log in - 25 謎の声、閃く銀影……。(注:図書館内では、お静かに!!)
そして、やって来ました……書庫?
立ち並ぶ大量の棚。遥か彼方まで続く本の海。巨大な空間の至る所に、ありえない形で存在する本棚の数々。……何、このダンジョン? う~ん…ファンタジー……?
取り敢えず、その一言で結論付ける事にする。うん、深く考えるのはよそう。ほら……考えるな、感じるんだ……と、偉大な英雄(?)も言っている事だし……。
などと、頭の中で諦めとも達観とも取れる言い訳をしながら周囲を見渡すと、所々に存在する妙にメカニカルな機材が目を引いた。如何やら、検索用の端末か何かみたいなのだが……?
まあ、取り合えずは、と……? それらしいカウンターを見つけ近付いてはみたんだが……。
「…zzz……」
……え~と?
台の上へとうつ伏せ、“スヤ、スヤ”と気持ちのよさそうな寝息を立てている羽の生えた女性?
う~む……如何したものか?
“ピコーン”
☞ つつく
はたく
こえをかける
もむ?
そうそう、普通のゲームならこんな風に選択肢が……て、出んのかよ!? というか、最後のもむって何さ!? しかも、そこだけ訴えかける様に疑問符とか!?
“ピコーン”
《ジョーダンだよ? ……テヘッ♪》
「……なんじゃそりゃあぁああああぁぁぁ~~っ!!」
静かな館内に、高らかに響く絶叫。(注:図書館内では、お静かに!!)
「うみゅ~うん……もう、たべられないよぅ?」
「……こっちはこっちで、何てベタな……」
何ともコメントに困る少女の寝言に“ガクリ”と項垂れる。そこに……。
“ピコーン”
☞ やっぱり、もむ?
やっぱり、もむ?
やっぱり、もむ?
やっぱり、もむ?
……選択肢、無いんかいっ!?
「てか、これ…インフォじゃねぇだろうっ!!」
響き渡るツッコミに……。(注:図書館内では、お静かに!!)
“ピコーン”
《………………》
――あれ? バレちゃった?――
「バレんでかっ!?」
「あん……ううぅん……ふみゃあぁ~っ……ふぇ?」
この騒ぎ? で目が覚めたのか、目を“グシ、グシ”としながら猫の様な欠伸をする少女。(注:図書館内では、お静かに!!)
結果オーライ、なのか? ……何か“ドッ”と疲れたよ……。
――ゴメン、ね? でも、ね…伝えたかったんだよ。……おかえり、アギト――
心に響く、優しい声色。その言葉は、胸に“ストン”と収まって……。
「ああ、ただいま……」
自然と、そんな言葉が口を突いた。
……あっ!? ヤバっ!!
目覚めた少女を無視した挙句、ただいまとか意味分かんねぇよっ!!
俺は慌てて少女の様子を窺って……
「…zzz……」
「……………」
首を“コテリ”と傾けて、その少女は夢の世界へと誘われていた……。
あぁ~、うん。まあ、分からなくもないか。
薄暗い館内(?)は“シン”と静まり返っており、木の温もりに包まれた空間は非常に心地良いのだから……。
とはいえ、このままと言う訳にもいかないし……もむか? ……orz
何か、段々と毒されていってるでござるよ……。
と、取り合えず、選択肢1で?
気を取り直して、俺は少女の肩を指先で“トン、トン”とつついてみた。
「ふみゅう…ふみっ、ふにゃあぁ……zzz……」
……駄目か?
では、選択肢2で?
俺は心を鬼にして、少女の柔らかそうな髪の上から“パコン”と頭を叩いてみる。
「みぎゅっ!? …ふみぃ? ……zzz……」
選択肢3……。
「寝るんかいっ!!」
と、大音量のツッコミも……「zzz」……効果は無いようだ。(注:図書館内では、お静かに!!)
……やはり、選択肢は1つしか残されてはいなかったのか? 示された運命に、俺は戦慄を覚えた。
選択肢……4。……てのは、まあ、冗談だけれど……ホント、どうするべ?
と、途方に暮れていると、服が後ろから“クイ、クイ”と引かれた。
「お困りですか?」
そこには小柄な……とはいっても、毎度の事ながら俺より大きい……少女が、小首を傾げていた。
幼い顔立ちに“クリッ”とした大きな瞳。妙に質量感のある“モフッ”とした髪を、おさげ(?)の様に結っているのが印象的だ。
因みに、胸は……無い!!
「……あ、ああ……君は?」
突然の事で、思わず発動しそうになるスカウターを、俺は何とか押し留めつつ声を絞り出した。
てか、何時の間に近づいたんだ? まったく察知できなかったぞ! その事実に、俺は若干の戦慄を覚える。
スキルを過信するのは駄目だな? これを教訓にせねば……。
「えぇ~と……ああ、成程! ……仕方がないですねぇ?」
振り向いた俺の横から“ヒョイ”と奥を覗き込んだ少女は何やら納得をすると、おもむろに胸元から“ヌウゥッ”と銀色の物体を取出し……。
“スッパァ――――ンッ”
「みぎゃあっ!?」
小気味の良い音と共に、猫の様な悲鳴が館内へと響き渡った。(注:図書館内では、お静かに!!)
手慣れているなぁ~……じゃなくてっ! ハリセンかよっ!! というか、何故に胸元から!? アイテムボックスだろうけど……コンプレックスか?
まさかのツッコミアイテム登場に、負けじと心の中で渦巻くツッコミを声に出さずに押し込めていると……。
「……何か?」
「い、いや…何でもない、です」
す、鋭い! 微笑ながらそう聞いてくる少女の目は……真剣だ! 目が本気だ!!
「そ、それは?」
俺は話を逸らす様に、少女が手にする銀色のハリセンを指差した。
「これですか? これは、アルシェル用目覚まし君13号です! 素材はティル・シルバーで、付与に【手加減】と【痛感倍増x10】その他ちょこちょことと弄ってあります」
……【手加減】はいいとして、【痛感倍増x10】て……。
俺は、頭を押さえて悶絶している翼の少女へと目を向ける。
「ああ、アルシェルでしたら心配いりませんよ? 何時もの事ですから」
そうか、この娘はアルシェルと言うのか……そして、アルシェル用の13号……。成程……いつもの事か? ……ん?
「そのハリセンは君が作ったのか?」
「はい。私、趣味で色々と生産スキルを身につけているので……」
趣味、なのか? ……まあいい。気になったのはティル・シルバーという単語だ。真銀とか、そんな感じの物の事だったと思うが……。
で、聞いてみた所。何でもミスリルを特殊な方法で精錬する事で、極僅かに抽出する事が出来る金属らしい。
それは穢れなき銀。その穢れを寄せ付けない輝きから、穢れを払う銀という意味を込めて聖銀とも呼ばれているそうだ。
……全ティル・シルバー製のハリセン? そんな物に、そんな希少な金属使うなよ!
「え、え~と…それで、君は何処から手掛けているんだ?」
「えっ? 素材の採掘、及び採集からですけど?」
……趣味? ……趣味って、一体何なんだろう……?
「あぁ、ううぅ~……テテル、酷い!」
ようやく復帰した翼の少女改めアルシェルは、そう非難の声を上げる。成程、こちらの小柄な少女はテテルというのか。
しかしまあ、気持ちは分かる。曲がり形にも金属製の上、痛みが10倍だもんなぁ……。
「アルシェルがいけないのですよ? 何時も何時も、貴女は寝ている時間の方が多いでしょう?」
「だって、ここ……気持ちいい、よ?」
それもまあ、気持ちは分かる。確かに“ジィッ”と座っていたら転寝してしまいそうではある。
アルシェルの言葉を聞いて“ハァ~”と溜息をついたテテルの背中に、何とも言えない哀愁の様なものが漂っていた。……ま、まあ、何時もの事なのだろう。
「それよりも……お客さん?」
「ん? いや、依頼を受けて来たんだが……」
その瞬間、2人の瞳に光が閃いた。こう、擬音にすると“キュピーンッ”て感じな……。 てか、こえぇ~! 錯覚じゃなくて、本当に光ったんですけど!?
本気で引いている俺に、テテルが苦笑しながら教えてくれたのだが。これはアイシャインという古代魔術で、遙か古の時代に白黒の神がこの世界に召還した異世界の巫女の手によって生み出されたものらしい。
んなしょうもないネタ魔術を……。何故か頭の奥底に妙な疼きと“ズキ、ズキ”とした痛みを感じ顔を歪める。
「……で? 依頼書には書籍を元の棚へと戻す手伝いとの事だが……」
こめかみを揉みほぐしながらそう言うと、俺は周りを見渡した。……“シン”と静まり返った館(?)内には、俺たち以外の息づかいは感じられなかった。
確かに巨大迷宮の様な館内だが、本を棚に戻すのにそれほど日手でがいる様にも思えなかった。何よりも、目の前の鳥娘……寝ていたし……。
「えっとぉ~……アギトさんです、ね? じゃあ、内容…説明する、の。 と、言っても、ね…言葉にすると、簡単なんだ、よ? 書いてある通り、本を元の棚へと戻す作業と、ね? その時見かけたハグレ書籍の捕獲をお願いする、の」
「……は?」
何か今、変な言葉を聞いたような……? ハグレ…書籍?
俺の時間が……一瞬、止まった。
「あっ!? 丁度いいんだ、よ?」
と、アルシェルは、俺の後ろを指差した。その指の指し示す先で目にしたものは……。
「……はっ?」
“フヨリ、フヨヨ”
「……………」
何とも頼りなさげに宙を漂う……一冊の本。
「あれが、ハグレ書籍だ、よ……」
こちらの視線に気が付いたのか、一度“ビクゥ”と身? を震わせ後ずさる様に“ジリ、ジリ”と距離を取ろうとしたその本は……。
「えいやっ!!」
音も無くその背後へと忍び寄ったテテルの手にしたハリセンによって気合一閃、床へと叩き落とされた。(注:図書館内では、お静かに!!)
その、容赦の無い銀閃に晒され、床の上で“ヒク、ヒク”と痙攣(?)する本を無造作に掴み取ると、テテルはゆっくりと此方に戻って来る。というか、何時の間に移動した!?
「はい、どうぞ……」
その隠密性に改めて戦慄を覚えている俺へと手渡される未だヒクつく本……うわっ、キモ!!
思わず受け取ってしまい、途方に暮れて救いを求める様に、アルシェルへと目を向ける。
「え~…そうやって捕獲された書籍が、ね。奥に大量にあるんだ、よ。それを元の棚に戻してもらうのが、ね。依頼の内容なんだ、よ」
聞けば、この書庫の本には帰巣付与という魔術が掛けられていて、普通なら放って置いても勝手に元の棚へと戻って行くそうだ。
ただ、元が家畜用の魔術を改良したものらしく、その不具合か時偶棚に戻れず迷ったり、勝手に彷徨い出て野良化するものが出るらしい。
ていうか、野良って……。
大抵は、所々にある端末…例のメカニカルな機材で検索すれば、元あった場所はすぐに分かるんだとか。なので今残っている本は、今では使われていない古い言語や失われた言語、特殊な言語や魔術言語などで書かれていて、解読が困難なものらしい。
要するにタイトルはおろかジャンルすら分からないもので、全ての棚を総当たりするしかないんだとか。
「収まるべき棚に近づけば、反応がある、の。そうなれば後は勝手に戻って行くんだ、よ。だけど、ね……」
周囲を見渡すアルシェル。
それにつられて……上から下まで見渡す限りの、数え切れない棚、棚、棚……。それが迷宮の様に複雑に入り組んで、奥へ奥へと続いているのであった。




