log in - 46 忍び寄る災い
新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
「プッキィ~~~ッ!!」
「ピィッ!?」
不思議と可愛らしい悲鳴? を上げて、菫色の芋虫が爆散する。……いや、爆散させてどうするのよ、ヴァイオレット!?
「プ、プキ?」
そ、そんな可愛らしく小首を傾げても、だ、駄目なんだからね!?
……等と寸劇を入れてはみたものの……まあ……。
「ピィ~~ッ!」 「ピピィイッ!」
まだまだ周囲には大量にいるのだから、いいのだけれど、ね……。
さて、とある『クエスト』を受注して、やって来ました森の中。そしたら、出るわ出るわ。いかに目的のとはいえ、流石にこんなには要らねぇよっ! てくらい大量に!?
で、この芋虫なのだが。その体液が付与効果を高める特殊な染料の素材になるそうで、生息地域の危険成果もあって非常に高額で取引されているのだとか。名前はその色合いが示す通り、ヴァイオレットクローラーと言う……。
うん……言いたいことは分かる。いや、寧ろ今まで疑問の声が上がらなかったのが不思議なくらいに……。
まあ、その理由として、この芋虫。成虫になると、スカーレットパピヨンと言う真っ赤な蝶の魔物になるのである。
成程。ミュレット等からツッコミが入らないわけだ……。
もっとも、俺の名づけの理由とは、まったくもって一切関係が無いのだが……。
いやね? 『ヴァイオレット』と聞くと、何故だか赤いドレスに身を包んだ貴婦人風の女性が、更に真っ赤な鮮血に塗れながら微笑を浮かべて佇んでいるイメージが頭に浮かぶのだよ……。
因みに、理由は不明である。何か色々と混ざっているようには思えるのだが……。
故に、血濡れの赤+女=ヴァイオレット……となった訳なのだ。
――ふっ!――
「ピギッ!?」
一閃。突き出されたスカサハの槍が、芋虫の頭部を貫く。
「プッキィイイィ~~~~ッ!」
『ピィ~~~~~ッ!?』
一閃? 地を駆け抜けるヴァイオレットが、直線上の芋虫を纏めて弾き飛ばしていく。……数匹、爆散させながら……。
てか、俺……要らなくね?
「ピピィ~~~、ピギッ!? ……ピ、キキ」
ヴァイオレットに跳ね飛ばされた最後の1匹が、華麗なる曲線を描いて俺の前へ〝ボテリ〟と落ちる。しかしてそれは止めを刺すまでもなく、擬音にして〝ガ、ガクリ〟と呆気なく息絶えるのであった……南無。
いやぁ~、それにしても鎧袖一触。そのあまりの無双っぷりに、心の中で何かが「芋虫さん、逃げてぇ~っ!」て叫んでいたよ。
むう? そんなに弱い魔物という訳でもないそうなんだがなぁ……。
その外皮は並みの刀剣類では歯が立たず、強靭な衝撃耐性と魔術吸収能力を併せ持つ。自分の周囲に時間の流れを減速させる力場を発生させ(当然芋虫自体には影響なし)、更には糸を吐いて普通に対象を拘束したりもするのだ。しかも基本、群れ立っている、と……。
いや、うん。普通に危険度の高い魔物だよなぁ……。
そんなことを考えながらも、その手を止める事無くせっせと体液を採取する俺。うん、要らない子じゃない……俺、要らない子じゃないよ?
“ピコ~ン”
あっ、レベルが上がった……何故だ?
*
*
*
「うおおぉ~~~いいっ! 一体どれだけ採集ってきたんだよ!?」
男の前へと置かれた樽、樽、樽……。数にしてざっと120はあろうか? が、軒を連ねて鎮座する。
当初の依頼では5樽だったのだが、もったいないからと採るのと生産を並行しつつ、採取生産また採取と繰り返していたら……こんなんなりましたけれど?
因みにインベントリの中には、まだ500樽ほどあったりする。
何? インベントリの解体は使わなかったのかって? それは品質の問題と……どの道樽は必要だったからだよ!
そう、インベントリ内で体液を樽に移すことが出来なかったのだ。おまけにインベントリ内から外の樽へとピンポイントに移し込むのも難しいときた。基本的に手元か、“デンッ”と大雑把に目の前へ出す感じなんだよ!
おかげで、この『森村トト』に戻ってきた時には、朝食の時間を過ぎちまっていたよ……。
まあ、それよりも、だ? 俺としてはヴァイオレットの装備を作った時点でどこかしらからツッコミが入るものと思っていたんだが……。
そう、何故【鍛冶】を習得しただけの俺が、【裁縫】系や【木工】系の生産が出来るのか? と……。まあ、ひょっとしたら気付いていた人もいたのかもしれないが、これ、〈神秘の匠〉の[効果]にある匠の技法・理のおかげなんだよね。
実はこれってさ? 【鍛冶】のみならず、全ての生産スキルの効果を持っているらしくって。おかげで習得した【鍛冶】もここに統合されたんだとさ……。
因みに【罠】も分類上は生産スキルに入るのだが、こっちは作るだけじゃなく設置したり解除したりと効果が複合している為に統合を免れたっぽい。
この辺りのスキルの在り様は、未だによく分からないよなぁ……。
でだ、話を戻すと普通は1匹につき樽の1/5ほど採取出来ればいい方なのだそうだが、スカサハの倒したものは1匹で1樽ほど採取出来たからなぁ……。まあ、それでも討伐した半分くらいはヴァイオレットが爆散させていたけど……おや?
「もしかして……1000匹以上、討伐してるんじゃね?」
思わず口に出していた心の声を聴いた依頼主が“クラリ”とよろめく。樽を並べている途中から悪くなっていっていた顔色は、今や青を通り越して真っ白になっていた。
「た……」
「た?」
「大変だぁ~~~~~っ!!」
“バンッ”と勢いよくドアを押し開け、外へと飛び出していく依頼主。
「……………」
――えぇ~~と……――
「プ……プキィ?」
突然の出来事に呆気にとられる俺達を後にして、瞬く間に遠ざかっていく依頼主の背中。だが、よくよく思い返してみれば、かつて同じようなことがあったことに、この時すぐに気が付くべきだったのだ。
――主様……いかがなさいましょう?――
「そうだな。本当に……この樽、如何するか……」
――いえ、そうではなく……追いかけなくて、よろしいのですか?――
「……あ!?」




