log in - 123 姫城(ひめしろ) 智恵理(ちえり)の……新生(リヴァイバル)。
“ゴウ、ゴウ”と音を立てて燃え盛る街並み。
自分の胎から這い出た災いが……世界を、呑み込んでいく。
「くひひひひひひ……」
ただ1人、ソレへと立ち向かう……彼。
幾度傷つき血を吐こうとも、決して屈することなく挑み続ける……その、姿。
「ひゃはははははは……」
それは、いつも泰然としていた彼からは想像できないほど……無様、で……。
憎しみに駆られていた心が……その、滑稽さで満たされていく。
「あははははははは……」
渦を巻く劫火。その、轟音さえも呑み込むほどに轟く……狂ったような、笑い声。
だと、いうのに……その瞳からは、途切れることのない涙が頬を伝って流れ落ちていく。
そうして……暗転する視界。
立ち上る黒煙で闇色に染まった空へと響く狂気を残して……その、暗闇へと呑まれていく。
でも……終わりじゃ、ないんだ……。
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「ふふぅぅんっ!!」
“シン”と静まり返った広間に響く……熱い吐息。
昏い室内で、1人、着崩れた着物から覗く熟れた肉体を自らの手で慰める……女性。
過去に囚われ、その記憶を辿るように己が身を弄る……浅ましい姿、に……。
“いやらしい女”
と、吐き捨てる。
その、醜さに募る……憤り。
ならば……と、思う。
そんなに忘れ難いのであらば、いっそ……より鮮明に思い出させてやろう、と……。
“貴女の望みを叶えてあげる”
そうして女は……在りし日へと旅立つ。
それは、女が……乱らに淫れさせられた忌まわしい日々……。
されど、その狂った日常の中で翻弄される肉体へ延々と刻み込まれ続けた感覚に慣れ親しんでしまった彼女は、それを失って久しい今も……酷い渇きを、その身に覚えていた。
旅路から戻ったその肉体は、どうしようもなく……ソレを、求めていた。
ならば……くれてやろう。
「い、嫌ぁぁぁぁっ!! 何なのですか、これ!? 嫌っ! 嫌ぁぁぁぁぁっ!!」
呼び出された……1体の僕。
蠢く縫吸うの触手が……彼女の裸身と戯れる。
そうして、確かにそれは……その身の飢えを、満たしていく。
だから……問う。
その……解放、を……。
告げる言葉に、彼女は……素直に肯定する。
それは、縋るように涙ながらの……乞い。
“いいわよ…でも、丁度いいから”
そう……気づいていた。
気づかない……はずがない。
この一帯は、既に……領域。
気づかないのは……2人、のみ。
故に……女の性を解き放つ、その浅ましい姿を……。
「おかあ…さま?」
娘は……括目する。
無数の触手と産まれたままの姿で戯れる母……その、非現実的な光景の前に立ち尽くす。
それは、致命的な……隙。
そうして、娘も……囚われる。
「ひっ!? 嫌ぁっ! 痛いっ! 離しっ…ひいぃぃぃぃぃっ!!」
歪められた思いに駆り立てられる狂気に……。
ゆっくりと、闇から這い出た……もう1体の僕。
それは、淫れた母の姿……或いは、己が置かれているこの状況に、愕然として立ち竦む娘へと忍び寄っていた。
忌まわしき記憶の底から這い出し、その浅ましい願望を娘へと向ける……男の姿、を……。
「う…そ……おとう…さま?」
女は……括目する。
あらゆるものをその身から奪っていった……祖父。それと同じように、父に……あの娘にとっての祖父に手籠めにされていく娘……その、ありえない現実を前に、無数の触手に囚われる女はその手を伸ばすことすら叶わない。
絶望に囚われ……壊れていく心。
新たな世界に……狂わされていく心
昏い闇に包まれる広間に轟く、母娘の艶叫に重なって……。
“あはははははははは……”
響き渡る笑い声の行先に……僅かながらの救いはあった。
「私が、貴女の代わりに望みを叶えてあげる」
そう告げて、狂気を抱き締める娘の温もりは……あの人と、同じで……。
「……ちゃん」
歪まされ、壊れた狂気を前にしても、変わらずに心を砕く……青年。
その果てに、宿った命は……あまりにも儚く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……せめてこの子は……」
狂気のために、己の命を削るかの様に尽くして逝った青年の……忘れ形見。
その、儚すぎるいのちを残して逝こうとしている……狂気の前に……。
「大丈夫。あれは、死に至らしめる呪いではなく。本来ならば在りえないはずのを生を繋ぎ止めるための……呪い、だから……」
白い少女は……狂気に告げる。
それは、あんな結末を招いた罪深き狂気に、それでも変わらずに向けられていた……あの人の、慈愛。
「ああぁ……※※お姉様ぁ……」
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――ゴズッッ――
「あいたぁ~~~~~っ!?」
後頭部に突き刺さるような衝撃に……ん? 突き、刺さる……? って、角!? 角がぁあああああっ!!
「はぁ……姫城? 最近、多くないか? というか、病院、行った方がいいんじゃないか? 妙にうなされているせいで、先生は攻撃……もとい、起すのが躊躇われたぞ?」
いや、寧ろさっさと起こしてよ! と、声に出したくとも、痛みに悶絶している今のあたしの口からは……。
「お、おおおおおぉ……」
低い呻きしか出てこない。
「まあ、何やら不穏な言葉を口走ったから、思わずツッコミを入れちまったが……」
「う、ううぅ……ご迷惑、ご心配をおかけしましたぁ」
幼い頃からよく見る夢。
それは、とあるゲームのコマーシャルを目にして以降、昼夜問わずに襲ってくるようになった。
自覚は……ある。
信じ難いことだけれど、あの夢が……現実にあったことなのだと……。
「 智恵理……無事?」
「大丈夫ですか? 智恵理ちゃん……」
友人2人が、心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「うん、まあ……いつものことだし……」
どうしてあたしが、こうして記憶を持ったまま第2の人生を歩んでいるのか? その理由は、分からない。
「それと、幸? それ……怖いよ?」
机の下から顔の半分までを、こう……ヌウッと、ね……。
「むぅ……」
「あは、あはははは……」
不満げな声を零す幸と、乾いた笑いを浮かべる 深景。
所々跳ねる癖毛を整えようともせずに、いつの模様に眠たげな表情を浮かべているのが、真田 幸。クラスメートの大半からは、サチと呼ばれている。
どこか、かつてを思い起こさせるブロンドの髪を腰まで垂らし、物静かな雰囲気を醸し出している日米ハーフの大和撫子? な、長尾 アンナ 深景。こちらは何故か、お嬢と呼ばれていたりする。
そんな、得難い2人の友人。家庭環境も順風満帆で、かつてのような憂いの影もありはしない。
幸せ……なんだろう。
けれども、それが……どこか物悲しい。
それは、きっと……未だ拭えない罪悪感の所為なのだろう。
だからなのかな? 度々訪れる、記憶の流転に呑まれちゃうのは……。
……記憶、か。そういえば、2人って……あのゲーム、やってるんだよね?
「そういえば、智恵理? 2陣、当たったの?」
そんなことを、ふと考えた矢先。唐突に、その話題が振られた。
「う、うん」
「まあ、おめでとうございます」
あたしの肯定に、まっめんの笑みを浮かべて喜ぶ深景。幸も、どことなく嬉しげな雰囲気を醸し出している。
でも、あれがあたしの想像通りなのだとすれば……そう喜べるものだとは一概に言えない。現に、既に都市伝説めいた事は起きているんだもの……。
幸いにも、友人2人は今のところそういったことに巻き込まれてはいないみたいだけど……。これからもそうだとは、限らないんだ。
2人に……打ち明けるべきなのかな……?
でも、仮に打ち明けたとして信じてもらえる保証はない。
と、いうか……普通は信じないよね……。
「……もしかして『VRO』って、智恵理がよく見る悪夢に関係してる?」
「っ!?」
正直、驚いた。恐らくは、歯切れが悪いから何かあるんだろうと察したんだろうけど……。
でも、このオカルトじみた雰囲気を持つ友人は、時折オカルトじみた直感を発揮することがあるんだよね。
だけど……やっぱり言えない。
だって、あんな……酷いこと……。
うん、2人に嫌われるのが嫌だからとか、そういう問題じゃなくって、ね? 幸はともかく(酷い!?)、深景には刺激が強過ぎ。きっと、卒倒しちゃうよ!
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厳かな雰囲気に満たされた……神殿。
ステンドグラスから射し込む光が、周囲を神秘的に彩っている。
どこかで見たことのある……似たような光景。
そして、あたしの正面に佇む……黒髪のシスター。来ている服が和風だったら、さぞかし映えることだろう。
でも、その顔が明らかになると同時に……あたしは思わず叫び声を上げそうになった。
うん……声出なかったよ。体も動かないし……というか、体ないし……。
でも、驚くのは無理もないよ? だって、その顔は……あの女にとてもよく似ていたんだもの……。
そんな彼女に促されるがまま……キャラクターメイキングは進んでいく。
種族は……ゴブリン(妖精)。
うん、まあ……これも一つの、贖罪なのかな……?
そうして、そんな時間も終わりを迎え……。
「貴女の今後の行く末に……母と、秘せる邪神の加護があらんことを……」
「……え?」
その言葉に疑問を投げかける前に、あたしの意識は現実へと引き戻されてしまうのだった。
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悶々、と……悶々、と……。
「むうぅ~……」
「あ~……姫城? そんなに呻きを上げるほど、先生の授業は分かりずらいか?」
「……は!? え、え~と……その、あのぉ~……ごめんなさい」
あのキャラメイク以降、なぜか不思議と夢に襲われることはなくなったんだけど……。
気になって気になって気になって気になって……ずっと悶々としている。
「うむ、素直でよろしい。とは言え、だ。本当に大丈夫か? 先生、凄く心配なんだが……」
何ていうか……普通にいい先生なんだよね。
まあ、手を抜けるところはとことん手を抜く要領のよさもあってか、それが他の教師達……とりわけ教頭先生には不評で、不良教師と翳で呼ばれているみたいなんだけど……。
でも、生徒達には凄く慕われているんだよ。
生徒達の評価と他の先生達の評価が、まるっきり真逆なんだよね……。
気分は……晴れない。
それでも……時は進んでいく。
そうして訪れる……その日。
ベットの横で静かに胎動する、黒光りした……筐体。
それは、罪人を彼の地へと繋ぎ止めるための枷か? 腕輪型の装置を片腕に着け、深々とヘッドギアを被るとゆっくり体を寝かせて……。
「リン……え~と、ログイン」
思わず、某小説よろしくリンク・スタートと口走りそうになって思い留まる。
まあ、それでも開始はされるんだろうけど、ね……。
因みに、世界初となるフルダイブVRゲームの発売に伴い、復刻しているんだよね……件の小説。
そんなこんなで、あたしは……降り立つ。
視界が開け、目の前に大平原が広がった。
降り注ぐ陽射し。
そよぐ風。
そこに感じる……生命の息吹。
ああ……やっぱりだ。
そこには、かつて憶えた空気が……はっきりと感じられた。
でも……ここで尻込みしていたら駄目だ。
あたしは、静かに気合を入れると周囲を見渡し……遠くに見えた町へと〝一歩〟足を踏み出した。
そうして進んでいくうちに、なぜだか感じる……無数の視線。
うん、まあ……ゴブリンだし、ね……。
「え~と……待ち合わせの場所は……」
ある意味定番とも言える、町の中央広間にある噴水。
待ち人の種族は、仙人とアマゾネス。
うん、これといって特徴のない種族だから、区別とかつかないよね!? みんな考えることって一緒だし!
なので、ある時間と共に、あるアクションを起こすって言っていたけど……。
〝3〟……〝2〟……〝①〟……。
――シーーーーーーーーーーン……――
今の今まで賑わいをみせていた周囲の喧騒が……消えた。
あたしへと向けられていた視線も含め、全ての注目がそこへと収束する。
「え、えぇ~とぉ……」
そこには……ジョ○ョ的な香ばしいポーズを取る2人の姿、が……。
うん……アホだよね!?
てか、幸さ? 深景をつきあわせるのは、可愛そうだからやめてあげなよ……。
顔を真っ赤にして全身を“プル、プル”と笛ウわせているアマゾネスの少女に、あたしは思わず……合掌。
……ん? というか、さ……? え? 何? もしかして、あたし……あそこに合流しないといけないの? 正直に言って、他人の振りしたいんだけど……。
ああ、でも、深景が限界みたいだし……はぁ。
〝一歩〟……また、〝一歩〟……心中を反映したかの様に重さを増した脚を踏み出していく。
“ザワザワザワザワザワ……”
2人との距離が縮まるにつれ、周囲の喧騒が戻りはじ……ん? 増してる……?
それに、どうして2人は、あたしへと向けた目を剥いているのかな?
あ、ゴブリンだからか……。
そうして、あたしは……辿り着く。
「え~と……香姫とアンナマリーだよね……?」
「……エ、エリ……ちゃ、ん?」
あたしが声をかけてから幾分かの間を置いて声を発したのは、深景改めアンナマリー。種族は、アマゾネス。
「…………………………」
それに対して、幸改め香姫は未だ硬直。目が点、とも言う。
う~ん、やっぱり気持ち悪いかな? 慣れると結構愛嬌があるんだけど……。
いや、かつてのあたしも慣れるのに随分とかかったか……。
そんな、不安に翳る心は、次の瞬間……アンナマリーの奇行? にょって雲散霧消する。
「ふきゃ~~~~~~~~~~っ!? エリちゃん! かわゆいですぅうううううぅぅぅぅぅ~~~~~っ!!」
「むんぎゅっ!?」
あちらにおける、髪が黒かったら純和風美人的スレンダーとは打って変わった、ボンッ、キュッ、バンな我儘BODYが、あたしの小柄な体を羽交い絞める。
お、おぱ……おぱっ……息、がっ!?
って、何ですかこれ!? あの人より、大きいだと!?
こんなのをぶるさげて近接戦闘をするとか……うん、とても身近に1人いたよね……。
あ? もう……意識、が……。
「……は!? アンナマリー、落ち着く! エリ、死に戻りそうになってるから!!」
「……あら?」
「きゅ~……」
*
*
*
「それで……どう?」
姿が変わっても、相変わらずの無表情。表情筋の死んでいる、幸改め香姫。種族は、仙人。
アンナマリーが髪を短くして背を少し伸ばし、スタイルをG・REAT! になったのに対して、香姫は……。
背丈は、変わらない。あちらの、あたし以上に小柄な体躯。顔も……面影は、ある。
でも、さ? 元々整った顔立ちと無表情も相まって、どこかお人形めいてはいたけれど、黒髪を足元まで伸ばすその姿は……市松人形のようで、ちょっと怖いよ……。
特に、今はその目だけが爛々と輝いているものだから……。
はい、なんだかんだで夢の話を吐かされました……orz
いや、アレとかコレとかエグイ話は濁したよ! ツッコまれても、やんわりと誤魔化したよ! 凄く……苦労したよっ!!
そして、それでも深景……目ぇ回しちゃったよ……。
「どう……と、言われても……」
ここで正直に言っていいものだろうか?
この、見た目よろしくオカルト好きな友人のことだ、きっと暴走するに違いない。
でも、このまま……と、いうのも危険だ。巷で話題の都市伝説。あれって、きっと何らかの理由でこっちに囚われてるんだと思う。
ほんと、どうしたものかなぁ……。
「香姫ちゃん……それ、ちょっと怖いよ?」
って、言ったぁあああああっ!? アンナマリー、素直に言っちゃったぁあああああっ!!
うん! 無表情で目だけを光らせてにじり寄って来る、純和風人形っぽい少女……ホラーだよね!?
「むぅ……」
不満げに唸り、拗ねたように顔を背ける香姫。代わりに、こっちに向けられたアンナマリーの顔……その片目が“パチリッ”と瞬く。
ううぅ、助かったよ、アンナマリー。
“ホッ”と息をつき、落ち着いたところで……あたしは、自分のステータスを確認する。
いや、だってね? 可愛いって抱きつかれたし、いったい何がどうなってるんだろ、う……って……?
一瞬……固まった。
うん……ゴブリンはゴブリン、だ……。
でも、リアルゴブリン? じゃなくて……SDキャラ的な、アレ?
くりくりとしたまん丸の大きな瞳に高い鼻。小柄な体躯に……金髪のツインテール。
そこには、そこはかとなくかつての面影を混ぜ込んでデフォルメしたかの様な姿、が……。
ん? 種族……ゴブリナ? これって……あ!? もしかして、原因って……これ、かな……?
LVは1。ステータス値も初期状態みたいだけど、称号とスキルはどうにも覚えのあるものがズラリと並んでいる。
その中の、1つの称号。
――〈大地母神の寵愛〉――
ちょっとした? 縁があって、大地母神テフラーマ様から与えられた称号。
確かゴブリナってゴブリンキングを産む母体って言われていると共に、大地母神の巫女と呼ばれていたりもするんだよね。
この称号の影響で、種族がゴブリナに変わったんだろうね。
……うん、さらりと流したけど、このステータス……絶対に人には見せられないよ!
でも、この時あたしは……気がつかなかった。
「おお! あれに見えるゴブリンは、プレイヤーズギルド:パンデモニウムのギルドマスター……アギト!」
「……え?」
寵姫の称号が……有効となっていることに……。
その、所為で……。
「ふぇ……ええぇ~~~~~んんぅ……」
町の雑踏……その、衆目の只中で大泣きして縋りつき、彼を困らせるという醜態を、あたしは晒すことになる。
でも……これは、始まり。
そう……始まりでしかない。
醜態……うん、醜態。
あたしは、語り継がれる言い伝え……主に1人が率先して築き上げた伝説を前に、これから幾度となく悶絶することになるのだから……orz
でも、今度は……間違えないよ。
だから……見ていて。
――称号〈※※※の慈愛〉――
今回の投稿はここまで。
次はいつになるか……。
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