log in - 48 九近衛の獣
ここから始まる……バトル回
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
どれくらい走り続けただろうか……?
途中、川をかけ渡り。目の前に群れる魔物へと突貫……薙ぎ払い。行く手を塞ぐように立ち並ぶ街並みを飛び越え……ん? ただひたすら無我夢中で走り続ける俺の視界に、ようやく目的の場所が映った……その瞬間だった。
「っ!?」
――ザンッ――
【危機回避】が働くよりも早く感じた強烈な悪寒に、咄嗟に飛び退いたその地面へ“パックリ”と刻まれる亀裂。
剣を抜き放ちかまえるオレの前に、何故今の今まで気付かなかったのかが不思議な程の巨体が、まるで宙から滲み出てくるかの様に“ヌウッ”と姿を現した。
それは例えるなら、蜥蜴とゴリラを合わせたような異形だった。
胸部から下半身をビッシリと漆黒の鱗で覆われ、背後へと伸びた尻尾には、その鱗が茨の棘のように逆立っている。
腕は太くて長く。こちらは僅かな鱗と共に黒い剛毛に包まれていた。
頭部からは捻じれた角が威嚇するように前方へと伸び。背中から生える死神の鎌のような腕? が一対の翼のように広げられている様は……まるで、竜のようでもあった。
その異形は、一歩……脚を踏み出し。
「なっ!? くっ!」
いきなり目の前に迫った剛椀を、地面を転がるように回避する。
それは……ほぼ直感だった。
“ガギィ~~~ンッ”
「っくぅうっ! ……ぐはっ!?」
起き上がり際にインベントリから抜き放った【転生者の剣】。その不壊の刃が砕かれそうなほどの凄まじい衝撃が走り、一瞬で宙を舞った俺の体が数m先の大木へと叩き付けられた。静寂に包まれていた森の中に、“ドゴ~~ンッ”と雷鳴の如き衝突音が響き渡る
つぅうっ……やばい! あの鎌腕、やば過ぎる!! まともに受けたら【神威の天剣・自在式】でもそのまま斬り裂かれるぞ!?
「ガァアアアァァァアッ!!」
「くっ!」
慌てて飛び退く俺の視界の端で、背中を預けていた大木が木端微塵に吹き飛んだ。咆哮ならぬ砲哮か!?
慄く俺に暇を与えず迫り来る鎌腕を、【転生者の剣】で受け流し、って、あぶっ!?
“ブオンッ”と唸りを上げて薙ぎ払われる尻尾を、高跳びのように超えるも。
「っ!? 舐めるなっ!!」
地面へ背を向け宙に浮く俺へと振り下ろされる剛椀に、体を捻りながら蹴りを合わせ……インパクトの瞬間。再現した瞬歩を重ね、その勢いで飛び退き一気に距離を取る。
スキル【千技の繰り手】の効果、武術技手動発動よる[アーツ]のマニュアル発動。
はっちゃけた? 【鍛冶】修行の中で感じ取れるようになった……それどころか目に視て自在に操れるようになった気力と魔力の流れ。それを持って初めて可能になったこのスキルの効果の利点は。
①[アーツ]の威力や消費SP・MPの調整。必要以上にSPやMPを注ぎ込んで威力を上げ足り出来るし、その逆で手加減も出来る。
②発動前の硬直を必要としないこととそれによる同時発動。因みに、それなりの技や術を放とうとするならば、力を込める時間はかかる。まあ要するに、オート発動の時のように身動きの取れなくなるようなことはなく、動き回りながら溜めることが出来るということだな。
③そして……何よりも……。
逃さんとばかりに追ってきた巨体。その鎌腕が、俺へと迫る。
着地の瞬間を狙ってきたのであろうその刃は……。
――瞬歩――
間を置かずに再発動した瞬歩によって、地面へと深々と突き刺さった。
そう、スキル【千技の繰り手】の最大の利点。それは、リキャストタイムを一切必要とせずに[アーツ]を使い続けることを可能とするところなのだ。
刹那、鎌腕を掻い潜り異形の懐へと飛び込んだ俺は、その脇をすれ違いざまに[アーツ]ストラッシュを叩き込む。これは突進型の[アーツ]で、ぶっちゃけるとすれ違いながらスラッシュを放つような技だ。
その流れるような一瞬で【転生者の剣】を握る逆の手に抜き放たれた【神威の天剣・自在式】が、異形の巨体に決して朝喰わない傷をつけた。
「グガァアアアァァ~~~~~ッ!?」
異形の口から絶叫が上がる。恐らくリミッターを解除した【神威の天剣・自在式】をもってしても、通常のストラッシュではダメージを与えることは出来なかったであろう……が。【千技の繰り手】の効果とその他色々とを駆使して、刃に気力と魔力を纏わせた一撃は、どうやら効果が在ったようだ。
距離を取り態勢を整える俺にゆっくりと振り返った異形は、ここに来てようやく警戒の色を浮かべた目を此方へと向けてくるのであった。
しかし……コイツは一体、何なんだ?
先程発動してしまった識別は、軽い頭痛と共にノイズが走るように歪み、浮かび上がった輪郭を霧散させるにとどまった。そして……。
“ピコーン”
《異なる理の適応による変差によって、識別による表示が阻害されました》
このインフォ、だ……。
これは……識別そのものがレジストされた訳じゃなく。正常に表示することが出来ずにエラーった、てことか?
それならば、と。俺は魔力を練り上げ、意識的に識別を発動させる……。
って!? くうぅうっ!!
強烈な頭痛と共に“ゴッソリ”と持っていかれる魔力。目の前で激しく波打つウィンドウが、ほんの僅かはっきりと表示され……弾けるように霧散した。
崩れ落ちそうになる体。それを“グッ”と堪え、【仙丹】を使ってMPと先程のダメージを回復させる。
“ピコーン”
《異なる理の適応による変差によって、一部正常に表示が出来ませんでした》
……一部、ね?
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[種族]〖魂狩り〗覇刃鬼 Lv-██████
〈██████〉〈██████〉〈██████〉〈刃の王〉〈██████〉
〈██████〉〈██████〉〈暗殺者〉〈██████〉〈闇に潜む者〉
〈乖理の再誕〉〈██████〉〈██████〉〈邪神の僕〉
[満腹度]██████%
VP - ██████%
SP - ██████
MP - ██████
STR - ██████
VIT - ██████
MAG - ██████
AGI - ██████
DEX - ██████
MND - ██████
LUK - ██████
[種族特性]
【魂喰らい】【██████】【██████】
[スキル]
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
【██████】【██████】【██████】【██████】【██████】
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これは、ほぼ全て、というのではないのだろうか?
だが、そこに表示された情報に、何処か苦いものが込み上げてきた。
……【魂喰らい】?
まさか……最近耳にする『VRO』におけるプレイヤーの意識不明の原因は、コイツ……なのか?
それは、普通に考えればありえない厨二的な疑問。にも、拘らず。全てではないにせよ、その多くにコレが関与しているのだと俺の本能が告げるのだ。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。先程までの俊敏な動きとは異なり、されどやはりその巨体からは考えられないゆったりとした……それでいて音ひとつ立てない、隙のない足取りで此方へと歩み寄ってくる異形。
そして、その背に見える……本来の目的。
そうだ! 今はこんなところで時間を取られている場合ではなないのだ!!
そうして俺は、切り札を……一つ切る。
――霊纏解放――




