log in - 22 恥じらいと、懐かしさと……。
“シュルリッ、シュルッ”と衣擦れの音が静けさを取り戻した室内に響いている。時折「ふっうぅぅんっ」と艶めかしい吐息が漏れてくるのは…聞かなかった事にしよう。
耳に流れ込んでくる妄想を掻き立てるその音を、必死で意識の隅に押しやりながらながら、俺は跪いた床へと額を擦りつけるかの様に頭を垂れていた。言わずもがな土下座である。
「……アギトさん?」
「はい、何で御座いましょう!?」
思わず言葉遣いが妙な事になっている様だが今は気にしない。そんな俺の反応に困惑しているのか一瞬彼女が固まった様な気配を感じた。
「えぇっとぉ……何していたか覚えてる?」
「申し訳ございません! 気が付いた時には、貴女さまが私めの腕の中で果てておりました!」
混乱の為か思わずありの腿を口にしてしまい、しまったと気付いたのは「あうぅぅぅっ……」という彼女の恥ずかしげな声を聴いた後だった。恐らく今、彼女の顔はこれ以上も無い程に真っ赤に染まっている事だろう。
「申し訳ありません! 平にご容赦を!!」
「ううんっ! 元々あたしが無防備だったせいだし! アギトさんは倒れそうになった所を助けてくれた訳だし! その後のアレは凄く、じゃなくて! うん、大丈夫、大じょっふあぁぁんっ!?」
……ふあぁん?
突然こぼれ出た彼女の甘い声に思わず顔が上がりかけるものの、彼女の「大丈夫、何でも無いから」と言う言葉を聞いて何とかそれを押し留めた。しかし、続く彼女の言葉から聞き捨てならないセリフが飛び出したのだった。
「でも、やっぱり覚えてないかぁ……。まあ、ほとんど別人みたいになってたし、しょうがないのかなぁ?」
「……はい?」
別人て何!? 一体、意識の無い間に何をしていた訳? て、ナニをしていた? いや、下ネタはいいから!
一人で納得していた彼女は、俺の混乱に気が付いたのだろう。
「あっ、そんなに心配する事じゃないよ! きっと悪い事にはならないと思うし……多分?」
と、何とも不安になるフォローを入れてくれた……出来ればそこは断言して下さい!
ただ、最後に「きっとアギトさんには必要な事なんだよ」と言う呟きに、俺の中で“ドクン”と何かが揺り動かされたように感じた。
「所でアギトさん?」
「はい、なんで御座いましょう?」
「その口調と姿勢……そろそろやめようよっ!? なんか凄く落ち着かないよぅ!」
「あ、ああ……分かった」
そう言って立ち上がった俺の目に映ったのは、大量の汗を吸い込んで水を被ったとまではいかないものの、確かな湿り気を帯びた着物に身を包んだミュレットの姿。その妙な色っぽさに思わず“ゴクリッ”と喉が鳴った。
「ううぅ…あっ、あのね、アギトさん。出来ればあんまりじっくりと見ないでくれると嬉しいかな……」
「うぐっ!?」
最後に“ボソリ”と「恥ずかしいから」と呟きながら腕で体の線を隠すような彼女の仕草を目にして、再び飛びそうになる意識を俺はなんとか繋ぎ止める事に成功した。
正直危なかった。今の彼女には、先程まで感じられなかった色ぽさと言うか艶っぽさを感じる……様な気がする。
……何かが変わったのだろうか?
「そっ、それよりアギトさん! 社の方に行くんじゃなかったのかな?」
「……あっ!」
混乱していてすっかり忘れていたよ!
そんな俺の様子に“クスリッ”と微笑む彼女に思わず見とれてしまう。
「なっ、なにかな!? かな!? また、そんなに見つめて!」
「すまない。今の君があまりにも魅力的で思わず見とれてしまった」
……て俺ぇっ!? 何言ちゃってるんで御座いましょうか!?
案の定顔を真っ赤にして「あうぅっ」と俯きながら身を捩る彼女に、妙な艶めかしさを感じる俺もまたどこかおかしいのだろうか?
*
*
*
「それじゃあ行って来る」
「はい。行ってらっしゃい、アギトさん」
行ってらっしゃい……久しく聞いていなかったその言葉に固まった俺に「アギトさん?」と心配そうに顔を覗き込んできた彼女から感じた甘い女の匂いに“ハッ”と我に返る。と、同時に足元にいるラニーちゃんと目が合い……というか君今まで何処に居たんだい?
そんな俺の疑問を余所に彼女は握った拳の親指を“ピンッ”を上に突き立てて、ご機嫌な笑顔を向けてきていた。
……なぜに?
「いやっ!大丈夫だ、何でも無い。改めて、行って来る」
「うっ、うん。行ってらしゃい」
少し困惑気味に、けれどしっかりと告げられたその言葉に、懐かしさと共に喜びを感じながら俺は『深緑の宿 森のくまさん』を後にするのだった。
次話投稿、しばらく間が空きます。
ノクターン
廻る因果の狭間で - Reincarnation Revolve -にSSが解放されました。
ある種のネタバレを含みます?
尚、18歳未満の方の閲覧はご遠慮頂きますようお願い申し上げます。




