log in - 24 社の役所(?)
“テクテクテク”“ズンズンズン”
“テクテクテク”“ズンズンズン”
「……何時までついてくるのかな?」
隣を歩いていたミラベルは“クルリッ”と後ろを振り返ると、こっそり? 後をつけてきたおっさんに向かって絶対零度の声色でそう問いかけた。てか、物陰に隠れるくらいなら、その自己主張の激しい足音を何とかしろよっ!
狼狽えながら「これは違うんじゃぁぁっ!」とか「ミラベルそれはいかんのじゃぁぁっ!」とかのたまうおっさんを、何事も無いかの様にスルーすると、彼女は再び“クルリッ”と向き直り「行きましょう!」と歩み出した。
……さて。後方で「おぉぉぉぉ……」と絶望に打ちひしがれているおっさんは無視するとして、だ。何故ミラベルが隣を歩いているかと言うと……なんてことはない、ただ彼女も社に用があると言うだけなのだ。
その道すがら他愛のない話を加えながらも、気になっていた種族の事を聞いてみたところ、どうも古い亜神の血統という事らしい。
しかし、亜神ね……。
脳裏に響く軽い鈍痛と共に、知らない言葉が浮かんでは消えてゆく……。
……『星白のウルス・カナン』……。
……ファルファネル……。
これらは……一体、何を意味しているのか?
などと頭の片隅で考えながら会話を楽しんでいると、目の前に巨大な……鳥居? が目に入った。
「これは…また……」
一切の穢れを寄せ付けない清浄なる白。その大きさも相まって、とにかく圧倒される。
けれど……何故だろうか?
「アギト様? 如何したんですか?」
初めて見る筈のその景観に、奇妙な既視感を覚えて首を傾げていると、ミラベルが何処か心配そうに尋ねてきた。
「いや……何か凄いな、と……」
「アギト様は、此方は初めてですか?」
少々ごまかしの入った返答に、疑いもせずに言葉を返して来る彼女を前にして……俺の心は、穢れて行くようだよ……。
因みに、彼女には俺が『転生者』である事は伝えていない。どうやらNPCには頭上のカーソルは見えないようだ。
最初にオーレルにばれた事で、てっきり見えているものかと思っていたがそうではないらしい。じゃあ、何故オーレルは気付いたかって? それは、ズバリ装備にあった。
『転生者』の初期装備は、所謂神授製という奴である。そして、オーレルは【鍛冶】を嗜んでいる。故に、その装備の由来というものを察したらしい。
……それより何故、様付けなのかが気になるって?
それは……俺の方が聞きたい!
ミラベル曰く、何となく様を付けないといけないような気がする、だそうだ……。
で、話は戻ってこの鳥居、境界の入り口というか目印らしい。……まあ要するに、この鳥居の内側は結界の様なもので守られているということだ。そして、その効果の凄い事、凄い事……。
まず、この境界内ではあらゆる[スキル][アーツ]が使用出来ないらしい。そして、どれだけダメージを受けてもVPが0にはならない……ゾンビアタック乙? まあ、死に戻りじゃあ無いけど……。
また、位相空間の様なものなのか、どれだけ暴れても中の施設には傷一つ出来ないという……。で、森霊の意思によっては[スキル][アーツ]の使用が解禁される、と……。
しかも、だ。境界の中に入る分には鳥居をくぐる必要はないが、外に出る為には鳥居をくぐらないと無限ループするらしい。おまけに、その鳥居の出口も森霊の意思によって閉じる事が可能、と……。
これって、害意を持って侵入した相手を……タコ殴り? どれだけステータスが高かろうと、暴れ回ればSPは枯渇するし満腹度も減る。相手を殺す事が出来ず(まあ、痛みは感じるらしいが)施設の破壊も不可能……終いには脱出不能で身動き取れなくなった所を……。
な、何て恐ろしい……。
そうこうしている内にその歩みは、雑多に賑わう施設? の中へと向けられていった。
一歩、足を踏み入れた俺の視界に映ったのは……銀行? どこぞの役所的な装いの、ある意味近代的な? 光景が、その内部に広がっていた。
……しかし…違和感がハンパない………。
清潔感漂う白い施設内。そこに犇めく…ガチムチの厳つい男達……てか、むさ苦しいわ!!
そんな男衆の中にチラホラと見える女性達の、心底ウザったそうな顔が全てを物語っているだろう……。まあ、いくら慣れていたとしても、暑苦しいのには変わらないだろうし…ねぇ?
施設の入り口で「それではまた後ほど」とミラベルと別れた俺は、そんなむさ苦しい男が犇めく施設内を、物珍しそうに眺めて……いるように見えたからだろうか? 喧騒が突然鎮まり、人垣がまるでモーセの海割りの如く左右に分かれてゆく。そして、その奥からガラの悪そうな禿頭の男が、まるで己の筋肉をひけらかすかの様に、無駄に胸を張りながら真っ直ぐ此方へと近づいて来のだった。
キタコレ……テンプレか? などと考えている内に、俺の目の前へと辿り着いた男は、その厳つい顔を“グイィィッ”と近付けながら……てか、近い! 近いって!!
「何処の田舎者だぁ、あぁ!」
……?
「へっ、素人かよっ! ちったぁヤレるみてぇだがよぅ…その程度で此処に来るたぁ、頭悪いんじゃねえかぁ? 」
というか? ………何なんだろう……この副音声? 思わず、自重しようとしていた識別が発動し……。
「……………………」
「そんなんじゃあ討伐なんて無駄だ無駄ぁ、みみっちく町ん中で働いて世界の厳しさって奴を知るこった!!」
そう言うと男は、肩で風を切る様にカウンターの方へと歩いてゆく……。
「…………はぁ!?」
数拍遅れて、俺の思考が帰って来た。な、何というか……一言で言い表すならば、複雑な男…だ。
この地で数少ないヒューマンだというのもあるし、ステータスもリュシオーネほどバケモ……ゲフンゲフン……凄まじくはないものの、全ステ1000オーバーと来ている。恐らくはこの大陸でも、有数の実力者なのではないだろうか?
などと思考の海に浸っていると、再び男が俺の元へと歩いて来た。やたらと尊大なその仕草が、彼の複雑さをより一層物語っている様にも思えた。
「テメェにはコレなんかがお似えぇよっ!」
そう言うと男は、一枚の紙を俺へと押し付けてくる。何々……書庫整理?
その紙に書かれている事を要約すると、図書館と呼べる施設の書籍を元の棚へと戻すのを手伝ってほしい。という……まぁ、そのまんまの依頼であった。
「世の中物騒だからなぁ。せいぜい死なない様に気を付けるこったなぁ」
言いたい事を言い終えたのか? 男は威風堂々と筋肉を揺らしながら、俺の前から去って行った。頭に響いた、妙に紳士的な副音を残して……。
まあ、悪い奴じゃない様だ。少々……いや、かなり生まれがアレの様だが……。などと、あの男の事を考えながら、押し付けられた紙を手に、カウンターへと足を進めた。
「すまない。リュシオーネからここに来るように言われたアギトという者だが、これは如何すればいいんだ?」
「え、えぇと……アギト様、ですね? ……つっ!? は、はい、承っております。そちらの依頼書も此方で処理をいたしますので、しばらくお待ちください」
そう言うと、受付の女性は少し慌てた感じで依頼書をスキャナーの様な機材に挟むと、素早く手元のキーボード? へと指を躍らせた。……何というか、ハイテクだ。まあ、正確には電子機器じゃあ無く魔法機器? だろうけど……。
「お待たせいたしました。此方が【狩守の腕輪】になります。既に依頼の登録はすんでいますので、後はアギト様が装備なさる事で所有者登録が完了し、依頼が受理される事となります。
《【狩守の腕輪】を入手しました。》
例によって“ピコーン”という電子音と共に流れるインフォ。俺は早速その腕輪を装備してみた。
《称号〈狩守〉を得ました》
《『依頼:書庫整理』を受けました》
おおっと、何やら称号まで得てしまった。
「……はい、依頼の受理を確認しました。何か補足する所は御座いますでしょうか?」
「いや、取り合えずは大丈夫そうだ」
ん? 何故説明ではないのかって? その理由は【狩守の腕輪】の腕輪にある。
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【狩守の腕輪】
[系統]装飾品
[耐久]-
[属性]靈
[耐斬]10%UP
[耐突]10%UP
[耐打]10%UP
[耐魔]10%UP
[アビリティ]
狩守の心得
森霊の導き
[アーツ]
依頼確認
アイテムボックス・30種x50個
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注目すべきはアイテムボックス……ではなく! [アビリティ]狩守の心得にある。まあ、名前が示す通り狩守に必要な情報が、自然と頭の中に入っている感じかな? なので一々説明を受ける必要が無いんだなこれが……。
しかし、全防御10%UPとか地味に高性能な腕輪だな! まあ、それもアイテムボックスの前には霞む。何故ならこのアイテムボックスこそ[使用アイテム]枠の拡大に他ならないのである。
初期では戦闘中に使える[使用アイテム]の設定枠は5つである。そう、種類問わず5つだ! それが、最大で30種x50個…である。如何に破格かがお分かり頂けたであろう。
もっとも、インベントリ制限解除がある俺にはあまり意味が無いのだけれど……? ま、まあ、よく使うアイテムを此方に分けて置けば、戦闘しながら一々インベントリを漁らずに済む分効率がいいのかな?
そして、森霊の導きは……良く分からん。説明には「森霊様ががみてる」とだけ記されている。
ああ、因みに新たに得た称号はこちら……。
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〈狩守〉
[効果]
クリティカル率上昇・中
STRプラス補正・中
VITプラス補正・中
MAGプラス補正・中
AGIプラス補正・中
DEXプラス補正・中
MNDプラス補正・中
TECプラス補正・中
転地の洞・使用許可(仮)
[スキル]
[アビリティ]
[アーツ]
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他に得ている称号の効果がアレ過ぎて霞んでしまうものの、これもまた地味に高性能な称号だとは思う……まあ、他がアレ過ぎるから、ねぇ?
……ん? 何だろうか? ふと目を向けると、受付の女性が何かを言いたそうに“モジ、モジ”としていた。その度に“ピッチリ”としたスーツ(?)の上からでも分かる……というか、布地をはち切らんと主張するかの様に“タユン、タユン”と弾む膨らみに、周囲の野獣共の目が釘付けになる。
まあ、気持ちは分かる。只、数少ない女性陣から放たれる、絶対零度の視線には気付いているのだろうか?
男達の燃える様な熱い視線と、女達の凍える様な冷たい視線が交錯する中。当の女性といえば、そんな微妙な空気を気にする事無く、微妙に体をくねらせながら此方の様子を“チラ、チラ”と窺っていた。……天然だろうか? 妙にエロスを感じさせる女性である。
年の頃は見た目20代中程だろうか? 青みがかった黄色い髪をアップに纏め。少しきつめの眼差しは、左目の下にある鳴き黒子によって緩和されており。それが、何とも言えない女の色香を醸し出している。
身体つきは細く、座っているのでアレだが恐らく結構な長身だろう。そして、何よりも目を引くのが……胸である!!
それは……一体、どんな神秘に因るものなのだろうか!?
その華奢な細身には、余りに不釣り合いな大き過ぎる膨らみ! あの、リュシオーネすら超える……爆乳!! にも、拘らず! まるで、重力など存在せんと言わんばかりにしっかりと張り出した弾力は、何故か不思議と不格好に見える事はなく。その表情と相まってか、女性的な艶めかしさを如何なく発揮していた。
あえて擬音にするならば……“ばいぃ~~んっ”だ、ろうか?
「あ、あの…少し、宜しいでしょうか?」
手を膝の上で組んで、前屈みに少しカウンターから身を乗り出す形で、女性は“オズ、オズ”と伺いを立ててきた。
左右の腕によって挟みこまれ、押し出される形となった膨らみが、台の上へと乗り上げる。まるで、どうぞ召し上がってくださいといわんばかりに、台の上へと差し出された極上の柔肉は、彼女の息づかいに合わせて“タユン、タユン“|”と波打って周囲の欠食男児を誘う。
そのあまりに刺激的な光景に、周囲が阿鼻叫喚の様相を呈する中。しかして彼女は、微塵も動じてはいない様だった。てか、やはり天然なのか? ま、まあ、取り敢えずこの状況は彼女を見習って、スルーする事にしよう!!
「あ、ああ、構わないが……何か?」
「あの……先程の彼の事なのですが……。恐らくは理解しているとは思うのですが、他言の方は……その………」
リュシオーネである程度の耐性を得たが為か、何とか取り繕う事に成功した俺へと告げられたその言葉に……。
成程、あの男の事情は把握しているという事か? しかし、あの副音声。その原因であるスキルの名前が、また……ねぇ?
【真心を君に】………ねぇ?
相手を慮った心の内を言葉に乗せて直接その対象の意識に伝える。……何ともお節介なスキルだろうか?
恐らく慈愛女神の加護とか友愛の女神の加護とか、その辺りの加護をやたらと持っているので、それらも絡んで得たスキルだとは思うが? まぁ、それこそ複雑な彼の事情を慮った、女神たちのお節介なのかもしれないのかなぁ……?
それにしても、マルス=ロゼ=アンバッス……ねぇ?
「ああ、それは構わないが……。何というか……色々と複雑な男の様だな?」
「ほえっ? …あっ!? はい、そうなんですよ……」
一瞬、素っ頓狂な声を発した彼女は恥ずかしそうに恐縮しながら、俺の言葉を肯定する。しかし、何ともギャップの激しい女性とよく出会う事だな? この女性も黙って座っていれば、こう女教授(?)然としているのに、実際は何処か小動物っぽさを漂わせているし。
……んっ? ……そう言えば、名前を聞いていなかったが…今さらか?
「え、ええぇと……はっ!? 申し訳ありません! まだ名乗っていませんでしたね? 受付を担当しています、マーメイドのシィラといいます。以後、よろしくお願いいたしますね、アギト様!」
こちらの考えが読まれた訳では無いのだろうが、自ら名乗りを上げる彼女。それにしても、その微笑の……艶美な事。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。……それでは、行って来る」
「あっ、はいっ! いってらっしゃいませ!」
何処か小動物っぽい雰囲気の、妖艶なお姉さん……? うん、言葉にするとよく分からんな!
そんな彼女に別れを告げて、俺は役所? を後にした。




