けているように感じるところから、虚勢の唸りといったところか? まあ、一瞬で3体が斬り伏せられたからな……怯えもするだろう。
それでもなお、にじり寄ってくるのは……狙いが俺だから、か?
確かに現状での戦闘力差は圧倒的だ……が!
「来る」
女性の淡々とした言葉と共に、一斉に飛びかかってくる異形。振り上げられる鎌腕。
――ザンッ――
「ギガァ~~~っ!?」
「ふっ! 当たらなければ、どうということは…無いっ!!」
襲い来る異形……その不意を突いて、足元から迫る刃を躱しざまに一閃。宙を舞う鎌腕に、地面から響く異形の絶叫が重なる。
ステータスに【潜影】とかあったからな。ネタが割れていれば、それこそどうということは無いのだよ。何よりも、弱体化していてもなお、AGIだけは勝っているのだ。
背後から振り下ろされて来る鎌腕を躱し、足元を薙ぎ払う尻尾を飛び越え……【天駆】。
この【天駆】は[アビリティ]の空圧力場で任意に宙に足場を作っていくスキルで、その度にSPとMPを消費するため歩幅を調整することで消費を抑えることも出来たりする。まあ、一回の消費も結構バカにならんが……。因みに、今のところ[アーツ]は空欄だ。
で、宙に小戸絵う体へと迫る神突きを回避。背後を取って伸び切ったその首を刈り取る。まずは1匹……って、あれ?
見渡せば、俺の取りこぼしも含めて異形の群れは全て地に伏しているのであった。
……瞬殺かよ!?
心の動揺とは裏腹に、静けさを取り戻した森。
「終わった、か?」
と、そう一息ついた……その時だ。
“ガササササッ”
けたたましい音を立てて茂みから飛び出してきた1体の異形。
「っ!? まだいた、の…か……?」
「ギ、ギャアァ~~~ッ!?」
それを追うように……というか、追って? 飛び出してきた女性が、腰溜めの鞘より抜き放った刃一閃。その異形の首を、鮮やかに斬り落としたのだ。
“ブン”と手にした刀を振り血糊を払い、鞘へと納めながら此方へと……正確には、俺の向こう側にいる女性へと振り向く長身の女性。
長い黒髪が風に流れ、その動きに揺らぐ胸元の巨大な膨らみが“ボユユン”と踊った。
それは……いい。いや、言い悪いのいいではなく、取り敢えず置いておくという意味でのいい、だ。確かに、それがいいものであることには違いないが……ではなく!
「クレハ君。あれほど先行はしないでく、れ…と……」
…………………………。
「「え?」」
混乱と錯乱の中。一時の間を置いて、俺とその女性の声が重なった。
そして、声と同じくして重なり合う視線。まるで、ありえない存在を目にしたかの様に、驚愕で見開かれる眼。優に十数秒は見詰め合っていたであろうか?
「もしかして……薫姉?」
「明人君……なのか? まさか、本当に……明人君、が……?」
そう、その女性は、幼いころ暮らしていた家の向かいに住んでいた、よく俺の面倒を見てくれた幼馴染? のお姉さん……に、瓜二つの女性。いや、俺の名前を知っているってことは、本人に違いないのだろう。
確か、5つか6つくらいの頃に今の街に転居して以来……なのだが……。
「お、落ち着け。落ち着くのだ、私……」
その彼女が、よもや当時のままの姿で胸元へと片手を添え、何やら“ブツ、ブツ”と呟きながら此方に“チラリ、チラリ”と視線を向けているのだ。
まあ、取り合えずそれはいい。それはいいのだが……胸の谷間に押し付けられていく手に“フニュン”と歪む、たわわな実りががががが……。
「え、えとぉおっ……か、薫姉?」
ぬぅおぉおおおっ!? むっちゃ声、裏返っとるやん!!
いや、動揺しているのはあちらも同様のようだが……いや、洒落ではなく。
「は!? う、うむ……ひ、久し振りだね明人君。息災であったか……というのも、あれかな?」
「え、ええ……まあ、一応は……元気ではあります……」
「そ、そうか……」
「「……………あうぅ」」
な、何なんだ……これは?
気まずい? もどかしい? 照れくさい? と、とにかく煮え切らない複雑な何かは!?
“ピコーン”
《甘酸っぱい?》
黙らっしゃい!!
「むう? それよりも……」
と、その場の空気を一刀両断する赤毛の女性。されど、その言葉は続かず……代わりに。
「ん? ……っ!?」
“スー”と指し示された指の先。そこに“ポッカリ”と口を開ける……『転地の洞』。
そうだ! こんなところでもたついている場合ではなかったのだ!!
「薫姉……俺、は……」
言葉を詰まらせる俺の口元へ“シッ”と添えられる人差し指。そして、彼女は俺へと……。
「明人君……武運を」
そう、告げるのであった。




