log in - 14 ある日の宿の中?
……ふと気が付くと、自分の目の前には樹木で形作られた一軒の……熊? が鎮座していた。
そう、熊である。熊なのである。こう、開脚して“ペタン”座り込んだ状態で、上半身を下顎が地面に付く感じで丸める様に前に倒した、現実では結構苦しそう? な態勢をした熊を丸っこくデフォルメした様な形をしている。そして、可愛らしく形作られたその顔は“ポカ~”とOの字に口が開かれており、その奥に入り口が見えているのであった。
……どうやらここが『深緑の宿 森のくまさん』なのであろう……てか、間違い様も無いわっ!
「何をしているのですかアギト、入りますよ」
そう言い、くまさんの口の中に自ら呑みこまれてゆくエレオノーラ……シュールだ。そして、その後に続くオーレルと、その隣には何故か一緒についてきているエミラの姿があった。
「さあアギト様、参りましょう」
「うぅ? ああ……行こうか」
当然の様に自分に寄り添い微笑を浮かべてくるリュシオーネ。……うん、当たってるね、というか当ててるよね!
どうやらエレオノーラは諦めたのか、そんなリュシオーネの行動を見なかった事にしている様だ。しかし、よく見るとその長い耳が“ピクピクッ”と怪しい動きをしている事が窺える。
……うん、やめなさいリュシオーネ。調子に乗っていると……来る。 きっと、来る! アレが……アレが来るっ!!
「いらっしゃいませぇー!」
エレオノーラの動向に内心“ビクビク”していたのだが、そんな元気な声によりその妙な緊張感は雲散霧消する事となった。
その声の主は、ショートカットの赤みがかった黒髪に丸っこいケモミミを乗せた、丸顔に大きな瞳が可愛らしい小柄な少女だった。
……しかし小柄な女性多いな、リュシオーネもどちらかと言えば小柄だし。
ただ、この娘……あるな。結構、いやかなり大きいぞ!
突然現れた、所謂ロリ巨乳を前にして先程のリュシオーネの手触り諸々を思い出し……うん! 今も当たっているんだけどね! ほら、目の前のは不意打ちだし……思い出しちゃうのもしょうがないよね?
「って…ふぇ!エレオノーラ様じゃないですか!」
「久しぶりですね、ミュレット」
「それにこの面々は一体…?」
「こちらの『転生者』アギトを案内してきたのですよ」
「『転生者』ですか!」
「……ああ……そうだが」
……? 何か同じような事が有った様な?
先程までの混乱をかき消した、そんな既視感に流されるまま一人の少女に目を向けると……うん、恥ずかしかったんだね?
自分と“パチリ”と目の合ったエレオノーラは一瞬硬直した後、その視線をあさっての方へと彷徨わせるのであった。
これ以上見ているとその内口笛の吹き真似でもしだしそうだったので視線をミュレット? の方へと戻す。未だに「ほぇ~」とか「初めて見ましたぁ」とか言いながら此方を見つめている彼女に対し如何したものかと考える。
その結果……自分の隣に寄り添うリュシオーネへと向けられる視線。すると彼女は、心得たと言わんばかりに自分の前へと躍り出て……。
「ミュレット! こちらのアギト様は。この私にとって大切な、運命のお方なのです! しっかりとお世話するよう本当に頼みましたよ!」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「????」
うん……一部の本音と建前が逆になっているよね。
額に手を当てて頭上を仰ぎ見る様にして途方に暮れているエレオノーラ。
オーレルは左手を腹に、右手を宙に彷徨わせるかの様にして床にうつ伏せ痙攣している……駄目だ返事が無いただの屍の様だ。
そのオーレルの傍らで、頬に手を当てて僅かながらも困った表情を浮かべて佇むエミラ。
只々“ポッカ~ン”と呆けているミュレット。
当のリュシオーネは未だに己が何を口走ったのかに気付かず周りの反応に対して“コテン”と小首を傾げている。
……本当にどうしよう、この惨状……。
「まっ、まあ、リュシオーネの盛大な自爆もありましたが、取り合えずそう言う訳なのでアギトの事をよろしく頼むのですよ」
「あっ、はい!よろしく頼まれました!アギトさん、私はこの『深緑の宿 森のくまさん』の宿主を任されているミュレットといいます。よろしくお願いしますね!」
「ああ、アギトだ。此方こそよろしく」
どうやらエレオノーラはリュシオーネの発言を、ネタとして軽く流すことに決めたようだ。そのリュシオーネだが、今は自分の傍らでorzとなっている。
「さて、それでは私達は社の方へ戻りましようか」
「…!そうですよ!エレオノーラ様がお一人で外へと出られたと知ってミュスカ様をはじめ皆心配なさっています」
「あぁ~、お姉ちゃんもの凄く怒っていそうだなぁ~」
「うぅぅっ」
ミュレットの言葉を聞いた途端にうなだれるエレオノーラ。
「お姉ちゃん?」
「ミュレットの姉であるミュスカ様は三人の杜衛のお一人なのです」
「まあ三人と言ってもそのうちの一人…あのお方はちぃと訳ありで、実質活動しているのはエレオノーラとミュスカの二人だけだがな………」
高揚の無いにも拘らず優しげで透き通るような声で自分の疑問に答えるエミラ。その言葉を引き継ぎいつの間にか復活を果たしたオーレルが説明を入れてくれた。
杜衛とは森霊と交感し時にその身に宿して行動しうる、言わば森霊の代行者のような存在らしい。
この『森守のルトヴェリス』は杜衛を代表としその下に森霊の代行者である杜衛の世話役として守部達が存在する。さらに、森霊の宿り木とも呼べる霊樹の守護者として守役達が存在するようだ。ただ住民を含め、ここに上下関係というものは基本的には無く、個人的に敬うか否かという形になっているらしい。
なるほど納得だ。明確に上下関係があったならばオーレルなんぞ今頃晒し首になっている事だろう。
ちなみに社とは町の中央に存在する世界樹? とも思える巨大な霊樹によって形成されている神社? の事だ。実際は神社と言うか神殿や寺院など古今東西の神仏的な建物を混ぜ合わせたかの様な、それでいて不思議と神聖さ際立つ形になっているのだが……。
まあ、要するに他国における城の様なものだろう。普通の城と違うところは、此処で狩守と呼ばれる者たちに様々な依頼を斡旋している所だろう。
狩守とはハンターのようなものだろうか? と思ったら、正確には狩守を元にしてハンターズギルドが生まれたとのことらしい。
「ではアギト様、落ち着いたら必ず、必ず社の方に顔を出してください。『転生者』であるアギト様には狩守と同じように依頼の斡旋が可能ですから」
リュシオーネはそう言い残すと、後ろ髪を引かれまくりながらエレオノーラに引きずられていった。遠くで何やら「絶対ですよー」とか聞こえてきた気がするが……うん、きっと錯覚だろう。
オーレルはと言うと「それじゃぁ俺は、エミラを先に家まで送っていくから。行くぞエミラ」「はいあなた」などとイチャラブこいて、先にさっさと去っていった………ちくせう!
「あははっ!なんか大変そうだね? ……っと、はいこれ部屋の鍵、206号室だよ!」
「ああ、ありがとう」
と、カギを受け取ると同時に識別をかけてみる。
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ミュレット
[種族]セリアン(熊) Lv-14
[称号]
〈宿主〉
[満腹度]89%
VP - 100%
SP - 96/96
MP - 49/49
STR - 98
VIT - 106
MAG - 55
AGI - 42
DEX - 108
MND - 58
LUK - 96
[種族特性]
【野性】
[スキル]
【格闘 Lv-6】【投擲 Lv-3】【体術 Lv-5】【召喚術 Lv-12】【従魔 Lv-16】
【調薬 Lv-10】【錬成 Lv-8】【夜目 Lv-13】【採集 Lv-12】【調教 Lv-16】
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……熊?
βテスターの情報には無かった種族だ。本サービス開始時に追加された種族だろうか?
しかし……普通だな。
うん、一部非常に気になるスキルが有るが、ステータス自体はいたって普通だ。
渡された鍵を手に、2階への階段を登りながら確認したミュレットのステータスに“ホッ”と胸を撫で降ろす。
だって、こう……オーレル、エレオノーラと来て、極めつけのリュシオーネだもの。これで更なる高ステータスが来た日にはもうね………。
因みに、エミラに識別を使わなかったのはリュシオーネが張り付いていた為だ……気づかれるし。
そんな事を考えながら階段を登り切り、手前にある扉から順に号数を確認していく。
「204、205、206……っと、此処か!」
鍵を開け部屋の中へと足を踏み入れた瞬間、部屋の明かりが点灯した………内心ビビったのは内緒だ。
その柔らかな明かりに照らされた、自然の樹木その物によって形作られた為にか趣のあるその部屋は、思った以上に広々として見えるのであった。




