log in - 47 大狂乱
「はっ、はっ、はっ、はっ……」.
走る走る。何時かのように一心不乱に……。ただ、胸に躍るは高揚とはかけ離れた、激しい……焦り。
駆ける駆ける。その焦燥感に煽られるように……。ただひたすらに、深い森の中をマップを頼りに、草木を掻き分け駆け抜ける。
村に程近い場所にある『転地の洞』は、皆瘴気の歪みとやらの影響で一時的に使用不能になってしまっていたのだ。故に……。
山を跳び……。
谷を越え……。
“ピコーン”
《スキル【疾駆】を習得しました》
《スキル【疾走】は【疾駆】に統合されました》
『蚕養の町:ボクラノ』すらも、飛び越えて……。
“ピコーン”
《スキル【天駆】を習得しました》
ようやく正常に機能している『転地の洞』を目前にして、俺は……そいつと遭遇したのであった。
*
*
*
依頼主が向かった先はすぐに知れた。【真眼】の効果を発揮さえすれば、数100m先をひた走るその背を遠視することなど雑作もないのだ。というか、あの慌て様で何かを伝えようとして向かう先など、自ずと知れるものだろう。
俺は、開け放たれたままの木戸を抜け、その場所へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ、御社『森村トト』支店へようこそっ!」
……此処は何処ぞのファミレスか?
まるでどこぞの飲食チェーン店の如きノリに軽い頭痛を覚えるも、何やら受付でもめている依頼人の様子に眉間を揉み解しながら歩み寄っていく。
「……だからっ!」
「……ですが、社の方からは何も……」
ふむ? 『ルトヴェリス』の本社の方は、普通に社。それに対して、支店? の方には御社と付くのか……。
などと、愚にもつかないことを考えていると、此方に気が付いた依頼主は目を血走らせながら指を差し……。
「おおっ!? あんたか! あれだ、あの樽をここに出してくれ!!」
と、捲し立ててきたのである。って、おっさん? 人を指差すな!
「ま、まあ……俺はいいのだが……」
いいのかなぁ? と、思いつつも、1つ、2つと樽を並べていく俺。それが、10を超え……20を超える頃には、受付の女性を含む周囲の顔が引きつり始める。
「え? ……ええぇうっ!?」
受付嬢の戸惑いをあざ笑うかの様に、床を埋め尽くしていく樽、樽、樽……。しっかし、これだけ倒していてさ? よく今回はアヴェンジャー級が湧かなかったものだ。
「た……」
「た?」
「大変ですぅうううぅ~~~~ぅうっ!?」
“バンッ”とカウンターに手を突いて勢いよく立ち上がった受付嬢は、顔を蒼白にしながら奥へと駆けていくのであった……。
“シン”と静まり返った周囲の直中に取り残された俺は、そんな女性の背中を見送りながらこう思う……。
「で?」
『で?』
「この樽……どうしろ、と?」
『そっちかよっ!?』
――あ、主様……――
「プ、キィ……」
途端に騒がしさを取り戻した周囲のツッコミ……むう、解せん。
そんな、どうにも腑に落ちない感情を持て余しながら、待つこと数分。奥から“ノッシ、ノッシ”と歩み出てきた巨漢が一声。
「なんじゃこりゃ~~~~っ!?」
室内に大音響が鳴り響いた。って、うるせっ!? あと、受付のお嬢さん? お前もか!? こっちを指差すな!!
此方へと向けられるその指の指し示す先を追った巨漢の視線が……俺を捉えた。
「てめぇかぁああっ!?」
「まあ、この樽に関しては俺だが……」
大声と共に詰め寄るおっさんに、俺はそう答える。若干声が嫌そうなのは、気のせいでは無い。っていうか、近い近い! 離れろ暑苦しいっ!!
ったく。しかし……鬼か……。そういえば、作品によってはゴブリンを小鬼、オーガを大鬼とするものもあるんだよなぁ……。
そんなことを考えながら、その赤褐色の……筋肉を見上げる。てか、何でタンクトップ一枚っ!?
そう、そのむさ苦しさに思わず辟易する感情が、声へと滲み出てしまうのも致し方あるまい。
「コイツは全部……てめぇが殺ったのか?」
「討伐したのは連れだが、採集したのは俺だな。それは【狩守の腕輪】を読み取れば、分かるだろ?」
そういって俺は、腕輪のはまる左腕を受付へと差し出す。
「おいっ!!」
「はっ、はひぃいっ!?」
だからがなりつけるなよ! 受付の嬢ちゃん、今にも泣きだしそうじゃねぇか。コイツ、絶対に【大声】……いや、寧ろ【恫喝】なんて類のスキルを持っていやがるんじゃねぇか? まあ、そんなスキルがあればだけど……普通にありそうだな、うん!
っと、いけないいけない。識別が発動しそうになったよ……。
心の中で、自重自重と唱えるそんな中。ネコミミを“ヘニャリ”と萎れさせ涙目で作業をする受付嬢の姿に、周囲の非難の視線がおっさんへと突き刺さる。
それは、まあいい。まあ、いい……の、だが……。何なのだろうか……? 狩守とは、こんな奴らばかりなのであろうか? 本社といい、この支店? といい……。
こう、ね……「ミーナちゃん、ファイト!」とか「負けるな、ミーナちゃん!」とか「ミーナたん、モエぇ~!」とか、色々と囁きが聞こえてくるのはいかがなものか……つうか最後の! そこはかとなく危ないぞ!?
え? お前が言うなって? ですよねぇ~……orz
「か、確認取れましたぁ。全て、今日の早朝に採取されたものですぅ」
「あんだってぇえっ!?」
「ひうぅん!?」
過去の黒歴史? を抉られえて、遠い目をする俺の前で……って、だから一々がなるなよっ!!
縮こまって震える受付嬢の姿に、再び何処か妖しい囁きが周囲に立ち込める。そう……「ミーナたん、ハアハア……」と……。うん! 聞こえなかったことにしよう!!
「た……大へ「大変だぁあ~~~っ!!」ん……誰じゃいっ!?」
憐れセリフを被されたおっさん。その八つ当たりでもするかの様な一喝の向かう先。入り口で荒い呼吸を声の主は、1歩、2歩と進み出て……。
“バタンッ”
そのまま力尽きたかの様に倒れ込んだのである。
よく見れば、その体の至る所に傷を負っており……ん? この男……何処かで……?
不意に過る記憶。
「っ!? おいっ! 何があったっ!?」
「くっ、ぐうぅ……あ、あんたは? アルベルトを助けてくれた……?」
そう、それは母親の腕の中で駄々を捏ねていたテティスの様子に当惑していた俺に、事のあらましを説明してくれた男であったのだ。
「……はっ!? む、村に大量の魔物がっ!!」
「っ!?」
再び過ったのは、テティスの笑顔……その瞬間。
「てめぇえっ!? 待ちやがれぇええっ!!」
どこぞの三下小悪党のようなセリフを吐くおっさんの声を背に受けながら、俺は猛然と走り出していたのであった。
――あ、主様っ!?――
「プキッ!?」
許せ、スカサハ、ヴァイオレットよ。時間が惜しい。
――狂乱――
その言葉が“ハッキリ”と思い起こされる。本当に……如何して思い至らなかったのか?
如何に群れ立って生息しているとはいえ、あれほどの数の芋虫が、犇めき合って延々と襲いかかってくる異常性に……。
「くそっ!!」
悪態をつきながらも村はずれの『転地の洞』へと辿り着いた俺は、そこで起こっている騒ぎに直面する。
群がる群衆。飛び交う怒号。
それはまるで、過激なデモのようであった。いや、実際ある意味デモなのか?
「ちっ!」
舌打ちをしながら人波を掻き分け進んだ先で、巫女装束の女性に詰め寄り喚き散らす男を押し退け「ああ!? 何しやが、ひぃいっ!?」睨みつけて黙らせると、巫女? へと向かって問いかけた。
「この騒ぎは何なんだ?」
「あ、はい! ただいま瘴気異常の影響で、一部の『転地の洞』が繋がらなくなっているのです」
「ちっ! 『湖村:フォロム』には飛べるか?」
「申し訳ございません。現状この村、及び周辺の『転地の洞』からですと、正直何処に飛ばされるかが分からない状態なのです……」
くそっ!?
心の中で、今一度悪態をつく。恐らく危険を知らせに来たあの男は、運よくこの村周辺の『転地の洞』へと飛ばされたのだろう。
この村からあの村まで、優に日本列島を横断するほどの距離がある。走り抜けたとして……くっ! 間に合うはずもない!!
こんなことなら自重をせずに『どこ○もドア』を作っておくべきだった!
「ええと……最も近くて『蚕養の町:ボクラノ』近郊の山間は、瘴気の乱れが比較的落ち着いているようなので、その周辺にある『転地の洞』からでしたら、恐らくは飛べるかと……」
「っ!? すまない、礼を言う!」
――主様ぁああ~~ぁあっ!?――
「プキィイイ~~ィイッ!?」
「スカサハ! ヴァイオレット! 俺は先を急ぐ! お前たちは、この村の防衛戦力として待機だ!!」
巫女さん? に礼もそこそこに駆けだした俺は、後を追ってきた1人と1匹にすれ違いざまそう告げると、一路『蚕養の町:ボクラノ』へと向けてひた走るのであった。




