log in - 112 旗が立つ。
◇◆◇◆◇
「ふむ? 武装の製造、配備共に一段落ついたか……」
現在ギルドに所属するメンバーに対して、必要となる装備が一通り行き渡ったようだ。
元々は、不遇種族と呼ばれて虐げられる『転生者』の互助会的な組織として設立した我がギルドだが……少しばかり調子に乗った感は否めない。
うん、正直に言って、色々とぶっ飛んだ組織になったもんだ。
だが、後悔はしていない!
「と、なると……次はいよいよ、連中に目にもの見せる番なのよね? 何か、そういった場ってあるの?」
赤い髪の小柄な少女……イニスが、その手に持つ棍を“クルン、クルン”と回しながらそうどこか楽しげに問うてくる。
魔術師ビルドなのにも拘らず、普段は近接戦で“ポコ、ポコ”と殴っている殴り魔術師? な『転生者』である。
「それなんですがぁ~、どうも『戦軍のアンバッス』側の湖沿岸部で、正体不明の不気味な生き物の目撃情報が多数寄せられているそうですよぉ~」
明らかに何かが起きそうだと、リリウがゆる~い口調で報告してくる。
緑色がかった長い青髪を揺らして身じろぐも、揺らぐことのない胸部装甲を持つ実に残念な? 槍の名手たる『転生者』である。
こらそこ! とってつけたような説明とか言うなし。
「何が起こるにせよ、『現地人』達にしてみれば堪ったものではないだろうがな……」
「「あぁ~……」」
そう、この2人は……真実を知る者でもある。
ギルド内でも、ソレを知る者は僅か数名のみ。まあ、都市伝説に興味を持つ者は多かれど、実際にソレを受け入れられる者はそう多くはないだろうしな……。
それこそ、ソレに深くかかわってしまったか、或いは直面した者でもなければ明かせまいて……。
“ピピピッピピピッピピピッピピピッピッ、ピーッピーッピーッピーッピーッピーッ……”
<メーデー、メーデー、メーデー……『戦軍のアンバッス』が『港町トーレ』に向かって、湖から押し寄せて来る無数の……海魔? が迫っているそうです!>
『…………………………』
俺達は、無言で顔を突き合わす。今、まさにその話題を口にしていた矢先に……これか……。
「これって……フラグが立ったって言うのかしら?」
「そうだな……見事にリリウが立ててくれたな」
「ふえぇ~、わたしですかぁ~!?」
――あ、あの……主様? 行動を起こされなくてもよろしいのでしょうか……?――
リリウを弄る俺達に、スカサハの冷静な言葉が投げかけられる。
2本の短槍を携え、鱗として佇むリザードマンの武人である。
そして、その言……もっともであった。
「では……奴等の度肝を剥きに行くとするか! 総員、戦闘配置につけ!!」
俄かに活気づくホーム内。
セレスティアが、マーメイドが……。
レイスが、ヴァンパイアが……。
そして、グラットが……。
不遇種族と蔑まれ、虐げられてきた者達が……闘志に胸を滾らせる。
不遇と呼ばれる元凶から解放された彼等彼女等に、最早憂いなど一欠けらも残されてはいない。
その顔に浮かぶのは……“ニヤリ”とどこか意地の悪い笑みばかり。
うん、まあ……分かる。分かりはするんだが……何だかなぁ……。
そんな呆れを振り払うように、俺は声を張り上げる。
「機関、始動っ!!」
“ヒュイィーーーーーン”という音と共に“ゴゴゴゴゴゴゴゴ……”と僅かな揺れを感じること数拍。不意に、エレベーターに乗っているかの様な違和感を感じ……。
――ゴウゥンッ……ゴウゥウンッ……ゴウゥンッ……ゴウゥウンッ……――
重々しい駆動音を響かせながら、ソレは天へと浮上する。
――ギルド:万魔殿――
そのギルドホームにして、その名を冠する……空中城塞である。
「情報収集を密に、慌てず急がずゆっくりと現場へと赴き……美味しいところを持っていくぞ! パンデモニュウム、微速前“プキィ~~~~~ッ!!”し、ん……」
俺の号令と重なって、足元から張り上がる……奇鳴。
俺は、ジト目を足元の赤いウリ坊へと向ける。
「……プキ?」
おお、ヴァイオレットよ……何してくれる。
イニスとリリウも、これには苦笑を浮かべている。いや、恐らくギルドメンバーは皆一様に浮かべていることであろう。
くっ!? 初陣が、何とも締まらんことに……orz
“ガクリ”と膝をつく俺の心境を置き去りにして、空中城塞は悠々と湖上を進んで行くのであった。
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