log in - 117 とある『転生者』の……好転?
「はぁ~~~……、今回のイベントも散々だったなぁ……」
何せ実入りがない上に、武器も防具もボロボロだし……。
「まあ……でも……」
俺は、大通りを行き交う人々へと目を向ける。
「うん、悪くはないか……」
何もできないまま魔物の群れに呑み込まれ……何もかもが失われた村の跡地に“ポツン”と死に戻ったあの時とは比ぶべくもない。
自己満足? 大いに結構! たとえゲームだからといって、あんな思いをするのは2度とごめんだ!!
とはいえ……駄目元でNPCの店に行くしかないよなぁ……。
気が重い。そんな、ただでさえデスペナで怠い体に鞭を打ち、引き摺るような重い足取りで、俺は街を彷徨う。
……しかし、何だ……? 教会で何かやっているのか?
こぞって同じ方向へと向かっていくNPCを追った視線の先……教会の入り口から伸びる長蛇の列。その全てが、NPCだ。
理由が非常に気にはなるが……それを聞きに行く度胸が俺にはない。ただでさえプレイヤーとNPCが険悪な状態になっているってのに、どこぞの大規模ギルドがまたぞろこの町で問題を起こしまくってくれやがりました所為で……はぁ・・・…。
「っと……ここ、か……」
後ろ髪を引かれつつも、その肩身の狭さにそそくさとその場を後にしようとした所為で、目的の場所を素通りしかけちまったよ。
――ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……――
おおぉうっ!? 緊張が! 緊張がぁあああっ!! って、ええぇい! ままよっ!!
「ご……ごめんくださぁ~い……」
心の勢いとは裏腹に、そぉ~と店内へと足を踏み入れる俺。ヘタレと言うなし! 寧ろ、ヘタレるのはこれからだ!!
そう、そこで俺は……たじろぐ。
「うっ!?」
ずんぐりと小柄ながらも肩幅の広い筋肉質なガタイ。火に焼けた褐色の肌に、たっぷりと髭を蓄えたごつい顔。見るからに頑固さの窺える鋭い眼光が“ギンッ”と俺を睨めつけた。
こっわ!? やっぱNPCの職人ドワーフ、こっわぁあああっ!!
「あん? オメェ~……『転生者』か?」
「あ~……すまない。迷惑だったら、すぐに出ていく」
元からやらかしていた連中はいたんだが、前のイベントでそうとは知らずに多くのプレイヤーがやらかしちまったもんだから、NPCのプレイヤーに対する心象は、一部の者を除いて最悪に……。
その鬱憤もあってかそのままやらかし続けちまった連中があまりにも多過ぎちまったせいもあって、NPCの施設からは半ば出禁に近い扱いを受けている今日この頃。それでも、この状況に耐え難きを耐え、忍び難きを忍びて慎ましやかに活動しているプレイヤーも一定数いるんだ。かくいう俺もそう。
とはいえ、ギルド:白の騎士団のメンバーのように国に貢献して、大々的に国民へとその顔が知れ渡っているような特殊な例を除いて、他のプレイヤーがどういった奴かなんて分かりゃしないだろうから、一派一絡げた悪印象で扱われてしまうのも仕方ないことなんだろうなぁ……。
分かっている。分かってはいるんだが……つらたん。
「…………………………」
“ジィーーー”と無言の眼差しで俺を見つめてくるおっちゃん。
いやぁ~~ん、照れるわぁ……なんて、口に出せる度胸が俺にあろうはずないやん!
寧ろ、蛇に睨まれた蛙状態。脂汗、ダラッダラよ!?
そんな、息が詰まるような緊迫感は……唐突に霧散した。
“ニカッ”と先程までとは打って変わった気の良い笑顔を浮かべたおっちゃんは……。
「どうやらまともな兄ちゃんみてぇじゃねぇか! いやぁ~、すまんしまん、歓迎するぜ! ゆっくり見ていってくれや!!」
と、その態度を軟化させたんだ。
うん、今の俺ってきっと……すっげぇアホ面晒してるだろうなぁ……。
って、いやいやいやいや、待て待て待て待て!? これって……どゆこと?
まともな、とか言ってたよな? それって……やらかしてないってことか……?
「え~と……そういうの、分かるんですか?」
「ん? ああ、実はな……」
聞くところによれば、海魔の襲来が終息すると同時に『森守のルトヴェリス』から、とあるアイテムがこの町を治める人の所へと届けられたんだそうな。
で、そのアイテムってのが触れた者にプレイヤーの悪徳度合? を見て取れるスキルを授ける宝珠で、現在教会に置かれて順次スキルの授与が行われているんだとか……。
うん……あれか……。
奇しくも、ここで気になっていた長蛇の列の件が知れたわけなんだけど、さ?
そんなアイテムあるんなら、もっと早く出してよ運営ぃぃ……と、怨み言を零したくなったんだけど、どうもおかしい。
て……え? マジ!? そんなん……可能なの……?
話を聞いて、正直信じられなかったよ。
ただ、まあ……よくよく考えてみると、そもそもアイテム使ってってのもおかしいしなぁ……マジかぁ……。
そんな驚きとも呆れとも取れる真実を知った俺だけど、現状を少しずつでも好転していってくれるであろうこのアイテムが……追い打ちざまぁ!! のために作られたのだという真相など知る由もなかったのであった。
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