log in - 121 深御(ふかみ) 綴(つづり)の……悟り(諦念)?
“カンッ……カンッ……カンッ……カンッ……カンッ……”
赤々と赤熱する鉄へと、ただ無心で鎚を振り下ろす。
何度も何度もひたすらに繰り返してきた……工程。
不遇と言われて周囲からハブられて久しい今でも、ずっと変わらず続いている。
今では、少しはまともなものが作れるようになった……とは思う。
ステータス上ゲームのシステム的に無理ならば、それ以外の部分……現実の技術とかで補うしかないと、祖父の伝手で鍛冶場を見学させてもらったり。え? それって……いいの? と、不安を覚えるアドバイスなどを享受していただいたりですとか、ね……。
そうして、〝一振り〟……また、〝一振り〟……魂を込めるように鎚を振ること……数刻。
「うん! 完成っ!!」
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【鉄の十文字槍】
[系統]両手槍/特殊形槍
[耐久]100%
[属性]物理
[斬]75
[突]75
[打]55
[魔]35
[アビリティ]
耐久強化・微
重量軽減・微
[アーツ]
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ええ、いい出来……と言っても、他のプレイヤーメイド品と比べたことがないので、実のところは分からないのですけどね。
ですが、NPC既製品と同等程度にはなっています。
けれど……。
「ドワーフのプレイヤーは、もっといいものを作っているんだろうね……」
とはいえ、こればかりは仕方がないでしょう。不遇と呼ばれるグラットたるボクは、コツコツ、コツコツ、腕を磨いていくしかないのですから……。
もっとも、作ることこそが目的なボクにとっては、出来上がったものに対する周りの評価なんて、まったくとは言わないまでもあまり気にならないのですけど、ね……。
“ガンッ、ガンッ、ガンッ”
「おう、火産霊よ! 少しいいか!?」
不意に鍛冶場のドアが叩かれ……うん、壊れそう。って、うん? 親方さんですね。
「はい、大丈夫ですよ」
恐らくは、槌音が止まったのを見計らって声をかけてきたのでしょう。ドアの向こうからの問いかけに、問題ないとボクは告げる。
そうして“バンッ”と乱暴に開け放たれた入り口から“ノッシ、ノッシ”と入って来た初老? の男性。
豊かな髭を蓄えた顔。その、微かに皺のよる肌は浅黒く。広い肩幅に、隆起する筋肉に覆われた野太い腕。そして、低身長。
その、ずんぐりとした姿は……まさに、ドワーフ。
この親方さんことヴァルカンさんとの出会いは、町の裏路地……その、片隅。野鍛冶で試行錯誤をしている時でした。
何が琴線に触れたのかは分かりません。ただ一言「もったいねぇ」と口にした親方さんはボクを自分の工房へと招くと、使われていない鍛冶場の1つを好きに使わせてくれたのです。
そこからは、楽しい愉しい物作り。やっぱり設備が充実していると、やりがいもひとしをなのです。
そんな親方さんの視線は、部屋へと入った瞬間から完成させたばかりの槍を捉えて離しません。
「え~と……親方さん?」
「ん? おう! わりぃわりぃ!! しっかし、『転生者』は成長が早いとは聞いていたが……独力でここまでいくたぁ、才能のある奴ぁ特に別格っつうことか……」
若干呆れ混じりの声色で、感慨深げにそう口にする親方さん。ボクは、訳も分からず小首を傾げるほかありません。
「おっと、そうそう。 お前さんに会いたいって連中がいるんだが、少しばかり会ってやっちゃくれねぇか? いや、悪い話じゃねぇから!? 先方も、確かな筋だし!!」
途中まで聞いたところで、思わず眉根が寄る。
そんなボクの表情の変化を見て取ったためか、慌てて言葉を付け足す親方さん。
だって、ねぇ……。
不遇と呼ばれてパーティ? を放り出されて以来、扱いの酷いプレイヤーは元よりNPCからも結構、ね……。
まあ、NPCの塩対応は、プレイヤー側に問題があるから仕方がないところもあるのだけれど……。
もう、ね? 不遇種族プレイヤーへの扱いが酷すぎる自称攻略組(笑)達……特に、某大型ギルドの横暴さが、それに拍車をかけていることへの憤りを禁じ得ません。
そういったこともあって、親方さんはともかく他とはできる限り関わりたくないのです。
けれど、親方さんがこうも言っているのですし、変なことにはならないでしょうか……?
「そういうことでしたら、まあ……構いませんが……」
「そうかそうか、よかったよかった! おう! 入ってくれ!!」
そうして、鍛冶場へと通される、筋骨隆々の……ゴブリン?
うわ、凄いっ!? 大きくって……凄、い……。
ボクは……目が離せなかった。
ソコへと注がれる……熱い視線。
そのゴブリン……が背負う巨大な斧に、先ほどの親方よろしく、ボクの目は釘付けなのです。
そんなボクの前へと、もう1人の来客が歩み出て……。
「くすくすくす、本当にお好きなのですね?」
上品に笑いながら、そう話しかけてくる女性。
何が……は、言うまでもなってことですかね? って、あれ? この方……プレイヤー? しかも、ボクと同じグラットではありませんか!?
「初めまして、火産霊さん。わたくし、アロマと申します」
その名乗りに、頭を過る……記憶?
確か……クラスメイトの会話の中で、そんな名前が出てきたような……?
不遇種族、グラットの生産者……うん、もしかして……。
「不遇種族の母?」
「あら、嫌だわ。 そう呼ばれているとは聞いておりましたけれど、面と向かって呼ばれますと少し恥ずかしいですわね」
と、若干頬を赤らめながら「うふふふ」と淑やかに笑うアロマさん。
え? なんでそんな方がボクに合いに来るのですか……?
「ふふふ、どうやら分かってはいらっしゃらないようですけれど、貴方も十分以上に生産者の……トップ勢、でしたか? そう呼ばれるに足る物を作り出せているのですよ?」
……はい?
「あ~、本当に分かってねぇようだけどよ? コイツの鍛冶師としての腕は、この『戦軍のアンバッス』でもトップクラスだからな? 他の『転生者』の生産品の多くが、そこいらの二流どころか三流鍛冶師の出来の悪い量産品にさえ劣っているってぇ中で、店置きとはいえコイツの造ったもんに比類するような武器を造ってるってのは、かなり異常なことなんだぜ?」
と、ボクを追い打つゴブリン……確か、オーレルさん? ええ、目は己に釘付けだったけれど、話は一応耳にはいってはいましたよ?
それにしても、お店に並んでいるのが所謂数打ち的な物だというのは分かっていましたが、だからこそ他のプレイヤーはもっと……と思っていましたのに……。
冗談とかではないのですか? だって……ボク……。
「ふふふふ、そのご様子ですと、随分とご自身のステータスを目にしていらっしやらないのではないですか?」
そういえば、種族LVも碌に上がらず、スキルLVが頭打ちになってから、ずっと……。
そうして、ボクは……目にする。
「……は?」
思わず口から零れ出た間抜けな声。
久し振りに開いたステータス画面。その、種族LVの横で燦然と輝く……王冠? ……って、LV30!?
え? 嘘っ!? だって、生産では殆どカルマって得られないのではなかったの!?
それに、〈魔躁技師〉とか【魔力入鎚】とか、他にも幾つかよく分からない称号やスキルを取得してるし?
もしかして、作業に集中しすぎていてインフォを聞き逃していたの……?
「ふふふふ、生産ではカルマが得られないと言われているようですけど、そんなことはないの。ただ、スキル頼りの作業ではカルマを得ることができないというだけ。これは戦闘でも言えることね。もっとも、あちらは立ち回りなども加味されているようですから、多少は得ることができているようですが……」
要するに? LVの上がらない……と思っていたスキルに見切りをつけて、リアルの鍛冶の技法等を試したりと試行錯誤をしていた結果……LVUP、というわけですか……?
ですが、それでも既に種族進化をしていて、ボクよりもLVの高い生産者、も……って。
「ああっ!?」
「ふふふふ、お気づきになったようですね? そういうことよ。確かに、既に種族進化をなさっていて、貴女よりもLVの高い方もいるでしょう。ですが、結局はスキル頼りであるのが変わっていない以上はそこ止まり。出来上がる物は最低限の物にしかならないの。決して、そのLVにおけるに上限値を超えることはできないのよ。純粋な技術……スキルに頼らない技法にスキルの効果が上乗せされている貴女の作る物に、それらが勝る道理はありません」
これって、ボク……やらかしてしまっていますか、ね……?
「…………………………」
愕然……とするほかありません。
掲示板さえ目にしていれば、今現在のプレイヤーメイド品がどの程度のモノなのかを知ることもできたのでしょうけど……。
何分、LVが上がらないものと思い込んでいましたからね……。他人と比べてもしょうがないと諦めてから此の方、ずっと目を通していませんでした。
……いえ、ちょっと待ってください。親方さんが凄い鍛冶師だというのは分かりましたが、なぜその親方さんの紹介でプレイヤーズギルドの勧誘が来るのですか……?
え? 元々は、親方さんのお師匠様からの通達? って、ええっ!? 『鉄血のオデット』の女皇様!?
話しによれば、オーレルさんも『森守のルトヴェリス』……『禁忌の森』の中にある国? の守役と呼ばれる方で、王族のような方々の近衛的な立場の人だと言うことですし……。
何でプレイヤーズギルドの設立に、そんなNPCが全面協力しているのですか……?
聞けば、現在プレイヤーを取り巻く環境は、悪化の一途をたどっているらしい。
ただでさえ勝手がすぎる彼等の行動に不快感が募っていたところに、国王に唆されたとはいえ隣国への侵略行為。
これが、国を上げての戦争だったのならば「ああ、またか」と……いつものことだとこの地の人々は思ったのでしょうが、実際にはプレイヤーが自主的に徒党を組んで隣国へと攻めていったわけです。
不快感が、不信を通り越して憤りに変わるのも分かるというもの。
その結果、NPCとの間に出来た深い溝に、色々と不都合が生じるようになった不満の捌け口が、NPCに対してのみならず、同じ『転生者』……不遇種族と呼ばれる者達へ向けられるようになった、と……。
そんな、同じ『転生者』を虐げる者達の姿を目にして、NPCの『転生者』という存在全体に対する感情は、極一部の者達を除いて冷め切ってしまっているようなのです。
近い内に新たな『転生者』……プレイヤーが現れるするというのに、このままでは混乱に拍車がかかってしまうことでしょう。
そして、それはNPCにとっても対岸の火事だと侮れないのです。
そう、場合によっては……。
―― PC VS NPC ――
Ready……………Fight!
な、全面対立に発展する可能性もあるのですから……。
なので、その打開策の1つとして……。
「アギト曰く……ざまぁ、をするとか言っていたなぁ……」
いえ、ざまぁ……って……。
いえ、確かに事が成せば……はい、ざまぁ以外の何ものでもありませんね……。
まあ、実際には不遇種族プレイヤーの互助団体的なギルドになる予定とのことですけど……。
そう、予定は……未定。得てして、それ道理にはいかない物でして……。
「どうしてこうなったかなぁ……」
ボクは、抱え込む巨大な砲頭を、湖……その、湖面を埋め尽くすかの様に群れを成す異形へと向けながら、そう独りごつ。
FはFでも、頭にSが付いてしまってますよね、コレ……。
いえ、古代魔導兵機と言えば、Fの定番になりますかね……?
今、頭上に浮かぶお城なんて、その典型的な物でしょうし……。
それに……ええ、作っている時は楽しかったですよ? 何か……色々とできて……。
ですが、ふと落ち着いてみますと、こう……思うわけですよ。
何か、違くない? ……ジャンル。
と……。
ボクは天を仰ぎ見る。そこには“ゴウンッ、ゴウンッ”と重々しい駆動音を轟かせる巨大な城。
知ってますか? あれって……単なる効果音なんですよ?
ええ、音など立てずとも高速で飛行することができると知っているだけに、演出過多でゆっくりと空を巡航するアレを見ていると……思うわけですよ。
「ボク……何をやっているんだろ?」
口を突く感情は……。
――ドギュウウウウゥゥ~~~~~~~~~~ンンッ……――
引き金を引くと共に迸る轟音に呑まれていく。
ふぅ……深く考えるのはやめましょう。楽しいことには、違いないですし、ね……。
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