log in - 20 従魔
「しかし従魔か……」
「従魔っ! 興味ありますっ?」
「おぉぅ……まぁな……」
「うぅぅぅっ……やたぁぁぁっっっ!」
先程までの挙動不審が嘘のように勢いよく目の前に迫ってきた二つの果実は、俺の返答を聞くと万歳をして喜びを顕わにした。
……ぼよよんっ?
目の前で跳ねるソイツを釈迦の心でスルーする。
「もしかして【従魔】って、結構マイナー?」
「はぁうぅ~っ」
その反応が、全てを物語っていた。
聞けば、色々と問題もあるらしい。
まず、収得カルマが自分を含め全ての従魔と均等に分配されるという事。確かに戦闘で貢献していない従魔がカルマを得られる利点もあるにはある。ただ、問題は戦闘でのカルマの収得は、その貢献度? によって変わるという事だろう。
例えばPTを組んでの戦闘において、一人だけ全く良い所が無かったとする。そうした場合、どんなに格上との……それこそ大規模レイド戦を生き残ろうとも、そいつが収得できるカルマが零という事もある。
因みに、これはソロであっても当てはまるらしく、その戦い方によっても収得できるカルマの量が変わるそうなのだ。
まあ、寄生対策としては有効なのだろうが、生産特化のPCにこの仕様は辛いだろう。と、言うのも生産で収得できるカルマは、本当に微々たるものでしかないのだ。その上、、本来スキルのレベルは種族レベルの倍で制限がかかり、それ以上は上がらなくなるらしい。
それならば、生産職と相性がいいのでは? と、思い聞いてみたところ。
「わざわざテイム出来るかどうか分からない【従魔】を得ようとするくらいなら、みんな武器を持って殴りに行ってるよ」
それに……と。
従魔と言えども生き物だ…中にはリビングドールの様な無機物もいるかもしれないが……維持をするだけでも大変らしい。
「種族によって食べる物も違うし、場合によっては自分たちで取りに行かないといけないから。従魔自身に取りに行かせるのもいいんだけど……」
まあ、死ねば終わりなのである。餌のある場所によっては……そういう事もあるのだろう。
おまけに、従魔喪失におけるペナルティーがハンパないというのもある。
半永続ペナルティーとでも言うのか、特定の条件を満たさない限り永続的にペナルティーを受け続けるというものだ。その度合いは、従魔との在り様と死亡の仕方によって変わるらしい。
従魔との在り様は主に服従、契約、盟約の三つであるようだ。
服従は力による支配を……。
契約は条件の受諾による協力を……。
盟約は好意による共存を……。
それぞれ表しているらしい。
「成程、それで家族か……」
「そうなんですっ! て、ラニーちゃんのステータス見ました?」
「あぁ……すまない。つい癖でな……それと……」
幸せそうな顔で“キュゥゥッ”とラニーちゃんを抱きしめたミュレットは、次の瞬間“ジト~”とした目をこちらに向けてきた。
俺は素直に謝ると……彼女の豊満な胸の谷間に頭を埋もれさせて、苦しそうに“チタパタ”としているラニーちゃんに目を向ける……うん、そろそろ助けないとな。と、そう思い、彼女の胸元を指さしながら……。
「その大切な家族が、君の胸に呑みこまれて、今にも圧死しそうになっているんだが……」
「ふぇっ!? ふぇぇぇっ! ラ、ラニーちゃんっ! ……うぅぅ……ごめんね、ラニーちゃん」
床にへたり込んで項垂れるミュレットの頭を、精一杯背伸びをしたラニーちゃんが大丈夫だと伝えるように“ポン、ポン”と軽く叩く。そして、俺の前に“トテ、トテ”と寄ってくると、万歳をする様に手を伸ばしてきた。
なんだ? と、しゃがんだ俺の首に“ピョン”と飛びついたラニーちゃんは、そのまま頬に“チュッ”と唇で触れてきた……はいぃっ!?
「はぁっ?」
「ふぁぇっ!」
俺とミュレットの素っ頓狂な声が室内に響いた。
首から手を離し“ピョコン”と床へ降りたラニーちゃんは、頬を赤らめ“モジモジ”としながら俺を見上げてくる。
……これ……どうしろと?
“ピコーン”
《称号〈家妖精の情愛〉を得ました》
《〈家妖精の情愛〉が強制的にセットされました》
《称号スキル【サモン・メイデン】を習得しました》
はいっ? ……メイデン?
混乱する俺を余所に……。
「ララララララニーちゃんっ!ななななにやってるんでふかぁぁっ!」
うっ、うんっ……向こうも相当に混乱しているようだ……。
*
*
*
「どうやらお互い落ち着いたようだな?」
「はい…でも驚いたよ。まさかラニーちゃんがあんな事するなんて……」
未だ困惑気味にそう告げるミュレットの足元には、当のラニーちゃんがご機嫌な笑顔を俺に向けている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈※家妖精の情愛〉
[効果]
悠久の誓い
MP2倍化
MAG/MND1.5倍化
※※※
[スキル]
【☆サモン・メイデン Lv-1】
[アビリティ]
※※※
※※※
※※※
※※※
※※※
乙女精霊召喚・家姫
[アーツ]
乙女召喚
※※※
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラニーちゃんが原因だと思われるこの称号なのだが……分からない所が多すぎる。
解析不能の※※※は元より、[効果]の悠久の誓いの説明は<アレルフィーナからの悠久の誓い>としか記されておらず。[アビリティ]乙女精霊召喚・家姫には<アレルフィーナの眷属、乙女精霊の家姫を※※※により※※※召喚する>と記されているし。[アーツ]乙女召喚には<オトメイドを呼びつける>とか記されている始末。
無茶苦茶気になって思わず使用してみたら、ご丁寧に《現在そのアーツは使用できません》とかインフォが来るし……。
「ミュレット、君はアレルフィーナって何か分かるか?」
「アレルフィーナですか?確かラニーちゃんの種族であるブラウニーも含めた、全ての家妖精の始祖と呼ばれている存在だったと……」
「此処でも始祖か……」
「何でも全ての家妖精はアレルフィーナの分体で、彼女から分け放たれた存在だと言われているよ…確か?」
最後に「最もアレルフィーナ自体は妖精じゃなくて精霊って言われているんだけどね」と若干不思議そうな顔をして言葉を終えた。
ふむ……するとこれはラニーちゃんを通じて本体であるアレルフィーナが干渉して来たって事なのか?
思わずラニーちゃんを凝視してしまうと、俺の視線を感じ取った彼女は赤らめた頬に手を当てて“イヤ、イヤンッ”と首を振った。
あっ……これ、あかんわ………。
何故だか天元突破した愛情を顕わにするラニーちゃんから目を離すと、ミュレットと目を合わせ互いに苦笑し合った。
「まあ取り敢えず、従魔の死亡ペナルティーが酷い事は理解した。それなら確かにテイマー?となる奴も少ないだろうな」
「一応【召喚術】と組み合わせる事でその辺は何とかなるんだけど……」
本来【召喚術】は精霊や知能の高い成獣や幻獣といった存在と契約をして、その意思と力の一部を一時的に呼び出し顕在化させるスキルである。つまり、召喚する対象の力の一部で仮の体を作り、一時的に一つの意識が二つの体を共有する形になるという訳だ。
これを従魔に適応する事によって、所謂アバターを作りだしそれに戦闘をさせるという事なのだが……。問題がこの一部と言う所で第一段階の【召喚術】だと本体の1/3程度の能力になってしまう様なのだ。
まあ要するに……。
まず、テイム出来るかどうかも分らない。
駆け出しの生産職じゃあ維持をするのも難しい。
その上、死亡ペナルティーのリスクが付いて回る。
仮にペナルティーの事を置いたとしても、テイム出来る余裕が出来る頃には、普通に戦闘をこなせる程度にはなっていると……。
うん…これは……。
「趣味のレベルだな」
「はぁうっ!」
俺の一言が急所に入ったのか、左手を胸に当て右手を空に伸ばすようにして弓ぞりに仰け反るという劇的なポーズを決めた後、“ガクリッ”と床へと崩れ落ちた。




