log in - 26 問題書籍と、ツッコミと……。(注:図書館内では、お静かに!! たとえ裏方であっても……)
「こちらが、ね。目的の書籍になるんだ、よ」
カウンターの奥にある部屋へと通された俺の目の前に、そびえ立つ幾つもの山脈……。もとい、積み上げられた本の山々。
何気なく手に取った一冊に目を通して……。
「『ゴブリン(魔物)から学ぶ性物学』とな……」
……何か、何処かで耳にしたような感じなタイトルなんだが……?
「ええぇっと、著者は……と?
――ミオ=イチノセ――
……はい?
「……………」
ん? ……あれ? な、何、そのおめめ“クリ、パチ”な驚愕の表情……。
「「読めるんですかっ!?」」
「うおぉうっ!? ……ああ、普通に?」
突然発せられた大音量のユニゾンに、思わず仰け反りながらそう答える俺へと注がれる視線。(注:図書館内では、お静かに!! たとえ裏方であっても……)
な、何だその、救世主でも見る様な目は……!? というか、その漫画チックな“キラ、キラ”も魔術かよ!? ちょっ、拝むなコラっ!!
*
*
*
「「え~と、タイトルが『美味しい薬草の見分け方』……。内容が、薬草の特徴とその分布について…と。……内容…まともだ……」
時に、タイトルにツッコミを入れ。時に、ジャンルやざっと見た内容で、気になった所をテテルに聞いたりしながら、作業を進めること約4時間。
「ううっ…んん~~ん、つつっ……!」
取り敢えずと彼女達が運んで来た、長期滞留書籍のタイトルと著者、及び大まかな内容の確認も、ようやく終わりを迎えるに至った。
「お疲れ様です」
「ん? ああ、ありがとう」
労いの言葉と共に差し出されたお茶を受け取り、礼を言うと一口啜る。
ハーブか何かだろうか? 喉を通る爽やかな味わいと仄かな酸味が、活字に塗れて疲れ切った脳を“スッキリ”とリフレッシュさせていく。
「……しかし、まだまだあるなぁ……」
未だ連なる山脈に辟易してくる。
「いえいえ、あの辺のものは、頑張れば解読出来なくもない本なんですよ? ……まあ、面倒なので誰も手を付けないのが現状なのですけれど……」
と、頬に手を当てて困った様に首を傾げながら、“フゥ”と溜息を漏らすテテル。その、視線の先には……。
「…zzz……」
「……しかし、よく寝るな?」
「困ったものです……」
気持ちよさそうに寝息を立てる鳥っ娘を前に、今度は疲れた様に“ハァ~~”と深い深い溜息を吐き出すと、テテルは……。
“スッパァ――――ンッ”
「みぎゃ~~っ!?」
胸元から“ヌウッ”と取り出したハリセンを一閃。電光石火の閃きが宙に銀色の軌跡を描き、小気味の良い音と共にアルシェルの悲鳴が響き渡った。(注:図書館内では、お静かに!! たとえ裏方であっても……)
椅子から転げ落ち床の上でのたうちまわるアルシェルを一瞥したテテルは、此方へと振り向くと……。
「本日は、本当に助かりました。おかげで長期に渡り滞留していた問題書籍を、粗方かたずける事が出来そうです」
「そうなのか?」
「はいっ!! これなんて、確認が取れているだけでも1000年以上は放置されたままだったのですから!!」
そう言って差し出された、一冊の本。
『ゴブリン(魔物)から学ぶ性物学』
非常に見覚えのある名前の著者によって書き綴られた、どこかで聞いた事のある様なタイトルの本。そういえば、他にも何冊かこの著者の本があったな。
などと考えていた所。ようやくアルシェルが立ち直って来た。
「ううぅ……テテル、酷い!」
「ちっとも酷くはありません! いくら役には立たないからといって、作業をしている方の目の前で居眠りをする馬鹿が何処に居ますか!?」
「……ここ?」
“スッパァ――――ンッ”
「ぎゃんっ!?」
うん、今度は犬か? しかし…何だ、この漫才……。(注:図書館内では、お静かに!! たとえ裏方であっても……)
2人の気の合う(?)やり取りに若干引きつつも、下手にツッコミを入れると巻き込まれそうなので……うん、静観を決め込もう!
それにしても、何とも残念な鳥っ娘だこと……。
向日葵の様に黄色い短いくせっ毛の髪に、幼さの残る顔立ちは何処か“ポケ~”と抜けている。若干小柄な体型に、相応よりやや大きめな胸の膨らみが、痛みに震える体と共に“プル、プルン”と僅かに揺れる。
作業の合間に聞いてみた所。何でもこの2人、幼馴染の間柄だとか。
代々アルシェルの家計はこの書庫の司書を担っているらしく、それを受け継ぐべき娘の素行を心配した彼女の母親に泣き付かれて、テテルも司書として勤める事になったのだとか。しかし、娘のお目付け役として、その幼馴染を伝手を使って捻じ込むとか……母よ、それでいいのか?
そして、そこまで娘を信用できな……出来ないのだろうなぁ……。
先程までの様子を思い返して、否が応にも納得してしまう。
「はぁ~、まったく……。あっ!? すみません! 改めまして本日は、本当にありがとうございました。もし生産の事で私に教えられる事があるようでしたら力になりますので、此方のアトリエの方に是非いらして下さい」
そう言って“スッ”と差し出されたメモを受け取る。むぅ? 初対面だというのに、いいのだろうか?
そんな考えが顔に出ていたのだろうか? テテルは“クスリ”と微笑むと……。
「私も、こんなに早く『転生者』の方とお会い出来るだなんて、思ってもみなかったんですよ? 何でも、アギトさん達の世界には、此方に無いものが溢れているそうではないですか? 創作意欲が刺激されますよ、はいっ…本当に!」
「あぁ~…やっぱり生産に携わっていると分かるものなのか?」
最後の方は興奮したように意気込むテテルに少し狼狽えながら、自らの服を摘まみつつそう聞いてみた。
「はい! ある程度の腕を持つ職人でしたら、それが普通の服では無い事ぐらいは分かると思います」
う~ん……これは、割と早急に装備の変更を視野に入れないといけないか……? けどなぁ…無属性のダメージ軽減効果も捨てがたいしなぁ……。
何より、この【転生者の服】は、ジャケット・ズボン・下着の3点セットであり。防御力こそ心許ないが、破れず汚れないという便利装備なのだ。
しかし、剣で切られても破れないのに、斬撃に因るダメージはきっちり入るんだよなぁ? 耐性も斬・突・打としっかりあるし……。正に、神より与えられし、神授の装備……てか?
はぁ……。軽鎧とかなら上から着こんでも装備効果が無効化されたり、ペナルティが発生したりはしないんだが……。それだと服が完全に隠れる訳じゃないから意味ないしなぁ……。
問題となるのは【転生者の服】がセット扱いなうえ、あくまでも胴装備として定められている為か、下手に上に鎧を着込むと特殊なペナルティが発生するようなのだ。そう、パージというペナルティが……。
何でも、上からフルプレートとかを着込むと、中に着ていた【転生者の服】が強制的に外へ“ハラリ、ヒラリ”と脱放されるらしい。男ならまだしも、女だと……悲惨だ。これはβテスト時に確認された……悲劇だそうだ。
因みに防具の初期装備枠は、頭・胴・腕・脚・装飾x2である。特定の条件を満たす事で、これらの細分化や装飾効果枠の増加が可能となるらしい。
ゆくゆくは、装備のニコイチも可能になるのだろうか? そうなれば、悲劇も回避されるのだろうか……?
無属性の防具は、あらゆる属性ダメージを7割から8割もカットするというぶっ壊れた性能を持つ。あらゆる属性の効果を無効化するというのにダメージが通るのは、それが属性として物質に組み込まれたが故の限界なのだろう。
尚、本来の属性とは土・水・火・風の4大属性と雷や氷などの派生したもの、そして物理属性の事を指し、光や闇は2大要素と呼ぶのが正しいらしい。それに、斬・突・打も正確には特性だし……。
まあ、要するにこの手の特殊な属性は、属性として扱われるに当たり、何らかの制限やおかしな効果を持つなどの変質をしているのかもしれない。
むうぅ……悩む。
因みに武器に関しては、インベントリ制限解除のおかげで戦闘中においても出し入れ自在なので、この限りでは無い。アイテムボックスも得た事だし、主力の武器をそっちに移して整理してもいいしね?
「如何したんですか?」
「いや、出来うることなら、あまり目立ちたくはないのだが……」
と、自分の服を摘まみながら答える。
「そんなに気にする事も無いと思いますけど? 『転生者』の事は神託で告げられていますし……」
そう言うと、テテルは少し考えながら「まあ、いきなりこの辺りにというのは、珍しいとは思いますけど……」と付け加えた。
本来なら『戦軍のアンバッス』のとある町を中心にして現れるらしい。ただ、神託でも稀に別の場所に現れる転生者もいるであろうとの事が付け加えられていた様だ。
「ただ、『アンバッス』も色々と問題のある国なので……少し心配ですよ」
まあ、確かに……。それはエレオノーラ達との会話や、ここにある本に記されていた記実からも窺い知る事が出来る。
何かにつけて他国に難癖つけたり。裏からちょっかいをかけていたり。終いには侵攻したりと忙しない。
それどころか自国の民にすら、割とえげつない事を平気で行っていた記実も目にしている。まったくもって、呆れるより他は無い……。
幾度か国の名前が変わっているのにも関わらず、やっている事が変わっていないとか……? そう言う土地柄なのか? それとも……。
「さて、アギトさん。此方が依頼完了の証明書です。ひじょ~に助かりましたので、最高評価を付けさせていただきましたよ!」
そう、テテルは茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。そして、途端に正反対の冷たい表情を浮かべると、ゆっくりとその顔をとある方向へと向けた。
「なにぶんこれは、全く役には立ちませんでした、シッ!!」
“スッパンッパァ――――ンッ”
「へびゅっ!?」
何時の間にやら“うつら、うつら”と舟をこいでいたアルシェルの、後頭部めがけて閃く銀影二閃。
小気味の良い破裂音が静まり返った書庫内に、潰れた様な悲鳴を掻き消すほど高らかに響き渡るのだった。(注:図書館内では、お静かに!! たとえ裏方であっても……響くんだよ、本当に!!)
*
*
*
*
次話
しばらく間が空きます。




