log in - 113 Xデー、迫る。
◇◆◇◆◇
<某日某所……>
「夜の波打ち際。突きの明かりに照らされて……君と2人。……って、相手がお前じゃなぁ……」
「そりゃ、こっちのセリフだって……」
「「はぁ~~~~~……」」
波の音と共に、重い溜息が重なる。本当なら、今頃は意中の『転生者』と……と、無念も重なる。
「それにしても、さ? 何でお前、俺が誘った娘の知り合いを連れてくるかなぁ?」
「それも、こっちのセリフだよ!」
「「はぁ~~~~~……」」
再び重なる溜息。波の音が、嘲笑うかの様にその揺曳を呑み込んでいく。
まあ、さもありなん。出会ったばかりの男よりも女の友情? が勝った結果、彼等は見事に放置されてしまったのだ。
「くそっ! 湖の……バカヤロー~~~~~っ!!」
“……………ザッバァ~~~~~ンンッ”
「って、何だぁあああああっ!?」
「湖が怒ったんじゃな……って、マジで変なモンが出てんじゃんか!?」
突然、波打ち際に浮かび上がった影。月の明かりに照らし出される……気が狂いそうな怪異?
ゆっくりと男達へと向かって、ソレは湖より上がってくる。さながら、深淵から這い上がって来るかの様に……。
「モンスター……だよ、な? 正気か、運営。あんなモンを出してくるなんて……うぷっ」
「ああ……SAN値がゴリゴリ削られていく気がする、ぞ……って、上がって来るぞ!? さっさと仕留めちまおう!」
あまりの悍ましさに慄きつつも、2人はどうにか武器を構え……足を〝一歩〟踏み出した。
だが、それは既に……遅きに失していた。
“ヌチャリッ”
「んな!? 何、だ……? 黒い……水? って、くっさぁ~~~~~っ!?」
足元に広がる黒い汚水。それは、吐き気を催す悪臭を放ちながら、砂浜を静かに侵蝕していた。
「おい! さっさと斃しちま「かぺっ!?」う……ぞ……?」
不意に、相方から発せられた……奇声。
恐る恐る振り向く男は……目にする。
「くきゃきゃきゃ、窓に!? 窓にぃいいい!?」
「くきゃきゃきゃ、$BAk$K!*!)!!Ak$K$#$$$$$$!*!)」
正気を失い、言葉にならない叫びを上げる相方を……。
「お、おい!? 何し、ぐっ!? これ、は……毒? それ、に……麻痺、だと……? んな!? 石化の、侵蝕? 嘘、だろ……? ひっ!? 来るな! 来るなぁあああああっ!!」
「ま~どにぃ……まぁ~どにぃ……」
「$B$^!A$I$K$#!D!D$^$!!A$I$K$#!D!D」
不気味な声を紡ぎながら、迫り来る……怪異。
そこで、彼の意識は……昏い深淵へと沈んだ。
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<同日某所……>
「う~み~は~ひろい~な~おおき~い~な~……」
とある商船の護衛として乗船した男達。
とはいえ、航行中の船の上では基本待機。つまりは……暇なのだ。
「うん、まあ……うみ、と呼び名がついてはいるが、湖だけどな……」
「そ~れ~は~いわな~い~おやく~そ~く~……」
なので彼等は、持ち込んだビーチチェアに背を預け、トロピカルジュース? 片手にリゾート気分を満喫しているのであった。
その、用意周到ぶりたるや……常習犯、である。
そんな、いつも通りの航海に、今……暗雲が立ち込めようとしていた。
――ズズズゴゴゴゴゴゴォ~~~~~~~~~~……――
“ギギギギギィ~~~~~……ギシギシギシィ~~~~ッ”
「のぉ~~~わぁ~~~~~っ!?」
「うあぉおおおおおぉ~~~~~っ!? ……っとと! な、何事だぁ~~~~~っ!?」
突如、地鳴りのような轟音が響くと共に軋みを上げて大きく揺すられる船体。
その揺れに煽られて、あわや湖面ダイブかという瀬戸際でギリギリ踏み止まった彼等は……目にする。
「嘘……だ、ろ? アレは……深きものども、か……? か、海魔の群れが、押し寄せてきやがる!?」
「湖でも……海魔って言うのか?」
「この、バカちぃ~~~んっ!! お前がそんな小さなことを言うから、大いなる湖様がお怒りになられたに違いないっ!! 謝れ! 湖様に、土下座して謝れぇ~~~いいっ!!」」
「いや、そんなわけ……あるの、か?」
あるわけがない。
もっとも、彼等はわりと真剣にそれによってフラグが立ったのでは? と考えていた。
まったくの無駄である。
そして、それがこの危機的状況から逃れるタイミングを失する原因ともなった。
「って、そんなこと言い合ってる場合じゃねぇよ! 流石にあんな数相手にできるか!! 逃げる、ぞ……って、おいっ!?」
我に返った彼等の視線の先には……。
「うわぁ~……みんな素早いなぁ~……」
ものすごいスピードで遠ざかっていく小舟の数々。
そう……彼等は取り残されていた。
万事休す。為す術もなく彼等は……。
「「うぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~……」」
押し寄せる怪異に呑まれていった。
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<翌日某所……>
「ギョルダルくん……君は、どう見ますか?」
「恐らくは、以前『森守のルトヴェリス』から注意喚起がなされていた古の勢力……で、ありましょうな」
とある一室で向き合う影。
1人は椅子に腰かけ、大きな机の上に肘をついて組んだ手で口元を隠す細身の影。
1人は背筋を伸ばし、腰の後ろで手を組んで直立不動で佇む筋骨隆々な影。
突き合わされるその互いの顔は……魚、であった。
「ふぅ……やはり君もそう見ますか……。だとすると……上陸を許すのは不味そうですねぇ……」
「とはいえ、報告に上がってきた数が確かであるのなら……流石に撃ち漏らしも出るでありましょうなぁ……」
“シャーッ”とブラインドの【魔術】が解かれ、窓の向こうに広がる湖面を眺めながら、2人は深い溜息をついた。
「某としましても、中々に複雑な心境でありますな。聞くところによれば、かの勢力は古のとある神の手でその種の在り方を弄ばれた古き同胞とのこと。無論、無辜の民に大して脅威となるとあらば、全力を以って討ち果たしましょうが……」
それでも、思うところがないわけではないと、彼……海軍の長ギョルダルは、いかんともしがたい心境を醸し出す。それは、対するこの『港町トーレ】を治めるゲンドロウも同じであった。
そして、彼等が気に揉んでいる事柄は、もう1つあった。
「何やら『転生者』達が騒がしいようでもありますし……どうしたものでしょうかねぇ……」
それは、異形の群れに先立って、この街へ次々と押し寄せてくる『転生者』の存在。
既に街のキャパシティを越えていてもなお、その流入は留まりを見せてはいない。その結果、各所で『転生者』絡みの騒動が多発しているのだ。
「問題を起こす輩は頭の痛いところですが、他は放っておけばよいでありましょう。なんせ、彼等は……死にませんからなぁ……」
「ふむ、その心は?」
「放っておいても、討ち漏らして上陸を許してしまった海魔への……よい肉壁となってくれることでありましょう」
身も蓋もなく“バッサリ”とそう断じるギョルダルに、一瞬呆気に取られたゲンドロウは……。
「くくくくく……ふははははは……はぁ~~~っはっはっはっ! 違いないっ!!」
腹を抱えて大笑いしながら同意を示した。
「散々迷惑をかけてくれているのです。その者達への償い。言葉通り……命を賭してして頂くとしましょうぞ」
決戦の時は……間近に迫っていた。
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