log in - 18 現実
……重い。
鉛のように重い体。自重によって押し潰されるのかと思えるその重圧に、現実へと戻った意識は改めて実際の体の不自由さを思い知る。
自分は、激しい倦怠感を感じながらもゆっくりと起き上がると、視界を覆うヘッドギアを取り外す。
「ふぅ……」
ただそれだけの動きですら、全力で走ったかのような疲労感を感じさせる。そんな、自分の体の煩わしさに溜息をつくと、枕元に置いてあった眼鏡をかける。
ふと、時計を見ると既に午後の3時を回っていた。
「もう、こんな時間か……」
少しハマりすぎたかと思いながら、多少とはいえはっきりとした視界を確認すと、ゆっくりと窓の方へと顔を向けた……その、瞬間。
「つっ!」
窓の向こうに映る景色が一瞬“ジジジィッ”とノイズが走ったかのように歪む。
「はぁ…またか」
もともと不自由だった目は、あの災害の後から度々こんな症状を見せるようになったのだ。そう、まるで……。
と、自分は頭を振って気持ちを切り替える。目頭を軽く指でほぐすと、取り合えず飯にするかとダイニングに向けて思い体を引きずっていく。
ダイニングへと辿り着いた自分は、冷蔵庫の中からいくつかのレトルト食品を見繕いレンジで温めてゆく。
最近はネットさえ繋がっていれば大抵のものを取り寄せる事が出来る。表を歩き回る事が困難な自分にとってはとてもありがたい事だ。
自分には船舶事故で亡くなった両親が残したそれなりの蓄えと二人の保険金。そして、事故の賠償金などで贅沢さえしなければ死ぬまで苦労しない程度の財産がある。
まあ、その両親の死が小遣いで買ったくじの当たりで得た金で、日頃の感謝のつもりでプレゼントした旅行中に、というのは自分に何とも言えない焦燥を与えたのだが……。
《続いては次のニュースです。あの大災害からあと1週間で、丸3年が経過しようと………》
食事を取りながらTVを見ていると、災害復興のニュースが流れてきた。
「もうすぐ丸3年たつのか……」
全世界を襲った大災害。
未だ、その原因すら分かってはいない。
分かっている事といえば……その日、地球そのものが激しく振動したということだけだ。
TVの画面には、一向に調査の進まない政府やら何やらに対する勝手な非難を偉そうな口調でのたまうコメンテーターの姿が映っていた。その、知ったかぶった態度に呆れるものの、これ以上見ていても気が滅入るだけだとリモコンに手を伸ばす。
切り替わる画面。すると、そこに映し出されたのは、自分が先程までプレイしていた『|Reincarnation Online』の宣伝だった。どうやら第2陣が来るのは一ヶ月半後になるようだ。
自分は先程までのプレイを思い出す。
今の自分とは比べるまでも無く自由に動く体。
鮮明で色鮮やかな視界。
そして……うん、ここまでにしておこう!
思い出された二つの膨らみの感触に慌てて首を振る。
「うぐっ!」
その動きで一瞬、体が引き攣るような感覚に囚われ、自分はテーブルへとへたり込む。
「あぁ~っ、うぅ~っ」
こんな事でさえ異常を示す自分の体にめげつつも、ゆっくりと体を起こして食事の片づけを始めた。
「ふぅぅ…疲れた」
食事の後にシャワーを浴び、今ようやく部屋へと辿り着く。湯上り特有の気怠さと此処まで動いていた怠さとで、自分は体を崩れるようにベットへと預けるのだった。
“トゥルルルル…トゥルルルル…”
しばらく横になっていると、電話の呼び出しが鳴り響いた。自分は未だ怠い体を何とか起こして…。
「もしもし、真上ですが…」
「あっ、もしもし、一ノ瀬です。こんな時間にごめんなさい……」
「あれっ? 一ノ瀬先生ですか?」
電話をかけてきた彼女の名は一ノ瀬 澪。自分の検査諸々を担当してくれている医者である……医者である!
因みに29歳、一児の子持ちである。
「と、言う訳なの……ほんっとおうにっ、ごめんなさいっ!」
「あっはい! 分かりました。明後日ですね。じゃあ早めに起きて待っています」
「ありがとぉう……ほんとごめんねぇ……」
彼女は何と言うか……うんっ、とにかく元気な人だ。
小柄で巨乳、その上童顔でとても一児の母とは思えない……というか下手すると10代前半でも? ……流石にあの乳の大きさでそれは無いか?
とにかく、だ。元気いっぱいに人と接し屈託のない笑顔を振りまく姿は……なんというか、愛玩動物という言葉が見事に当てはまるだろう……。
まぁ……そんな女性である。
「別に先生が悪い訳では無いんですから、そこまで謝る必要は無いですよ」
「いいえっ! 必要ありますっ! 明人くんの担当である以上その検査の不備は、ぜぇぇぇぇぇぇぇんぶっ、ボ・ク・が、担わないといけないんですっ!!」
まあ、正論ではあるのだけれど、何もそこまで力一杯に断言しなくても……。
「あっ、はいっ! 分かりました。謝罪はしっかりと受け取らせて頂きますです、はいっ!」
「まあそういう訳なので、明後日の朝7時頃に迎えをよこします」
「はい、待ってます」
「それじゃあ……ほんと…ごめんなさい」
最後の最後に、妙に辛そうな謝罪を残して通話が切れる。初めて会った頃から、たまに彼女は自分に対してあんな感じになる事がある。
初めは自分の体に、何か致命的な問題が出たのだろうか? などと思ったが、どうやら違うらしい。何やら後悔? の様なものを滲ませる複雑な感情とでもいうのだろうか……?
「しかし、機材の不備ねぇ……」
なんでも前回の検査で使用した機材に不備が見つかったらしい。その為、明後日に再検査をということだ。
つまり明後日は、少なくとも午前中いっぱいはログイン出来ない……と、いうことだ。
むう……今日の残りと明日の1日で出来る事、か……まあ、考えていてもしょうがないな。
「よしっ!行くかっ!」
自由に動ける体に思いを馳せ、自分は二度目のログインをするのであった。
ノクターン投稿中『贄の寵姫 - Reincarnation Blood -』の進行に伴い。
ノクターン『廻る因果の狭間で - Reincarnation Revolve -』にて、一ノ瀬 澪 - 追想哀帰(その膨らみは追憶に揺れて)-が解放されました。
(2018/03/30)




